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一     もうひとつの事象

 そんな事態に国の資源(リソース)を振りわけている状況ではなかったのだ。


 新型の感染症が隣国の国内問題にとどまらず、日本を含む周辺国、そしてやがては地球規模へと拡大が始まり、世界は、未曾有のパンデミックに発展するリスクに直面しているのだと認識せざるをえない、そのような状況下で発生してもらっては困る事案だった。


「――本来であれば、順番としては海上保安庁の出動があり、不明船へのしかるべき対処がなされるわけですが、その能力を超える事態に際しては海上警備行動が発令され、それでもなお対処しきれないとなれば、選択肢として治安出動が――」


 春先の四月。

 昼前、公共放送と民放各局――《《テレビ東京含む》》――が官房長官の記者会見を中継し、あるいは特番を組み、その事象を大きく報じていた。

 大々的にテロップへ躍る文言は『初の防衛出動』。


 この日、一日(ついたち)は、日本では新年度の初めであり、今年は新型コロナウイルスの出現によって例年以上に多忙を極めるさかなにあった。

 年度の初頭は、外国勢力に島嶼へ上陸してもらうのはいささか適しておらず――適している時期があるのかはさておいて――また、西洋各国のように、エイプリルフールの一貫ではと見る向きがないでもなかった。


 未明に発生した尖閣諸島・大正島における外国勢力と見られる武装組織の侵攻事案に際し、政府に緊張が走った。

 防衛省トップをはじめとする各省庁の閣僚・幹部が緊急に招集され、与党の閣議決定後、(日本政府としてはめずらしく)速やかに防衛出動が発令。陸上自衛隊の特殊部隊「特殊作戦群」が島へ投入され、小一時間の交戦ののち敵勢力を制圧した。


 無人の小さな孤島であることから民間の犠牲者を出すことなく戦闘は終結し、当日の午前には、軍事的・地政学的に比較的重要でない島がなぜ侵攻を受けたのかなどの、種々の疑問に関心が集まっていた。


 島へ上陸した武装組織の国籍がまもなく浮上すると、ネット上を中心に当該国への非難が吹き荒れる。一部では『◯×人許さん』『不買運動しようぜ』『旗を燃やせ』『報復攻撃しろ』『よろしい、ならば戦争(クリーク)だ』といった過激な声があがり、政府はことをあらだてないよう躍起に火消しへまわった。

 当時は、近づく東京オリンピックの開催に向けて面倒ごとは避けたかったのと、コロナへの対応で政治的な衝突にかまけている場合ではなかったことが主な理由だが、そもそも揉めごとを好む政府はあまりない。


 当該国も初めはいっさいの関与を否定するも、押収された装備品などさまざまの証拠があがると、一転して、部隊の一部による暴走であり政府や軍の指示はなかった、関係者は全員処罰したとの声明。両国間で互いに遺憾の意を表明しつつ強引な幕引きが図られ、移り気な世間の目はコロナウイルスやマスクの二枚配布などへそれ、事態は沈静化・収束へと向かっていった。その最中だった。


 それが起こったのは。

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