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4.海 でござる


種族:(いにしえ)よりのネコ耳族(黒猫)

性別:女

武力:三十五(補正 追加加算十五可能)

職業:ネコ耳族の勇者

水準:甲・加算二

性癖:女・開拓者

運 :一



『心眼がレベルアップした……だと?』


 ミウラが驚いていた。

 某は狼狽えていた。


 刀を振り回した後での不審者ぶり。

 これ、顔に出してはいかんヤツだ!


 商隊の連中に余計な詮索をさせる。それはマズイ、と頭の奥で半鐘がガンガン鳴っている。

 人が居ない方を向いてから、顔の筋肉に力を入れる。さあ、考えよう!


 大きな変化は、武力の数字。

 ベルリネッタ姫は十二だった。まともにぶつかれば某より強い。ぶつかるだけで熨斗烏賊にされるか、ぶつかる前に鬼気で吹き飛ばされて熨斗烏賊にされるかの二択。だのに、今は素で三十五。


『色々あってレベルが上がった事もありましょうが……』

 ここでミウラは言葉を切った。


『確かに基礎となるパラメーター関数の変更……えー、簡単に、計算方法の変更が考えられますね』


 計算方法が変わっただと?


『わたしを見てください』

 ミウラに向けて心眼!



種族:ネコ(チャトラ)

性別:男

武力:四十五(但しイオタとユニット):単独三十五

職業:魔法使い

水準:甲・加算二

性癖:腐女子

運 :八


『わたしは旦那とユニット、つまり組で働くのがデフォルト、大前提ですから、45が前に来る事は理解できます。それでも単体で35ですか? うーん、そうか! 前も旦那と同じような数字でしたね? だったら数字の信憑性は残されていると考えるべきか……』


 前は十までしか表示されなかった。ヴァンテーラやマオちゃんは非表示だった。


『仮説を立てましょう。前回バージョンは人間のみの設定だった。今回のバージョンは、人間外の生物まで測定できるようになった。今ならマオちゃんだって測定できるはず。うーん、ゴブリンだとかオークだとかも心眼を掛けておくべきでしたね。これは不覚!』


 だとすると、三十五で十を少し越えた数字相当となるか?


『サンプリングしましょう。さっき殴りかかってきた血の気の多いの。アレ、心眼してみてください。たしかAクラスだったはず』


 心得た!

 心眼! 



種族:人間

性別:男

武力:十一

職業:冒険者・戦士

水準:甲

性癖:嫉妬

運 :五


 Aクラスで十一だと?


『仮説を撤回します。計算方式の大幅な変更が認められます。我々の成長が大きかったのが原因でしょう。それと我々の伸び代も。わたし達二人はSSクラスかZクラスを想定したキャパ、空き容量を持っていたのです。次の段階(ステージ)突入(アツプデート)したものだから、心眼も計算方法を変更した!』


 某らの三十五とは、いかなる領域でござろうか?


『2人がかり、言い換えれば、たった2人でドラゴンを倒せる実力です。心眼バージョン2は、データーが揃うまで、測定値10以上が解禁になったとでも捉えておきましょう』


 その後、何事も無く商隊にくっついて旅をした。

 ちょこちょこと隙を見ては心眼。

 護衛の冒険者達の武力は、十から十二の間に納まっていた。

 某とミウラの三十五と比べると、十も十二も大差ない。


『魔物のサンプルが欲しいですね』


 獣の狼っぽいの(角が生えていた)とか、角の生えた赤い熊とかが襲ってきたが、心眼を使う前に冒険者にボコられていた。数の暴力でござる。冒険者に狩られているようでは参考にならん。


『それにしても……、あれからだいぶ経ちますが、メガロード山が全く近づいて来ないですね? 天辺は大気圏外だったりして?』


 頭の上に乗ったミウラ。遠くをじっと見つめている。

 どんだけ大きいんだ? 期待させておいて、近づけぬとは、嫌になるなぁ。

 


 一歩一歩確実に歩いておれば、いずれは到着する。

 巨大なメガロード山も、やがて左前に位置を移し、そして左横へと移ろいで行った頃にはいい時間となっていた。

 

 今宵は、メガロード山麓の町、と称する宿で一泊である。

 町に入る前から大騒ぎ。なんせドラゴンを運搬しているのだから。


『どうやら、あのドラゴン、悪さをするので有名らしいですね。討伐されて、みんな喜んでますよ』

「赤い通り魔竜、などとアブナイ通り名が付いているほどであったからな。役に立てて嬉しいな」


 なんて話をミウラとしていたら、ルカス殿から声を掛けられた。


「レッドマンのせいで、メガロード山の脇を通る街道が、長い間封鎖されたも同然でしたからね。いやー、我等も鼻が高いですよ!」

 ニコニコ顔のルカス殿である。


「この町のお偉いさんからも直接お礼を言われました。町を挙げて歓迎してしてくれるそうです。泊まる宿も町一番の格式ですよ。イオタ……ヤマハ様に一番のお部屋を手配しました! おっとそうそう! こんな事言いに来たんではありません!」


 笑ったり急に引き締まったり、忙しい御仁だ。これって意識してやってたら化け物みたいな商人だな。


「イオタ……ヤマハ様はネコ耳族の女剣士ですから、目立ちます。否定はしておきましたが、ネコ耳族の勇者イオタ様であることは周知の事実です。外を出歩かれる時はご注意ください。決してお一人で歩かないように」


「え? 拙者、命を狙われているの?」

 人に恨まれる覚えはござらぬが?


「違います違います!」

 ルカス殿がパタパタと掌を上下に振った。


「是非お話を、とか、お近づきになりたいとか、そっち方面です。人気者の税金ですよ」


『アイドルです! えーっと、人気歌舞伎役者ですかね? 市川團十郎、松本幸四郎、この二人が女になって男装してる所を想像してください! チヤホヤモテモテですよ! 未来の世界では一つの産業として成り立ってましたからね! ジャミーズとかエーケービィグループとか。あれ? 両方とも団体戦だ』


 モテモテでござるか?

 おなごにチヤホヤされるでござるか?


『旦那、どうしました。嫌にヤニ下がってますが?』

「にやけて等おらぬ。どうしたミウラ? 何か機嫌悪そうだが?」


『……そういや未来では「自分のものにならないのなら、殺してわたしだけのモノにする!」って不可思議理論で刺された事件もありましたっけ?』


 え? なにそれ? 怖い!


『だって殺せば、わたしだけで独占できるもの! って謎理論を元に世紀末覇王に突っ込んでいった美女がいたくらいですからね。イオタの旦那も、せいぜいお気を付けあそばせ』


 ちょ、ミウラ、そんな冷たい目で見ずともよかろう?

 某、地方の名物を口にするのが楽しみで旅をしているようなもの。屋台の食べ物を口にできぬのか?


 フン! って何?


「何ニャゴニャゴと癒やしてくれているんですか? ご褒美ですか? 私が言いたいのは、表を歩かれるときは、護衛の冒険者達を連れて出てくださいよ。という事です」


 その手があったか!


「よし、ならば安心して表に出られる! 名物料理を食いに行こう!」


 ミウラを引っ掴んで懐へ入れる。

『え? あ? ちょっと! もー、仕方ないですねぇ!』


 小言を言ってくるミウラは無視。護衛隊の連中を二・三人連れて町へと繰り出した。

 さあ、来るが良い! 美少女達よ!


 言い寄ってくるのは、男衆ばかりでござった……。


『棒を持ってると穴が集まる。穴を持ってると棒が集まる』

 



 翌日。

 荷馬車は旅を続けている。


 夕べは遅くまで護衛の者達と話をしていた。

 おかげで昼間が眠い。某は荷馬車で昼寝できるが、護衛の者達はそうはいかん。ヘロヘロになりながら警備を続けている。


「さて、間もなくヘラス王国です。有名税として偉いさんには会ってもらいますよ。その方が今後の生活に役立つはずです。歓迎されるでしょうから、そこを突いてイオタ様の条件を出してください。タネラに家を持ちましょう! 何ともなれば国から閑職の一つでももらえるでしょうし、商売をなされるなら手前共がお手伝い致しますよ」


 むむむ、それも有りか? 小役人にでもなれば、生活に苦労はしない。でも商売も面白そうだしー。


『味噌醤油の開発。開発チートによる商売の拡大。そっちの方が面白そうです』

 だよね。小役人は辞退いたそう。


 ドラゴンを乗せた荷馬車隊が行く道は下りとなった。

 山間部を抜けようとしている。


 幾つかの角を曲がったら――


 景色が開けた。


 遠くに、谷間に、微かに、青い海が……。

 商隊は一旦停止。みんなが同じ景色を眺めている。


「ここだけですよ。この場所だけが遠くヘラスの海を見ることが出来る唯一の場所」

「そうでござるか……」


「商人も、冒険者も、みんなここで故郷を見るんです。ああ、帰ってきたなと」


 帰ってきた……。

 某、ヘラスへ……帰ってきたのでござる。


 涙が、なんだ? 涙が止めどなく溢れてくる。

 武士は首を飛ばされたって泣いてはいけない! だのに……。


『長かったですね。でもあっという間でしたね。苦労した。楽しかった。いろんな人に会った。いろんな人と別れた。でも、着いたんですね。旅はおわったんですね』


 生きよう。

 ここで、力一杯生きよう。





連投に向け、アップを開始しました。

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ギャグとシリアスのバランスが素晴らしい
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