とりあえず落ち着いて。
「それで旅玖君はなんの病気だったのですか?」
「それがよく分かんないんだ、心臓の病気だろうって先生達は言ってたんだけど……」
ひとしきりジタバタと暴れたドライト様は落ち着きを取り戻してくれて、今は僕の身の上話を聞いてくれていた。
「ちょっと視ますね? ……あ~、これ魔力循環症ですね。
地球だと魔力は大気にあまり無いですし、体内に大量に持ってる人もまれなので謎の病気っと言われているんですよね……大量の魔力が血管を循環してしまい、心臓に負担をかけることで心臓病の症状が出てしまうという病気です、治療方法は何回か魔力を放出しきることですよ。」
「ち、治療方が有るんですか!? なら僕……は死んじゃったんだった。」
治療方法が有ると聞いた旅玖は一瞬喜びかけたが、自分がもう死んでいるのを思いだして気落ちする。
「まぁ、あなたを蘇生させるわけにいきませんが女神どもが迷惑をかけましたし、いくつか簡単な事ならお願いを叶えてあげますよ。」
悲しそうに沈みこんだ僕を見てドライトが可哀想だと思ったのか、そんなことを言ってくる。
それを聞いた僕はパッと顔を上げてドライトを見つめる。
「どんなことでもとは言えませんが、取り合えず言ってみて下さい?」
「じゃ、じゃあお父さんやお母さん達に会いたい……ダメですか?」
願いの途中でドライト様が困ったように見てきたので、この願いはダメだと分かった旅玖は悲しそうにしながらも別の願いにする。
「じゃ、じゃあ……手紙! 家族に手紙を出したいです!」
「お手紙ですね、了解しました!
じゃあ、早速お手紙を書いてください!
あ、書いちゃいけない事とかそちらに記して起きましたので、参考にしてください。」
ドライト様がそうと共にソファーの前にテーブルが現れ、レターセットと何種類かの飲み物やお菓子が出てくる。
そしてドライト様はテレビの前に飛んでいき座布団を置くとそこに座り何かの番組を見始めてしまうのだった。
「……とても幸せでした、だから父さん母さんにお姉ちゃん達も泣かないで下さい。 旅玖より。
書けた……ちゃんと書けたかな? 自分の言いたい事も書けたかな?
ドライト様、これで良い……何を見ているんですか?」
「女神が私から掠め取った勇者のリアルタイム映像です!
とんだ外れのクズ勇者で、女神達が困りきっているんでいい気味だと笑っているんですよ!」
「は、はぁ……どんな方なんですか?」
「天槍のケンと言うクズでして、女を侍らすわ大酒は飲むはのとんだクズあだ!?」
そう言ってドライト様がテレビに映る30代の男性を指差していると、テレビから槍が飛び出してドライト様の頭を殴った、このテレビってどうなってるの?
「な、生意気な! このこのこの!」
そして槍で殴られたドライト様はテレビを力一杯に揺すっている、それでどうにかなる……あ、テレビの中でさっきの男の人と綺麗な女の人達が何人か、倒れてる。
このテレビ、本当にどうなってるの?
「ハァハァハァ、失礼しました。
それではこの手紙は届けておきますね、ついでにどんな反応するかを観てみましょう!」
そう言うとドライト様はリモコンを手に取りテレビに向けるのだった。
「……母さん、先生や他の皆さんに迷惑になる、そろそろ旅玖から離れなさい。」
「あなた! 旅玖はまだ12で、これからだったのに!」
「元々、小学校に上がるまで生きられないと言われていたんだ、旅玖は十分に頑張った。
それに、そろそろ旅玖を楽にしてやろう……」
「あなたぁ……」
「父さん母さん、これからどうするの?」
「……旅玖を家に、連れ帰る。
優育、育花、また苦労をかけるが、もう少しだけ耐えてくれ。」
「父さん、苦労なんかじゃないわ。」
「うん、私達の大切な弟だもの、全然苦労なんかじゃないわ。」
今後の事を話ながら家族が話しているなか、看護師達がテキパキと旅玖から様々な器具や管を外していっている。
するとサイドテーブルを片付けていた看護師の1人が引き出しの中に手紙が置いてあるのに気がつき、家族に手渡す。
「サイドテーブルの奥に入っていました、家族の皆さんにっと書いてありますので……どうぞ。」
「……手紙が?」
看護師に差し出された手紙を母親が受け取ると、ひろげて食い入るように読み始める。
[父さん母さん、優育姉さんに育花姉さんへ。
万が一の事を考えて、この手紙を書き残します。
父さん母さん、それに姉さん達へ、なんと書けばいいのか分からないので最初にこの言葉を書きます。
大好きです、愛しています、そしてとても尊敬しています。
つねに僕達家族を思って守ってくれてる父さん、優しく見守って愛してくれる母さん、大好きです。
いつもニコニコ笑ってくれてた優育姉さん、厳しくも大事にしてくれた育花姉さん、愛してます。
他にも色々と伝えたいことや、書きたいことが有りますが、長くなっても困ってしまうと思うし、書ききれなくなっちゃうと思うのでこれだけにしておきます。
あと先生に看護師さん、色々とありがとうございました。
最後にとても幸せでした、だから父さん母さん、お姉ちゃん達も泣かないで下さい。 旅玖より。]
「旅玖……」
「……あぁぁ!」
「なんで……なんで死んじゃったの……!」
「本当にバカ、本当にバカなんだから!」
「「「…………」」」
旅玖の家族が泣き、医者や看護師達がしんみりとしている映像が映し出されている。
「旅玖さん、満足しましたか?」
「ドライト様、ありがとうございます。
これで天国でも地獄でも行けます。」
僕がそう言うと、ドライト様は「へ?」っと言ってくるのだった。