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ルパン三世の背中

作者: かのさん


うっかり逆方向の快速列車に乗ってしまったり

足の小指をイヤというほどタンスの角にぶつけたり

外出直前どこを探しても財布がみつからない

そんな時

母の背中を思い出す


ぼくと弟がびりびりに破いたふすま

散らかしっぱなしのおもちゃ

ひっくりかえった昭和時代のわが家で

仕舞いそこなったコタツに頬杖をついて

若かった母はひとり14インチの白黒テレビで

毎週欠かさず『ルパン三世』をみていた


結婚してすぐに北海道から九州へ移り住んだ

まもなく年子の男の子を二人もうけた

いくら掃除しても

カビとゴキブリとカマドウマは家に侵入してきた

母は無言で『ルパン三世』をみている

ワルサーP38が火をふいて

敵を撃った


「おかあちゃん」ぼくは母に訊く

「あれはいい人? 悪い人?」

母は迷ったふうで

「ルパン三世は悪い人」「銭形警部はいい人」

それはマジンガーやウルトラとはまるでちがった展開で

三歳だったぼくはとまどいを隠せなかった


「どうしていい人が負けちゃうの?」

母が何と答えたかは覚えていない


ぼくたち幼い兄弟は他愛ない悪さをくりかえして

母によく怒られたりぶたれたり外に追いだされたりした

しかし「めし抜き」は一回たりとなかった

プチ虐待ともいうべきそんな抑圧の日々を

楽しく生きてきた昭和時代

ほどなくわが家のテレビはカラーになり

『ルパン三世』は華やかな色でブラウン管に再登場した


たとえば納豆にソースをかけてしまったり

買ってきた小説がちっとも面白くなかったり

午前0時というのに たあくんが全然寝てくれない

そんな時

ぼくは思い出さずにいられない

白黒テレビのくすんだ『ルパン三世』を

軽い絶望に満ちた母の背中を


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