十 どうしようもないもの
あわせる顔がない相手と面と向かい、
「あさって、ひとりで家に?」
博は不快感をあらわにする。
わずか小一時間、五十分ばかりのちのことだった。
なにか余韻を残して去った相棒は、わりと早く舞い戻ってきた。
「メールを送ったら、ちょうど小半助教授がログインしてて」
捕まってチャットしてるうちに流れで決まって、といつもの澄まし顔に戻った千尋は、淡々と事後報告。先ほどの感傷的ムードなどなかったかの態度で、ほっとするような、ちょびっとムカつくような。
それはさておき、勝手に決めたのと、葵と陽子を同伴させる腹づもりでいたのが狂ったのとでおもしろくない。
博の異に千尋は、賛成しかねる、と首を振る。
「小半助教授の性格的に、多人数で押しかけるのは歓迎されない。あさっての『ナゴヤ』をいっしょに見ようと誘われてるんだけど、葵が三十分もおとなしくできると思う?」
無理だな。
塗りがどうのデザがこうのいちゃもんをつけて、助教授の神経を逆なでするのが目にみえる。
「というかそんな時間に行くのか?」
ワンテンポ遅れてそこに驚く。いくら日が長い季節とはいえ、『ナゴヤ』の放送時間はさすがに暗くなっている。
「女性が女性の家に行くんだし、いいでしょ」
「しかし、知りあってまもないのに、いきなり夜、遊びに行くというのは少々、非常識じゃあ……」
「モグさんが常識を語るとは」
難色にツッコミ返される。
「年じゅう、ぶらぶらしてる誰かと違って、助教授は仕事をしてるの、平日の昼間は家にいないの」
さらに追い打ち。がらでもないことを言うべきではなかった。
まあ、たしかに、誘ってきたのは助教授のほうからであり、気にするところではないのだが。しかし、やはり葵たちの同行がないというのは。
「こないだのように私があの子についてあげるのはわかるとして、その逆、あの子を私につけるっていうのがいまいち」
葵の手助けが必要なほど焼きはまわっていないけど、と千尋はばっさり。あけすけにすぎる言いようだが、事実なのでしょうがない。
「せっかく得た親交なんだ。なにかの場合に備えて、葵もコミュニケーションを深めておくのは損じゃない」
「なにか、って、私が死んじゃうとか?」
極論をさらっと持ち出す奴だな。
「陽子さんはともかく、葵が私のバックアップってのは名誉毀損も同然ね」
言ってるおまえもたいがいだろう。よそさまの姪をつかまえて言いたい放題を。まったく否定できないのが伯父として悲しいが。
「対応できる女勢は限られる。俺たち野郎では替えがきかない」
「それにしたって」
まだ不服そうな千尋は、とにかく、と改めての主張。
「今回は私ひとりで行く。複数人だと助教授のガードが固くなるし、葵は特にぼろを出しかねない」
一理あるというか理しかない。陽子はともかく葵を推す理由が弱すぎ、博は渋い顔でひきさがる。あいつがもうちょっとしっかりしてくれてれば――もうちょっとどころじゃないか。どうにもならないものを考えるのはよそう。
「チートスキルでもゲットできないかぎり絶対、はかないしっ」
子供部屋からきゃいきゃい騒ぎ声が聞こえてきて、頭痛が痛んだ。
【12/25の最終話公開まで毎日2話 投稿中】
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