side 遠山 力
「俺が……勇者?」
「そうじゃ、わらわの眷族が治めるメテカトルという世界に魔王が生まれる兆候があるのじゃ。
自然発生の魔王なら良いんじゃが、邪神が産み出したのなら討伐せねばならん。
しかしな、自然発生の魔王、魔王種までわらわ達神が討伐しておると人々は向上しなくなるのじゃ。」
「それで俺が……俺達が勇者としてメテカトルに行き、魔王を倒して人々を導くということか?」
「……導くのは別に要らんのじゃが、おおむねその通りじゃな。」
俺達5人がカラオケ店に居たところ、急に室内が光輝いたと思うと次の瞬間にはこの金髪ツインテールで、のじゃ喋りをするユノガンドと名乗るツルペタちんまり美少女の前に居た。
そしてこの俺、遠山 力を勇者と呼んだのだ!
「それでじゃな、お主らが良いと言うのならすぐにでもメテカトルに送り込もうと思うとる。
もちろんじゃがお主らがよく言うちーとを授けるからな、安心するがよい。」
「……分かりました、俺達に任せてください!」
物語のような正義の勇者になれる!
そう考えた俺はすぐに了承するが、俺の後ろから叫ぶように拒否の声が出る。
「ちょっと待ってよ! 達って私達の事まで遠山が勝手に決めないで!」
「……なんだ育花、断るのか?」
「当たり前でしょ! 家族が、両親が待ってるのよ? そこの神を名乗る女がどれだけ偉いのか知らないけど、私達を帰して!」
「ううう……なんで、なんで私達ばかりこんなことに!」
「ゆ、優育さんしっかりして!」
「……すまないが彼女達、2人だけは元の世界に帰してくれないか? 彼女達はついこの間に弟さんを亡くしたばかりなんだ。
ご両親もまだまだ憔悴している、そんな中で彼女達まで失えば……頼む!」
そう言ったのは俺と一緒に召喚された遠出 優育、育花姉妹に沓名 有希、岩本 万仁だった。
遠出姉妹は最近弟を亡くして情緒不安定だった、特に姉の優育さんが憔悴しきっていると聞き、昔から世話になっている有希と万仁が元気づけようと集まり、カラオケで騒ごうとしていたところを召喚されたのだ。
正直俺は弟さんの……そう、旅玖君とはあまり会ったことがない。
小学生の頃にお見舞いに有希と万仁に連れられて行ったときに、その青ざめた顔が気味悪く、彼から病院のような臭いがしたために苦手になったからだ。
ただ優育さんには昔からお世話になっているし、正直に言えば美人の優育さんには惚れている、向こうも俺の事を思ってくれているがな。
それで今日もカラオケに参加したのだが……いい加減、弟さんの事はそろそろ忘れれば良いのに、いつまでもウジウジとしてても仕方がないと思うんだ。
有希と万仁にはそれを言ったけど、そうしたらお前は着いてくるな! って言われた。
だが憔悴している優育さんには俺が必要だし、強がりな育花にも俺に惚れているから俺の支えが必要だからな、無理矢理着いていったら召喚されたということだ。
「みんな、メテカトルの人々は俺の、俺達のことが必要なんだと思う。
ここは俺の意見を受け入れて、メテカトルに行き人々を助けよう!」
「……あんたは名声が欲しいだけでしょう。」
俺の言葉に育花が何かをボソッと言う、何時も思うのだが恥ずかしがらずにもっと大きな声でしゃべれば良いのに。
なんにしろ賛同してくれてるのだろうから俺は育花に向き直り、聞き直すことにする。
「ん? 育花、何か言ったか?」
「とにかく、ユノガンド様やメテカトルの人々には悪いが俺達も地球の家族を棄ててホイホイ行くわけにはいかないんだ、理解してくれないだろうか?」
力と育花がここで揉めないように空気を読んだ万仁が一歩前に出てユノガンドにそう言うと、ユノガンドはウンウンうなづきながら答えてくる。
「うむ、尤もじゃな。 だが安心するがよいぞ、魔王を倒すなり確認すれば良い、その後は望めば元の場所の転移した時間に戻してやるからの?
それ以外にもなんぞ望みが有れば叶えてやってもよいな。」
「確認? 倒さなくても良いのですか?」
ユノガンド様の意外な言葉に有希が驚きながら質問をする。
「うむ、先ほども言ったが魔王には邪神が産み出したものと、自然発生したものがあるのじゃが、自然発生したものは出来れば現地の者達、メテカトル者に倒してもらいたいのじゃ。
何故ならば向上心が上がるし魂の各が上がるからの?
じゃが邪神が産み出したのは別じゃ、混乱と破壊しか産み出さんし普通の人間では手に終えないものもおるからの、わらわ達クラスはそうそう出張らんが神々の討伐対象になるのじゃ。」
「それなら良いじゃないか! 地球に戻れるんだし、元の時間に戻れる。 しかもご褒美をもらえるんだ、受けるしかないだろ!」
ユノガンド様の話を聞いてみんなをうながすようにそう言うと、今まで育花や有希に抱かれて静かに泣いていた優育さんが爆発した。
「遠山君は勝手なことばかり言わないで!
それに何、女神様の、あなたの言うご褒美とやらで旅玖を生き返らせて会わせてくれるとでも言うの!?」
「ん? 旅玖とか言うのは弟のことか、生き返らせるのは無理じゃな、死んどらんし。 まぁ会いたければメテカトルに居るか……あ! これ言ったらいかんかった!」
ユノガンド様の爆弾発言に、俺達全員が目を見開き驚くのだった。
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