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 わずかに降りだしたように思われた表は、いつの間にかすぐに収まったらしい。

 あの人、傘を持たずに出られたみたいだからよかったわ。雨音のしなくなったカーテンの向こうに節子はひと安心した。


 時を超え訪ねてきた計画について詳しい説明がなされるとあって、それぞれの箸は止まり、置かれている。「昭和晩ごはん、普通においしいね、たくみん」「んまい、んまい」若干名を除き。


 邪魔をされるよりはおとなしく食べていてくれるほうが助かる。博は葵と拓海に、なんなら部屋でゲームでもやってていいぞと告げ――ネットがつながらないからいい、と返された――話を進める。


 新型コロナウイルスの強力な抑止力として、現在(もちろん二〇二〇年の話である)、ワクチンと治療薬の開発がそれぞれおこなわれている。まずは前者で感染の拡大を抑え込み、重症化した患者の治療に後者であたる。ワクチンは治療薬よりも比較的、開発がしやすく、世界的な大手の製薬企業はすでに早期実用化にめどをつけている。


 いきおい、治療薬の研究は遅れがちとなる。

 個々の治療よりも広がりの阻止の優先度が高く、また、開発難度もワクチンより高い。

 しかし、コロナによるパンデミックを収束・終息させるには治療薬の獲得が不可欠だ。ワクチンでの予防はけして完全ではない。ウイルスの変異による効果の低下や、接種を拒否する層による感染も懸念される。重篤化や死亡リスクの高い感染症にあらがうには必須のものと考えられている。


 そのなかで有望視される治療薬が「エクリプセ」だ。

 独立行政法人・国立(Cinco)化学工業機構((スィンコ))を中心に研究開発が進められるこの新薬は、新型コロナウイルスの症状の緩和・回復に著しい効果が見込まれている。ワクチン開発では海外に大きなおくれをとっており、国内でのワクチンの普及も同様に遅くなるのではとの予測が出だしているだけに、高い期待が寄せられて「いた」。


「『いた』って、過去形? 研究は中止になったの?」

「もしかして、薬害エイズのような、厚生省の不祥事かなにかか?」


 艾草兄妹の問いに博は、いや、と首を振った。エクリプセの開発には、と続けようとしたところで、横から姪が「暗号がね、すごい難しくて、チート級の頭脳かチート級の漁師さんのパソコンがないと無理でね、あたしたちが転生して昭和に――」と口を挟む。


「葵」伯父が閉口気味にじろりと見る。「おまえはチートだ転生だ言いたいだけだろう」

「邪魔をしないの。あっちで遊んでらっしゃい」

「あたし、ちっちゃい子じゃないしっ」


 隣の千尋にたしなめられて葵は憤慨する。幼児のほうがまだ聞きわけがよくて手がかからない、と博は心中でぼやいた。

 姪の相手は二葉拓海(どうレベル)に任せ、説明を続ける。


「『エクリプセ』の開発は順調だった。が、完成目前の段階で問題が起きた。開発に使用しているAIが小半――」

「AI? へえー、二〇二〇年じゃあ人工知能が薬を作ってるのか」

「AIって、お兄ちゃんに借りてる『ドラゴエIV』のあれ?」

「えっ、バブルに『ドラゴエIV』なんてあんの?」艾草兄妹の横道に加えて、姪のお守を任せ(おしつけ)た拓海までが余計ごとを口にする。「だって昭和ってスーパーファミゴン(スーファゴ)とかの時代だろ? AIとか無理ゲーじゃね?」

「スーファゴの実機あるの? あたし、見たい! バーチャルコンソールのやつしか――」

「葵・拓海・陽子・俺。話が進まんから細かいところに食いつかんでいい」


 うんざりした様子で、過去の自分を含めた若い世代に苦言をていする。

 たらたらやっていると朝までかかるのではないか。博は居間の壁かけ時計をちらり見て《《時刻を確認》》。念のため一応巻いて説明(はなし)をしないとな、とタコのイラストが描かれた缶酎ハイで口もとを湿らせた。

おもしろかったら応援をぜひ。

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