表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/125

二十七

 博とほか五人は――いや、四人か――ひやひやもので、机上の端末を見守った。

 空気を読まない、葵のマイペースぶりに、いつ、フラン=小半助教授がつきあいきれなくなり帰ってしまわないかと。――ひとりだけ、ふーん、とひとごとのように炭酸飲料を飲み干す者もいるが。


「すんませーん、おねえさん、注文いい?」


 こちらの席にもいる空気を読まない奴に、自重しろ、と博はにらみつける。


「だって、全部飲んじまったし」


 オレも〝レスカ〟っての飲んでみよ、と場の緊迫感をまるきり共有していない。助教授の代わりにこいつが帰ってくれないだろうか。博は鼻からため息をつき、携帯端末を注視した。


 話題は、〝ナゴヤ〟に対する葵の関心について確かめようとの流れになっていた。怪しい雲ゆきだ。


『今週の放送? 昨日だっけ? ――あ、おととい? いちおう見たよ? 見た見た』


 なんだ、いちおうって。


『ほんとにナゴヤ、好きだってば。――あたし書いたっけ、そんなメール』


 覚えてないのか、あの〝しょうがなくかいたwwwww〟を。

 手直ししなかった己にも非があるが、と忸怩(じくじ)の歯噛み。


『えー……好きな回、ね……。なんだっけ――好きな回ってかトラウマ回あるよね、ほら、あれ、フィフスって人が死ぬやつ』

「おいやめろっ」思わず博は口を挟んだ。

『え、なんで?』

「こっちに返事をするなっ」


 まずい。フランの問いかけが、こんこんと湧き出る混乱・困惑に染まっていく。


『――えっ? だからあのキャラ。毒ガスの部屋に閉じ込められちゃう、みんなのトラウマ』

「それは十五話だ! まだ放送してないっ」

『うそ、マジで? やばっ』

「だからこっちに話しかけるなっ」


 だめだ。完全にぐだぐだだ。


 悪手に次ぐ悪手。絵に描いたように崖を転がり落ちていく。さすがだ、葵。していなかった期待どおりに、ある意味、みごとなまでにこたえてくれた。

 博は、組んだ両手に額をつき、口から深くため息を吐き出す。「終わりだ」


 もとから無理しかない計画だったのだ。たまたま、奇跡に次ぐ奇跡続きでここまでこぎつけてきたが、その(ツキ)もついに尽きついえた。すべてはリーダーたる己の不徳によるもの。

 こうなった以上は――


「貸して、未来のお兄チャンっ」


 唐突に、陽子が左手を差し出した。「小さいトランシーバー。アタシがなんとかする」


 あっけにとられ、身を乗り出す妹に博は瞬く。

 たしかに、葵がやらかしそうになったときは直接、サポートに行く手はずになっている。しかし、想定以上のスピードで、みるまに詰んだこの局面を、中学生の陽子にリカバーできるのか。

 半信半疑にも満たない〝信〟に操られるように、博はズボンのポケットを探る。ワイヤレスイヤホンのケースをあけ、ペアの残りのほうを渡す。


「どうやってつけるの、コレ?」

「ああ、それは反対がわだ。右耳用だ」左用は葵が使っている。


「ヘエー、左右があるンだ――ワッ、トランシーバーがしゃべった!」ブルーなんとかが接続しましたとか充電は百パーセントですとか言ってる、と陽子は興奮気味だ。「スッゴイ未来ってカンジ」


 アー、アー、とマイクテストをし、置かれた博の端末が発する音声に、ちゃんと声がする、と感動。「イヤホンだけなのにどうして声が伝わるの? フッシギ」


 テンションがあがるのはけっこうだが、この、失速し急降下するメーデー状態を持ちなおす算段はあるのか。


「わかンない」浮いた足を地につけ、少女は引き締めなおす。「でも、アタシはあのコのお母さんなんでしょ? 子供のセキニンは親がとらなきゃ」


 なんとかしてみせる、と陽子は席をたつ。決然とたちむかう女子中学生の背中に、大人たちは一縷(いちる)の望みを託す。途切れようとしている奇跡の連続をつないでくれと。


「うわ、酸っぱ! 〝レスカ〟クッソ酸っぱ!」


 いっぽう、バカはひとり興じていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ