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六     アニメじゃない!

「ちょっ、ブルマなんだけど!」


 ふたりはひっくり返らんばかりに声をあげた。


 実家(いえ)と国道のちょうど中間、宅地と商業エリアの境目辺りにある、区立丘谷中学校。そのグラウンドに差しかかったときのことだった。


 夏休みを目前に午前で授業を終えた校庭には、部活動の生徒たちが駆け、ボールを追っていた。彼らのうちの半数、女子生徒の服装に、少女と青年は度肝を抜かれる。


「待って待って、なんでみんなブルマ?」

「コスプレ? この学校、今、コスプレイベントでもやってんの??」


 コミケじゃあるまいし、このクソ暑いなか、そんなもんひらいているわけがなかろう。

 フェンスに食らいつく〇〇年代生まれに、博はげんなり。だから出すな、スマホを。


「え、だって女子全員ブルマとか意味わかんないし」

「アニメ? オレらアニメの世界線的なやつに来てたりする?」


 しねえよ。だからしまえ、撮るな。


 妙なモノをかかげ妙な音を鳴らしてきゃあきゃあ騒ぐふたりに、グラウンド端の生徒らはなにごとかといぶかしがる。二〇二〇年ならとっくに通報されているぞ。


「あっ! あたしのスマホ!」

「博さんっ、オレは悪用するつもりは」


 両名の手もとから情報端末を没収し校門へ向かう。いや悪用ってなんだよ。こいつのは全部消しておこう。



 正門をくぐり校舎わきをゆく。最短ルートで校庭をめざす伯父に葵たちは心配する。


「大丈夫なの? 職員室とかで許可とってなくない?」

「不審者が入ってきたぞ、って通報されね?」


 おまえらに言われたくないわ。


 弁当渡してすぐ帰るだけだ、と博はとりあわず、校庭へひらけたところで手近の女子生徒に尋ねる。「庭球部の三年生、艾草陽子の保護者なんだが」

 彼女の指さすほうから、ラケットを手にした本人が足早にやってくるところだった。


「チョット、アンタたちっ」


 なんでここにいるの、とじろじろ視線をあびる妹は迷惑げに声をひそめ抗議。まったく空気も状況も読めない令和娘は、昭和もとい平成の母に仰天する。「ママもコスプレしてんの!」


「ハア?」


 眉をたがえる母親に「そんなかっこして恥ずかしくないの??」と娘は青ざめ、


「ええ、今、みんなに見られてて死ぬほどハズかしいンですケドっ」


 ナニしに来たの、と陽子はぴきぴき青すじをたてる。とっとと退散しないとボールの代わりに(はた)かれそうだ。


 忘れものだ、と右腕を突き出す兄に、アッ、と妹は声をあげ受けとる。「アリガト……」

 一瞬、みせたしおらしさをすぐに引っ込め「じゃア、用が済ンだらさっさと帰ってちょうだい」彼女はちらちら周りを気にしつつ、追っぱらおうとする。言われなくともそうする。ひそひそささやかれて、あまり居心地のいいものではないし「ブルマ陽子さんヤバすぎでヤベえ」アレな語彙がアレするバカを、一刻も早く妹から引き離したい。

 スマートフォンを持たせたままだったら、環視のこの場でも平気で取り出しかねない二名、二〇年コンビを連れて引きあげようとしたときだった。


「ヨーコ君の(うち)の人?」


 艾草兄妹が、硬直する。


「とっ、遠野(とおの)クン!」


 あたふたと振り返る陽子へ、如才なさげにテニスラケットを持つ男子生徒が、笑んだ。

おもしろかったら応援をぜひ。

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