三十一 フランとプランF
やりかねないのが、とうとうやらかした。
席の《《四人》》は目をみひらき固まる――ひとりだけ別の世界に入りびたる者を除いて。「やべえ、レスカに角砂糖ブチ込んだらクソうますぎ大草原」
テーブル上の携帯端末からは、こわばる声が伝わる。
『ちょっとごめん。今、なんて?』
驚異と脅威の入り交じる音声が感染したかのように、対コロナメンバーにも一様の陽性反応が広がる。今度こそ、詰んだ。
『えっ、だからママと助教授ばっかナゴヤの話してて暇だし、プリン最強モード、もっと食べたいな、って』
ダメ押し。
新型コロナで伏せっているところを、太陽コロナの百万度で灼くようなオーバーキル。博は頭の頭痛を痛める。
こんなことなら、いらぬ口をひらかぬよう、プリン・ア・ラ・モードの五つや六つや七つぐらい、腹がはちきれるまで食わせとけばよかった、というか、陽子への選手交代で引っ込めさせるべきだった――いや、離席するのは不自然か。
なんにせよ、今さらだ。
『……………』
『あれ? どしたの?』
『どしたのじゃないでしょっ』
端末の向こう、離れた席のぴりつく空気にあてられてか、瞬間、くだった天啓を博は口走る。「そうか……、そうだ……。〝《《フラン》》〟《《は小半助教授じゃなかった》》……?」
「うん?」「えぇ?」「ハア?」「わかる、オレも思った思った」
ここにきて、やにわに打ちたてられる新説。
メンバーは一様に当惑――おべっかをつかう一名を除いて――した。
「つまりだ、ここにいる〝フラン〟は小半助教授ではない〝別のフラン〟だ。そうすればすべてのつじつまがあう――かどうかはわからんが、事態はまるくおさまるから、そういうことにしないか」
よくいえば斬新、悪くいえば脈絡のない、発想。
リーダーの力説は実に苦しまぎれで、ひかえめにいって聞くに耐えるしろものでなし。
「モグさんはなにを言っているんだ?」「さすがに現実逃避乙と言わざるをえない」「アタマ、バグっちまったのかよ、俺?」「イミフすぎで草生える」
いわゆるフルボッコにあうが、それもやむなしのトンデモを吐いたと自身でも思った。速攻の手のひら返しでもって笑いとばすコウモリ男にはちょっとイラっとしたが。
『コレ、どうしよう、お兄チャン』
平気で端末越しに会話してくる葵と異なり、博たちの席への発言禁止を厳守していた陽子も、これにはたまらず白旗。ひそひそ声で救難信号を発する。
どうするもこうするもあるものか。そんなもの、こっちが聞きたいほうだ。やりたい放題、しゃべる砲台が放つ大砲の直撃を受けて計画は死に体、ほうほうのていで撤退したいほうだと。
ソフトランディングはもはや無理だ。
博は、鍵の入手にはハードランディングを辞さない覚悟がいるようだ、と腹を決める。「正攻ルートは破綻。〝プランF〟に移行を――」
苦渋の決断を――「待った」しかし、さえぎる者があった。
「あきらめるのはまだ早い」
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