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九     べ、べつにあんたのためじゃないんだから!

 懲らしめで床上に伸びていた拓海が目をあけた。


「あ、拓海(たくみん)が転生した」


 半身を起こすと、座卓の不藁と葵、作業机の博と千尋の視線が集まる。


「ねえねえ、最強になった?」


 ラノベ脳がなにか言っているがいつものことなのでスルーし、その伯父の様子をうかがった。


「みんなからだいたい聞いた。タイムマシンのことを全部話してくれたそうだな」


 このどこでもバックドアが、とじろりねめつけられて拓海は軽くのけぞる。幸い、半田ごては手にしていなかった。


 拓海の漏洩力を非難するものの、博自身にも落ち度はあった。


 時空を超えて送った猫が出現する予定の日時・場所は早朝の庭先で、まず誰にも見られないだろうとの憶測をいだき、前日に集まりをひらいてしまったこと。

 したたかに酔って、全員を帰す算段でいたのも失念したこと。

 飲んでなめらかになった舌で「『妖精さん』の口車に乗せられてかわいそうなことをしてしまった……」とうっかりつぶやき、記憶力が悪いくせにこういう話だけは拓海がよく覚えていたこと。

 その拓海が、帰ったと思っていたら実はソファーの後ろで寝ていて、庭先に向かってアディオスと会話する様子から実験成功の現場までまるまる目撃されてしまったこと。

 いくつもの不運とミスが重なった逆ミラクルだが、最大の過ちは、拓海に事情を話したことだ。


 好奇心が強くおしゃべりな拓海だ、へたに隠せば詮索されて話が広まる、それよりは口外しない約束のうえで、ことの重大性も含めすべてを話して聞かせたほうが、口止めできるのでは、と。こいつも一応、曲がりなりにも社会人の端くれだ、責任感のかけらぐらいはあるだろう――そう判断した先日の自分を、今は、ぶん殴りにタイムマシンで飛びたいぐらいだった。


 話したくてうずうずした拓海は、葵に思わせぶりな態度で秘密をちらつかせ、ねだられてあっさり暴露。博さんにぶっ殺されるから絶対黙ってろよと念を押すも、仲間内でどこでもバックドアの双璧をなす葵には無理な相談で、これまたあっさり千尋と不藁に漏洩。

 幸い、大人ふたりがそこで拡散を止め、葵にも釘を刺したためことなきをえたが、グループ内には瞬くまに知れわたっていた。


「なんだよ、千尋さんも不藁さんも知ってたのか。オレ、葵と一生懸命、知らないふりして暗号を解くそぶりをしてたのがバカみたいじゃん」


 さして悪びれた様子のないその口をやはり数百度の高温で焼きふさいだほうがいいだろうか、と博は、真っ黄色の頭をにらみつけ机上の電子工作用具を手探りした。

 が、その手は、葵の「あー、タイムトラベル、楽しみすぎ」との嬉々とした言葉でぴたりと止まる。


「もうこれラノベの世界じゃない? 大昔に行って未来のスマホで無双するなんて」


 タイムマシンで昭和に行ったら令和スマホが昭和スマホよりチートすぎて瞬殺するようです、などとうきうきの姪に、おい、と博は仰天した。


「誰がおまえを連れていくと言った?」

「え、あたしだけじゃないよ? 《《みんなも》》行くんでしょ?」


 さも当然のように言う葵ほどではないが、一同は「オレも行ってみてえ。生まれる前の世界を見られるチャンスだかんな」「行くのは九〇年なんだよね? 私の生まれた年だから拓海と同じようなものだし興味深い」「俺はガキのころの時代だな。どうせ今、ひましてるしおもしろそうだ」とその気になっている。

 博は、いやいやいや、と首を振った。


「遊びに行くわけじゃあないんだ」

「わかってるよ。パス、ゲットするのあたしも手伝うから」

「オレもオレも」

「拓海の話じゃ、モグさんも具体的な策はまだなんでしょ? ひとりで行くよりずっといいって。私はIT方面でサポートできるし」

「なら俺は実力行使関係だな」


 不藁が、自慢の筋肉を誇示してみせる。

 百歩譲って千尋と不藁のふたりは戦力になるとしても、葵・拓海(のこりのふたり)は役にたたない。というかどう考えても足手まとい、マイナス要員だ。主に情報漏洩関連で。


「無理だ無理。タイムマシンの特性は聞いているだろう。人数が変われば作り変える必要があるし、数人規模なんてそう簡単に――」

「できるよ」


 工作途中のドライヤーを振る博を、彼にしか聞こえない声が否定した。アディオスだ。

 博は左手がわの宙空を見やる。ほかのメンバー四人も、妖精さんそこにいるんだ、と視線を向けた。


「たしかに、行き来の場所と時間を探しなおすことになるし、ひとりの場合よりも条件は限られるけど、おそらく可能な範囲だよ」

「しかし」

千尋と不藁(おとなふたり)はいいとして、葵と拓海(こどもふたり)は手もとに置いておいたほうがいいんじゃない?」アディオスは、博以外には聞こえないのをいいことに――もっとも聞こえたとしても神様は気にとめないだろうが――口さがない意見を述べる。「彼ら、君がこの時代に留守のあいだ、なにしでかすかわからないよ?」


 なにか楽しげに不安をあおる神の忠言で、子供ふたり(あおいとたくみ)の顔を見た。

 葵は小首をかしげ、なにかしらをアピールするように《《にこ》》と笑んでみせる。拓海はダブルサムズアップと「友情・努力・勝利!」とのかけ声というさらに謎のアピールで許可を求めた。


 一九九〇年(かこ)に連れていってろくでもないことをしでかされるか、二〇二〇年(げんだい)に残して目の届かないところで思いもよらないことをやらかされるか。まさに、これから行こうとしている時代に流行した「究極の選択」だ。


「――毒を食らわば皿まで、か」


 苦々しげな伯父にきょとんとする葵へ「伯父さん、デレたみたいよ」と千尋が意訳した。


「デレてはいないっ」


 声高に否定する博を無視して葵は「やったあー」と歓声をあげ、拓海はうれしげに「かっ、勘違いしないでよね! べ、べつにあんたのために連れていくわけじゃないんだからっ」とテンプレを吐いた。とりあえず奴のふざけた口は焼きふさごう。

 こめかみをひくつかせて博は、最大五百五十度まで加熱可能な電子工作機器をつなげたテーブルタップのスイッチを、入れた。

おもしろかったら応援をぜひ。

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