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14.イセカイの正月 でござる

『赤白歌合戦が無い。レコタイが無い。ジャミーズカウコンも無い。あればあるで批判たらたらですが、無ければ無いで年を越した気がしない! 忘れちゃいけないよ。夢を忘れた若い日本人よ!』


 大晦日は図らずも賑やかだったので、元旦は静かに過ごした。


 適当な石を三つばかり重ね、適当に作った注連飾りをつけた。それをご神体と見立て、若水を供える。

 二礼二拍手。


 正装して、初日の出を迎える。

 この城は高台故、遮るものが少ない。イセカイの日の出は厳かでござった。


 挨拶回りも済ませ『みんなが変な目で見てましたけどね』、三が日は静寂の元、過ぎていく。

 正月とはこういうモノでござる! イセカイ人といえど正月はカクあるべし! 正月の正しい過ごし方を叩き込んでくれる!


『それを異世界人は強情と呼んでいます』


 イセカイで迎える初めての正月は過ぎた。

 早朝より早速活動開始でござる。

 町へ繰り出し、商業ギルドを探すとしよう。目的はドラグリアとヘラス王国の情報収集。


「ここだここだ。明けましておめでとうござる!」


 チョビ髭簾頭の親爺が、首だけこっちを向いた。眠たそうな目だ。


「はぁ? 何が明けておめでたいので?」


 ああもう! 正月を何だと思うとるのか、イセカイ人共め!

 もおいいっ! きさまらに情緒は求めんッ!


「情報を求める。レップビリカの国境に集まっているドラグリア軍のことでござる」

「あそこの商売はやめなさい、ネコ耳さん。あんたじゃ食い物にされるのがオチだ」

「軍相手に商売すると誰が申した?」 


 戦国の世で、足軽相手に味噌や米を売る商売が流行ったと聞くが。


『あと、女ですかね? 規制の無かったあの時代、薄い本を売れば大儲け!』

「こちらが求める情報だけを正確に教えて頂きたい!」


 簾親爺が某のネコ耳から爪先まで、ネチっこい目で一往復した。まさか、脱がされたんじゃないだろうな?


「一発を狙う若造はだいたいそんな口を利くもんさ。まずは商業ギルドカードを提示してくださいな。話はそれからだ。危なっかしい地域だから、それなりの値が張るよ。金持ってるんだろうね?」


 某をネコ耳の小娘とおもうて、好き勝手言ってくれる!


「目ん玉ひん剥いてよーく見ろ!」

 些か乱暴にカードを叩きつけてやった。


「ふん、イオタさんね……イオタ? ネコ耳族の?」

 眠たい目つきから、徐々にその目が広がっていき、最後はドングリ眼となる。


「ネコ耳族の勇者イオタ! クロダ村の救世主イオタ!」

『二つ名が増えました。勇者から救世主へ格上げです』


 ここでも有名人であったか。これは迂闊。


「どうぞ! こちらへ! イオタ様が紛争地帯の情報を求めるという事は!? ああっ! おい、そこのお前! 今すぐギルドマスターを呼んでこい! さあ、イオタ様こちらへ! ささ、どうぞ! おーい、誰かお茶を持ってこい! 最高級ギョックロ茶をお出ししろ!」


 いきなり態度が変わった。


「さて、私達が掴んでいる情報で、イオタ様のお役に立てるものがあるでしょうか?」


 百万両の取引が行われそうな応接間でござる。肩幅の広いギルドマスターが、小さくなって椅子に腰掛けている。

 隣に、ギルドの重役っぽい年寄りが座っていた。


「イオタ様が出ておいでとなると、やはり戦が始まると見ておいてよろしいでしょうか?」

『逆に風評被害が出そうですな』


 某、項羽でも劉邦でもない。


「イオタ様はこの戦いをどうお見積もりしておいでですか?」

「お見積もりも何も、ただ現状を知りたいだけでござる。ドラグリアが兵を集めているとしか聞いておらん。ドラグリアの兵力も知らぬし、そもそも、なぜドラグリアが戦を仕掛けようとしているのかも知らぬ。ドラグリアと交易している商家も多いと聞くが?」


「なるほど、敵を知った上で介入しようと!」

『戦争をやめろ! 人呼んでYou星仮面! 武力による介入を開始します! ソレスッタルビーイング!』


「介入するつもりはござらぬ!」


 話が横に逸れまくり、前へ進まぬ!

 勇者がらみの枝葉情報が入り込むという複雑怪奇な話し合いとなった。一昼夜かけても全てを開示できないな、こりゃ。




 なので、要点を纏めると――


 まず、ドラグリアという国家でござる。


「一言で言うと、武闘国家です。帝王は戦いで選ばれる。政治能力は二の次でして」

『修羅の国か、惑星ベジータか』

 あるのか? ミウラが住んでた世界に、鬼のような国が! 


「帝王の権限は果てしなく強い。帝王が一言死ねと言えば、理由を問わず死を選ぶ程。国家の成り立ちが武力闘争で、支配力は強権を使った締め付け。昨年の今頃でした。帝王が代替わりしたのは」


 新しい殿様か。代替わりは大変でござるよ。


『新しい帝王が部下に対し、実績を作ろうとして、安易に頼るのは軍事力!』

 であるな。戦国の時代、隣国隣村への押し込み強盗は日常茶飯事だと聞く。

 

 次いで地形。

 イセカイは、大きく分けて三つの大陸が存在する。


『いい加減な地図です。縮尺も無いし、端っこは魔物の絵で誤魔化してるし』


 東西と南。それぞれ大小からなる海を挟んでいる。

 その内、二つの大陸が今回の争点とっている。


 先ずは西の大陸。

 今まで某が関わってきた各国家、ゲルム帝国、レブリーク帝国、ジバンシル王国、レップビリカ王国、その他の国家群がひしめく大陸である。

 ちなみに西大陸の南、海側にヘラス王国がある。


 次に東の大陸。

 ドラグリア帝国が大半を占める大陸。国家群大陸の真東に存在する。……ドラグニアってなにげに巨大帝国なのな。


『大陸の大きさは? 政治形態は? 興味が尽きません!』


 二大陸は海を挟んで対峙しておるが、互いの距離は、案外近い。

 どんくらい近いかというと、浅瀬で繋がっておる位だ。


 浅瀬と言ったら語弊があるか?

 幅、五千間『9㎞ちょい強。ちなみに、東京湾アクアラインの海底トンネル部分が10㎞です』。

 小さな国ほどもある細長い陸地で両大陸が繋がっている。ここが国境。曖昧ながら、真ん中が、レップビリカとドラグリアとの国境となる。

 ここは隘地であるが、人が住んでいる。川もあれば湖もあるし、山もある。


『この山がそこそこ高いんですよね。地質学的に説明できません。地殻変動で沈んだタイプか、あるいは人工……?』

 難しいことはミウラに任せておこう。さして興味もないし。


 でもって、地形に関わる厄介な事柄が――。


 その、そこそこ高い山が問題だった。

 ドラグニアの建国にまつわる聖地だそうな。


 何でこんな所に? と聞かれても、答えられる者はいない。

 何が祀られているのか不明。ドラグニアの王家でも、代々口伝らしい。薬や猥雑な行為に溺れて亡命したダメ王族でも、この件に関して口を割らないという。


『ここは異世界ですから、想像の斜め上をいく秘話なんでしょうね。宗教がらみの』


 毎年、年が変わり春が来る前に、大勢のドラグニア人が聖地詣でにやってくる。護衛と統制の為に軍も付いてくる。

 でもって聖なる山に登る訳でもない、麓の社に詣でるだけだそうな。


 初詣みたいなものでござる。なかなかに良き心がけ。


 となると、国境の緊張は毎年の恒例行事だろうか?

 ならば、格別心配することあるまい?

 ドラグニア軍が集結しているという、吸血鬼野郎の言葉をまともに信じるのはいかがなものか?


『両軍とも、こっそり大軍を移動できない地形です。あと海を使えば、敵陣地後方へ迂回上陸作戦がとれます! 軽装機動部隊による後方攪乱作戦と、機甲兵団による中央突破作戦! 縦横区民(たてよこくみん)! 勝利は我が手に!』


 ミウラがドラグニアの実権を握れば、世界征服もさぞ容易かろう。


『マッカーサーは甘かった! 信長公も御照覧あれ!』


「えー、ちなみに海にはドラゴン級の魔獣が住み着いておりますから、船は海岸に沿って航行します」

『陸から丸見え! 作戦の変更を求めるッ!』


 商業ギルドは、軍の動きを掴んでないらしい。例年よりやや多めの物資が動いているそうだが、何十年かに一度はもっと多く動くこともあるらしい。


『十周忌みたいな? 周期があるなら予想が付きますね』

 要観察でござる。



「次にヘラス王国の情報もいただきたいでござる」


 ギルドマスターと重役が互いの顔を見やる。


「ほう! ……ギルドでも極秘扱いなんですが……。イオタ様はヘラス王国がドラグニア帝国と繋がっていることをご存じで?」


 知らんけど?

 意外な返しに、固まっていると肯定と取られたようだ。


「最近、ヘラス王国の反王国過激派が、急に活動を活発化させました。その機に乗じ、もともと微妙な関係だったドラグリア帝国が勢力を伸ばした。というのが商業ギルドの見解です」


 ヘラス王国も内に病を抱えているようだな。大事にならねば良いが。

 ま、某らは、中央の政争とは全く関係の無い田舎に引っ込むつもりでござるが!


「ヘラス領海内で、頻繁にドラグリアの軍艦を見かけるようになりました。ここのところ温和しくなっていたドラグニアが活発化したと思われます」


 あとの情報は商売に関する事だけ。商品の動きや経済の動向などだった。

 商売するったって、水飴売るか、離れた町の間を行商する程度だから、さほど重要な情報ではなかった。


 商業者ギルドでの情報収集はここまででござる。情報料を払ってお終い。

 盛んに食事を誘ってくるギルドマスターを引きはがし、ギルド館を後にした。




「さてミウラ、商業ギルドの話をどう思う?」

『一つの意見です。この話を下敷きにして、吸血鬼伯爵と話を致しましょう』


「吸血鬼が、某の為にまともな情報を持ってくるとは思えん!」

『いやいや、あの吸血鬼伯爵、旦那にだけは結構親切ですよ。いかがです。ここで一発ダンピールを作るって事で』


 だんぴーる?

 ミウラは時々、某の知らない未来で流行の冗談を言う。

 困った癖でござるな。




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