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一     バブル25!!!!!

 《《また》》悲鳴。


 平成(こちら)に来て何度目だ。

 《《いつも》》とトーンが異なるようだが、今度はこっちのなにに驚いているのか。艾草(もぐさ)(ひろし)は閉口気味に早足で――もう走る気にもならない――(あおい)の八畳間に向かい、GかNか、軍曹なら優秀なGハンターだ、と小言をたれようとして、


「朝っぱらから騒々し――」


 閉口に対する皿のごとき開眼でもって固まる。姪の仮住まいに棒立ちの陽子(ようこ)をみとめて察した。やらかしたと。

 座り込む葵と二葉(ふたば)拓海(たくみ)、両名が背後に隠すものは、もはや手遅れだと。閉口に代わる鼻から嘆息。


「今朝はなんだ。アレかネズミか」


 自分と同じことを言ってやってきた(じぶん)へ、妹は訴えた。


「お兄チャン、このコたち、なんか《《モノスゴイもの持ってる》》!」

「モノスゴイもの?」

「テレビ!」オウム返しの兄に、彼女は指さしで騒ぎたてる。「ポータブルテレビみたいに小さいテレビ! あの薄型トランシーバーみたいなヤツ!」

「薄型トランシーバー? こないだ喫茶店(サテン)で使ってたヤツか?」

「そう、ソレ!」

「ありゃア、トランシーバーだったろ。ダイヤルもスイッチもついてなくて妙なつくりだったが」

「アレに似てるケド、アレとは別の機械っ。テレビだった! 画面がスゴく小さいのっ」

「そりゃア、ポータブルテレビなら小さいだろう」

「そうじゃなくて、こまかいのっ。小さいのに画面がモノスゴイこまかかった」


 よくワカらんな、と兄は響かず、陽子はもどかしげに手のひらを彼らへ差し出す。「出してっ、未来のポータブルテレビ!」

 荒ぶる女子中学生に、もう一名のJCおよび若者は当惑し、リーダーを頼る。


「おじさん、どうしよ」

「ポータブルつっても、P5Pとか持ってねーけど?」


 しがらみを払うように彼らへ首を振る。如才だらけの己のこと。いずれこうなるのではとの予感はあった。

 しょうがない、とポケットから機器を取り出す。陽子が「この前のトランシーバー!」と指をさす。


「スマートフォン、通称・スマホ。二〇二〇年じゃあ、こいつらから年寄りの一部まで、誰でも持ってる情報端末だ」


 平成(バブル)の兄妹に向けた画面を点灯させる。


「ウオッ!?」

「エッ、ナニコレ!?」


 絵が出てきたぞ!写真みたいにキレイ!とふたりは仰天。初めてテレビを目にした昭和の人間か、と博はなえる。隠しとおすもくろみがついえたことにも。


「こいつはちょっとした〝持ち運び可能なPC〟だ。さまざまなソフトウェアをインストールでき、たいがいはこれひとつでまにあう」


 操作してみせると「絵が動いた!」「触ると動くのか!?」大騒ぎ。だから初めて映像を見た原始人か。


「なんでママ、びっくりしてんの?」

「知らね」


 見上げる二名は、驚嘆の二名をぼけっと評する。発端は、この〇〇(ゼロ)年代コンビにバブル時代の教材を与えたところにあった。


 朝食後、この時代について知りたいと、柄にもなく殊勝なことを言ってきた拓海。どういう風の吹きまわしだといぶかりつつも、葵も興味を示し食いつき、もともと彼ら用に用意していて失念していた映画をちょうどいい機会と与えたのが運のつき。今日から夏休みに入っていた陽子が在宅であることもついでに忘れ、無防備に視聴させた結果、ここにいたる。

 普段なら出勤している時間帯の(おのれ)は「今日は少しゆっくりしてて出るのが遅くなったが、こんなモン見ちまったらバイトなんかブッチだブッチ」と無断欠勤を宣言。だから五回もクビになるんだ。無軌道だった自分に脳を痛める。


「ママたちにスマホとか見せてもいいの?」

「謎の縛りプレイ、終了でおk?」

「しかたがない。こいつらだけだ。ほかの人間には引き続きNGだ」


 オッケー、とひと安心するふたりは、背の裏に隠した端末を解放。平成がわのふたりは、津々の興味を顔いっぱいにたたえて覗き込み、座り込む。


「スッゴイ……。未来じゃ、こんな薄っぺらいブラウン管がデキちゃうんだ」

「バカ、こりゃきっと液晶だ。しっかし、GameGoIt(ゲームゴーイ)から三十年でココまで進化するとはな」

「ママたちの昭和スマホはもっとショボいの?」

「こんなモノ、あるワケないでしょ!」

「なわけないじゃん。スマホなしでどうやって暮らすの」

「無理ゲーで草」


 笑って受け流す姪たち。彼らの哲学では思いもよらない時代がここなのだと、博はハムレとる。


「スマホを見られちまったついでだ。〇〇年代なかばと少々古いが、二十一世紀の紹介も兼ねていっしょに見ろ」

「えっ、ママと昭和のおじさんも見ていいの?」

「見るって、ナニを?」


 令和の兄と娘を交互に見やる母親に、葵は『バブル25!!!!!』って映画、肥後末涼午がバブルに行くってやつ、とデバイスを操作。


「ヒゴ、誰?」

「え、ママ知らないの? ネットとか見ないの?」

「パソコン通信なら使ってますケドっ」

「絵のないやつでしょ。だからだよ、知らないの」

「フツーはグラフィックなんかありませんっ。アタシ、たいていのドラマはチェックしてるケド、そんな名前のヒト、聞い――ワッ、お兄チャン見て! ホラ、テレビ!」


 兄の袖を引き画面をつつく。ちょっ、勝手にタップしないでよ、との娘の抗議にかまわず、母親はきゃあきゃあ大興奮。


「こんなちっちゃいのにウチの大型テレビよりもキレイだなんて、どーなってんの??」

「この映画、FHDじゃないっぽいから、あんま画質よくないよ?」

「画質がよくないだって? 標準の録画ビデオよりスゴイぞ」

「平成博さん、なんかマウントとれそうな感じで草生える」


 そんなまねは、念のため持ってきた五百五十度まで加熱できる半田ごてが許さんが?

 髪だけスーパーヤサイ人は、年長者の殺気を感じて「いやー、クッソ高画質、高画質。25K超えてるわー」即座に迎合。長生きできるタイプなのかできないタイプなのか。わかりにくい奴だ。


「アッ、このヒト、このテレビみたいなヤツを使って話してる!」

「これ、スマホじゃなくてガラケーだよ?」

「がらけー?」

「死ぬほどクッソ古ぃタイプな。電話しかできねーの」


 できるわ。多少は。


「じゃあ、このテレビってテレビ電話にもなるワケ! スッゴイ、ミライってカンジ……!」

「ママ、いちいちびっくりしてておもしろすぎ」

「昭和のギャグじゃね?」


 ねえよ、そんなもの。

 このふたりだって、二〇五〇年から来た人間に三十年後の超絶テクノロジーを見せつけられたら、〝令和ギャグ〟を披露することになろう。


「アッ、知ってるヒト出てきた! ウッソォ、ヤダァ、オバンになっちゃってるゥ」

「ゴヴァ?」

「あと、どーでもイイケドサ、この主役っぽいヒトの服装、チョット変わってない?」

「うん、まあメイクとか普通にありえないほど古いね」

「ナニィ、長銀がツブれるだア!?」

「博さん、突然、謎のスイッチ入ってて笑う」


 なんなら拓銀もつぶれるぞ。

 そのような調子で、わいわい、きゃっきゃと、タイムトラベル映画『バブル25!!!!!』の鑑賞会は続くのであった。

【12/25の最終話公開まで毎日2話 投稿中】


おもしろかったら応援をぜひ。

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