1話 『 箱庭とパンドラ』
初めまして!秋瀬です。
初連載、初投稿の処女作となりますのでどうぞ暖かい目で見てください。
秋分の日もとうに過ぎ、肌寒さとを覚えるのと同時に静かな夜が忍び寄ってくる。僕が一番好きな季節だ。夏や冬に比べると短い。だが、それが少し特別に感じるのは僕だけだろうか。
今日はその時期でも特に好きな日だった。涼しい徒も寒いとも言える日の曇り。冷えた風が僕のもとへ運ばれてくる。こんな日の風は他人の秘密を運んでいるようで心地良い。
人は皆、秘密を持っているものだ。
良いことも、悪いことも。
言いたいことも、言えないことも。
忘れたい秘密も、あるだろう。
それを実感させてくれる風だ。
そんなことを考えながら歩いていると、周りが少しいつもと違うことに気がついた。あぁ、さっきの角を間違えて左に来てしまった。こちらの道からも帰れるが、少し遠回りだ。今日は部活のあとに若い国語教師に捕まってしまい、帰りが遅くなったので早く家に帰りたかったのだが。この時期に日が落ちきってから犬の散歩にいくというのは、寒がりの僕にとって少しきついのだ。仕方ない。急いで帰って散歩も早めに切り上げようかと考えつつ足を早める。
(ん、この匂いは……あ)
(金木犀か……? なんだか懐かしい気がする……)
ふと思い出して、近くの電信柱へ目をやる。この電信柱の向こうは林になっている。僕の家と最寄り駅の間にある神社と約100メートル北にある小さな山――殆ど丘のようなものだが――を繋ぐように存在する林だ。この林があるために、僕は家に行くにも駅に行くにも、神社の周りをぐるっと迂回しなければならない。林があろうと神社を横断できればその必要はないが、厄介なことにその林は神社のある丘の外周を囲っている。石階段のある南は林が途切れているが、家があるのは神社の東で駅は神社の西だ。丘周辺の林はともかく、この繋ぎ目の林は密林と言いたいほどに木の密度が高い。小学生でも入りたいと思わないだろう。
そんな、迷惑で僕にとって身近な林に初めて懐かしさを覚えたことに違和感を感じたが。
(確か、この電信柱から3つ左のこの木……)
この木は他の木と違い、隣の木に接していて目に止まりにくい位置の枝が無かった。今年で17の僕――身長は平均――の腰辺りから下の枝が切り落とされている。目立たないが気づく人は気づくだろう。
『ここをくぐって行けば、紅葉を辿るといいよ』
耳元で囁かれたかのようにはっきりと分かる。
なんの疑問も抱く暇無く僕の足は金木犀の香気を帯びた土を踏み進んでいた。
―――
――――――
――――――――――
――――――
―――
『神さまが通る橋があるからね、神さまがいつ来てもきれいな道を通ってもらえるように、いろんな木やお花を植えてあるんだ』
『ここは、神さまのためのお庭なんだよ』
普段ならば身に覚えの無いその声を不審に思っただろう。
しかしそんなことも考えられない程に僕は、それに見入っていた。
「ここは……本当に……僕は、木を、くぐった、だけ、だよね……?」
答える人はいないと分かっていても思わず漏らしてしまう。
あり得ないものを見てしまったから。
いや実際には今目にしているのでありえているのだが。
(でも、木をくぐっただけで、ここまで、ここまで
世界は変わるものなのか?……)
そう、ここは、
神のための庭
いや、
神が造った小さな世界
『神の箱庭』さながらだった。
赤く、紅く、青く、蒼く、黒く、白く、黄、緑、翠、橙、紫、桃、菖蒲、杏、鶯、楝、黄丹、韓紅、白緑、藤、瑠璃、橡、梔子、躑躅、露草、勿忘草、藍鼠、浅葱、曙、鬱金、臙脂、鉛丹、杜若、刈安、蒲、桔梗、黄赤、黄茶、生成り、黄檗、群青、柑子、琥珀、紺藍、珊瑚、蘇芳、青磁、石竹、常磐、撫子、縹、鳩羽、翡翠、白群、鶸、牡丹、弁柄、萌葱……
洗練された光と、
彩で、
満ちていた
今にも縁から溢れて互いに滲んでしまいそうな程に、
その花は、
華は、
木は、
樹々は、
その空間は、
彩づいていた
普段の世界がモノクロだったと思える程に、
鮮やかで
モノクロに慣れてしまった瞳には、
痛すぎて、
眩しくて
それでも、
目を逸らせなくて、
目を逸らしたくなくて
何もかも満たしてくれそうで、
空虚な心も、
身体も、
僕も、
世界も、
全て、その彩で
脳が焼き切れそうな量の情報が瞳から送られてくるのと同時に、
驚愕
感嘆
憐情
歓喜
感動
涙
(―――――――――――え、『涙』?)
慌てて頬に手を当てる。
(………濡れてる。な、んで、僕は、泣いてるんだ――――――?)
解らない。
同時に多様な感情が湧き出てきすぎて、どれが原因か判別がつかない。
感動したからか、
嬉し涙か、
哀しくてか、
ショックだったからか、
どれも正解なようで少し違う。きっとそれらも原因の一つなのだろが、核となる感情はもっと違う、全く別の感情だ。だが、それが解らない。何故、解らないのかも判らない。原因はこれらでは無い事までは分かるのに何故それが何かなのか解らないのだろう?
何故?なぜ?如何して?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして?解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない。いったいな――――――――
「___──¯¯¯¯──___──」
「っ!!!!!!!―――はぁ―――………………」
どこかで鳥が鳴いた。お陰で無限ループしていた思考から抜け出せた。
(………何をしていたんだろう。早く帰らないと………)
帰ろうと顔を上げ、それを知る。
(――――――は、え?………な、うそ……)
光が消えていた。
先程まで光に満ちていた木樹花華の全てに影が落ちている。
闇を満たしている。
太陽などこの世に存在しない、とでも言うように。
(いや、さっきまであんなに、楽しそうに光を反射させていたのに)
(いくらこの時期の日没が早いからと言っても、夏の終わりのような澄んだ太陽が、――――――)
一瞬で姿を消すなんて、と思いかけたが。
否、『この時期の日没は早い』のだ。
否、『日が落ちきってからの犬の散歩はきつい』のだ。
否、夕陽などつい1時間程前に沈んでいるのだ。
否、太陽などとうに消えているのだ。
――――否、先刻までの光景こそがおかしいのだ。
(――――っなら、あれは?あれは何だったんだ?)
(夜に白昼夢でも見ていたとでもいうのか?)
確かに見た。僕には見えた。
その証拠に僕の右斜め前には赤紅と自らの存在を主張している紅葉が在るじゃないか。
『先刻』見たように。
「あ……………………」
―――――――胸が高鳴る
「『先刻』って何時だ?『さっき』ではなくて?」
―――――――心臓が僕を焚きつけるように
「あ、あれは……………」
――――――――『早く、早く』と
「っ、あれは―――――――――!!!!!!!!」
――――――――『早く、想い出せ』と
――――――――『今、開けるべき時が来た』と
「あれはっ、 『記憶』、 だ」
――――――――開けろ『記憶』の箱 を――――
『わたしのこと、忘れてほしいけど、忘れないでほしいなぁ』
『なんて、ワガママ、だよね………』
第1話、最後まで読んでくださって有難うございます。これからも投稿していくので最後まで付き合って頂けると嬉しいです。
初心者なので、駄文駄作ばかりかもしれませんが、よろしくお願いします。
酷評でもいいので感想を頂けると嬉しいです!
2話は、12/7(土)の23:00頃になる予定です。(遅くてすみませんm(_ _)m)
良ければ読んで下さい!(良くなくても読んで下さい!!(本音))