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19.和平調停者 でござる

 和平調停者。


 それは紛争当事者両陣営に関わりの無い中立の者が望ましい。


 現世では、旅の坊主がそれにぴったりであった。

 信頼の置ける人物であればなお良い。相手方が会ってもくれぬ人物を立てた所で、「それどこの馬の骨?」と言われるのがオチ。


 某は、西側大陸で騒動を起こしたものの、どこのだれにも仕えた経歴はない。

 言わば無所属。


 ネコ耳の勇者なる二つ名をいただく理由は、両陣営共通の敵、魔族を押さえ込んだ実績によるもの。これ以上、信頼のおける人物はおらぬ。


 イセカイで坊主はダメだ。西側諸国とドラグリアは宗教が違う。よって、宗教関係者が間に立つと余計な騒動の元となる。

 某、人っぽいが、人ではない。ネコ耳族という獣人族に分別され、人とは一線をひく存在である。


「以上のことから、イオタ様以外、和平調停者に相応しい人物がおりません! どうか! どうかこの役、引き受けていただきたい! これこのとおり!」


 額を床に擦るつけるボーラ殿。

 おもわず、駆け寄り肩を抱いて上へ上げた。

 イセカイで初めて見る土下座。まさかボーラ殿で見るとは思わなかった。

 後ろの偉いさんも膝を付いて礼を尽くしている。


 こんな場合、他者であれば如何致すだろうか?

 思い返すに……、


 ネコ耳族村のお婆、アゴト様なら、見事お鎮めになられるでござろう。高等技術過ぎて参考にならん。……今まで出合った者達の中で一番調停能力が高そう。


 ミッケラーは……回りすぎた口で墓穴を掘って一回り騒ぎを大きくしそう。


 赤い鎌とハンマーの小僧共は……そもそも声がかからんな。


 エランは……取り敢えず斬り殺そうとするだろうから論外。


 イシェカ婆さんは金で揉めるだろう。


 ベルリネッタ姫は、交渉事がもっとも苦手っぽい。……今回の戦に出てくるんだろうな。


 ヴェグノ軍曹は……酒飲みすぎて一大ゲロ合戦。うやむやで終わり。こんな恥ずかしい調停は御免被る。


 出合った人々は全く参考にならん!


 ああ、もうどうしよう!?


「ミウラ!」

『こればっかりは。……未来にこういう諺があります「汝の為したいように為すがよい。本能を開放せよ!」と』


 本能の下りは理解不能でござるが、そうか……為したいようにか。


 今まで関わってきた人達。……ただしウラッコは除く。

 デイトナ殿、マオちゃん、カールちゃん……。


 深く腰掛け、目をつぶりじっと考える。

 それはもう真剣に。それだけの時間をかけて。


 ボーラ殿や参謀殿達は一言も発せず見守ってくれた。

 ずいぶん考えた。いろんな事を思いつき、否定し、あるいは肯定し――。


 いつの間にか組んでいた腕を解く。


「拙者、皆の者を見捨てて旅に出るほど非道の者でないと自負しておるでござるよ」 


「それでは!」

 喜色満面のボーラ殿と参謀の人達。天の使いを見るような目でこっち見るな!


「成功の確約はござらぬ。策も無し。だが受けた以上は死力を尽くす! それで良ければお引き受けいたす!」

『この一球は絶対無二の一球なり。されば、心身を挙げて一打すべし! わたしも付いていきますよ!』

 

 一生一大の大仕事でござる。母上、どうか見守っていてください。……まだ死んでないでござろうな?




 準備が始まった。

 旅の準備である。死を覚悟した旅の準備である。


 ……どうせ一度は死んだ身だ。運が悪けりゃ死ぬだけさ。軽い軽い。


『カール君の今後が心配です。みんなに過剰すぎる期待をかけられて。どんなに高い能力を持っていても期待が高すぎて追いつかず、精神を病んでしまわないかと』


 何を言う! カールちゃんは才能に満ちあふれて……心配でござるっ!

 今はアウアウと可愛く微笑んで、某の尻尾で遊んでいるが。あっ! 先っぽを吸ってはいけないでござる! そこ! ひやっとこそばゆい! あっ!

『ごちそうさまです』


 もといして、世間は厳しい。この子が大きくなって皆に虐められないかと心配になってきた。


『手紙書いときます? 大きくなってから見る手紙。追い詰められて苦しんでいるカール君の力になるような』


 それは良い考え!

 よく考えれば、カールちゃんとはこれでお別れ。もう一度会えるかどうか。


 ならば一筆啓上奉る。

 さらさらさら、と。


『なんて書いたんですか?』

「うむ『カールよ。どうしても辛いときは逃げよ。拙者も、二回ばかり逃げておる故』とな」


『それどこの一休さん?』

 



 さて、次の目的地は西の諸国連合とドラグリアがぶつかる地点。

 ドラグリアの聖地フェラルリでござる!




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