表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネコ耳サムライTS転生物語。イセカイは摩訶不思議な所でござるなー  作者: モコ田モコ助
4章 ドラグリアの建国竜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/164

13.イセカイの年末 でござる

 村人A「天国の底が抜けたと思った」

 村人B「白い光が山を二つに割ったんだ!」

 村女C「お腹の子供が女の子だったらイオタ。男の子だったらミウラって名前にします!」


「どんな災難に出合ったって、知恵とかタイミングとか逃げるとか、冷静に判断して正しい道を選んだら切り抜けられるって思ってました。そのための魔法とか剣術なのだと。でも、世の中には絶対どうにもならない事があるって、初めて知りました」


 階段を一段上に上がったもの特有の軽い口調。パウリ氏の談話である。


「こうみえて若い頃、魔物相手の戦争に従軍したことがあるんですよ。魔物は1万。こっちは3千。不意を突かれ、魔物の突撃を前に体が動かなくってね。あれこそ恐怖の体現ってヤツでしたね」


 笑うパウリ氏。照れくさそうに。


「でもね、あれは、あくまで恐怖であって脅威じゃない。大自然が起こす脅威に比べれば、生き物が起こす恐怖なんて、小さい小さい! 恐怖を通り越したあきらめの境地。そんなとき人はどうするか、知ってますか?」


 彼は問いかけるように肩をすぼめた。


「死を素直に受け入れてしまうんですよ」


 言葉とは裏腹に、パウリ氏の顔は穏やかだ。微笑んでたりする。


「でもイオタ様は違った。迫り来る大自然の驚異に対し、些かも怯えず、ただ鍛えた剣を当たり前のように真っ直ぐ振り下ろす。それだけで山が二つに割れたのです!」


 目の光が尋常では無い。狂信者特有の熱を帯びた目だ。


「怪鳥ギャロン? ああ、今回の災害の元凶でしたっけね? あんな小物、一瞬でバラバラになりましたよ。だからなんだ? ってね!」


 ヒョイと肩をすくめるパウリ氏だった。


「ネコ耳族の勇者イオタ様、そして村を救った救世主イオタ様。未来永劫、その偉業は語り継がれることでしょう!」


 パウリ氏は、左手に巻かれた真新しい包帯に指を這わした。


「そのあと、イオタ様はどうされたかって? 『今日はボウズだった』と言ってしょんぼりしてましたよ。見事に耳と尻尾が萎れてましたね!」

 

 その言葉をもってパウリ氏は、話の最後とした。

 

 

 

「以上が吾輩の調査結果である。さすがだなイオタ様(笑)」


 暖炉の前で、黒皮の手帳を閉じるヴァンテーラ。台詞の最後で笑ってないか? 何が楽しい? え?! 言ってみろ!

 こやつ、ドラグリアを含む人間界の動向調査と称して、こっそり某の恥部を暴いていたでござる。

 おのれ! これではパウリへの口止め工作が無駄になってしまったではないか!


「おお! さすがですイオタ様! 当城に滞在して頂いている間に、また一つ英雄譚をお作りになられるとは!」

 ボーラ殿のヨイショが心に刺さって痛い。


「お腹の中の坊や。イオタ様のような立派な武人になるのですよ!」

 ずいぶん大きくなったお腹をさするメラク様。それはズルイでござる。


 今宵は大晦日。マセラティ家の主立った者達が、広間の暖炉に集まっている。

 日は暮れ、外は雪で真っ白。 

 雪崩から、無事帰還して、良い感じの夜になっていたというのに!


「改めまして、領主としてお礼を申し上げます。怪鳥ギャロンによる被害を未然に防いで頂いたこと。歴史的な大雪崩による我が領内の村の危機をお救い頂いたこと。感謝の念が絶えません。特に怪鳥ギャロンは、天災とも空の支配者とも呼ばれたS級の魔物です。そうですよね、ヴァンテーラ様?」


 これに対し、眉間に皺を寄せて答えるヴァンテーラ。


「うむ! 空の要塞大怪鳥ギャロンは、吾輩ですら討伐に苦労する大怪物。さすがイオタ様だ(笑)!」


 何度も言うが、難しい顔して裏で笑ってないか?

 あと、貴様ほどの魔族ならギャロンの十羽や二十羽、片手で十分でござろう?

「何か言ってやれミウラ!」

『錬金術で超望遠レンズを装備した狙撃スコープの構想に入っています。話しかけないで』

 だめだこりゃ!


「イオタ様、真面目なお話です」

 ボーラ殿が姿勢を正した。


「我がマセラティ家に身を置かれる意思はございませんか? 領土の半分を差し出しても良い!」

「申し訳ないが、お断り致す」


 二つ返事で断った。


『石田三成か竜王か。どっちも滅びた。死亡フラグですな』

「拙者、誰にも仕える気はござらぬ。拙者が拙者の主でござる故」


 目的地もあるしね。



 忠誠を誓った公方様。彼のお方を庇って討ち死。

 名誉は、そこまでで良い。何物にも代えられない命という犠牲を払ったのだ。母に逆さを見せるという親不孝を働いた。


 なまなかな理由で人に仕える気にはならぬ。

 それが理由でその地におられぬのであらば、すぐに蓄電致す覚悟。


 ……思えば、いつの間にか、他の地にて生活できる自信が育っていたでござる。


「それは残念だな。我が魔王軍もイオタ様に目をつけておる。どうだ、名誉魔族として尊きお方に仕える気は無いか? 尊きお方の寝顔見放題だぞ」


「  申し訳ないが、お断り致す」

『今、フタ枡ばかり空白が空きましたよね? ね、旦那、顔背けないで私の目を真っ直ぐ見てくださいよ』


 うるせぇ!


「いま魔族の軍団に下ると、もれなく血の気が多い若いモンがちょっかいかけてくる特典が付いてくる。斬り放題だぞ!」

「要らんことをするな、でござる!」

『なんなのこの貴族? かまって欲しいの?』


「本当に残念です」

 ボーラ殿は世界一の善人でござる! 気の弱さが欠点でござるが。それは優しいという事でござろう。


「この冬、我が家に逗留されたことを誇りに思い、末代まで語り継がせましょう!」


 某を誇りと思うなら、末代まで語り継がせるのをやめて頂きたい。


「おそらく、各国家、各有力貴族は、イオタ様を探していることでしょう。どこがイオタ様を仕えさせることができるかと都の雀共が囀っておるそうな」


『旦那を仕えさせる! あのイオタ様が主と認めたのだ! 主は世界一の名君である証拠。王侯貴族にとって、これ以上の名誉はありません』 


 御法が整備されていないイセカイ。言い寄る者共を片っ端から切り捨てても文句ないよな?

 不遜なことを真面目に考えながら、部屋へ引き上げた。



 

『ねぇ、イオタの旦那。本当に誰にも仕えないんですか?』

「ないな」


 有名な茶器を金にあかせて手に入れるみたいなもんだろ?

 誰も彼も某の経歴を手に入れたいだけだ。子供が高いおもちゃを欲しいとあの手この手でだだをこねる。


 ……昔はそれが望みだったのだがね。


 いざそうなれば嫌だな。某のガワが欲しいだけ。某の心に開いた穴を塞ぐには至らぬ。

 イセカイに渡り――いつの頃からだろうか? そのような思いを抱くようになったのは……。


『典型的なネコの発想ですね。かまわれないとかまって欲しくなる。さりとて、かまわれると嫌になる。どっちなんだよはっきりしろよ! 飼い猫なの? わたしって、ただの同居人なの?』


 言われてみれば! まさにその通り!

 ネコの呪いでござろうか?

 これ以上有名人になりたくない。人とは適度な距離感でありたい!


『それはそれとして、今後の事を考えて、偽名の使用も考慮した方がいいですね』

「うむ、伊尾田姓は有名になりすぎた」


『お考えはございますか?』

「戦国の猛将、本田忠勝殿にあやかってホンダは?」


『逆に目立ちます。日本で一番多い名字、鈴木ジェペル之助がお勧めです。人混みに紛れますよ』

「安っぽくないか? 行楽地繋がりの川崎大師にあやかってカワサキは? 海が近くて良い所だぞ!」

『わたし、海より山派なんで』



「山と言えば、あの雪崩で無傷は奇跡だったな」

『指向性の水蒸気爆発が起こって、何もかも向こうへ吹っ飛んで行きましたからね。余波の風で体が浮かんだだけです』


 宙に舞ったが、体を捻るだけで手足から着地できた。下が柔らかい雪だったので、怪我一つしなかった。

 パウリは手首を捻挫したけどね。左手だったので実質問題ないと、涙を流して喜んでいた。


「あれで一割の力とは。危険でござるな」

『まるでジャイアントインパクト。今後の使用は細心の注意を必要とする』


 うん、残り二発。こっそり捨てようか?


『それをすてるなんて、とんでもない!』




 さて、窓の外は雪景色。物音一つしない。

 イセカイに来て、初めて落ち着いた夜を過ごせている。


「何やってんですか旦那?」

 ミウラが散歩から戻ってきた。


「刀の手入れだ。手に入れてからまともな手入れをしてこなかったからな。新しき年を迎える前に手を入れておこうと思うてな」


 ちょうど柄をバラしていた所だ。柄巻きが汚れておった。目釘も新しいのに替えておきたい。

 剥き出しになった茎に幾つか筋が入っておる。刀を打つ際、やっとこで掴んだ傷だろうか?


『なんか文字っぽい傷ですね?』

「ノ……ノワ……最後はケかな? キかな?」

『ほほう、ノワケ、野分ですか。いい名前ですね』

 名刀、「野分」誕生の瞬間であった。


「ところで、茎ですか? うっすらと錆びてますよ』

「ああ、それはわざとだ。そのほうがしっかりと納まるからな」

『へぇー!面白いですね』 


 さてさて、刀の手入れも終わり、ヴァンテーラが掻き回してさえくれなければ、静かな年末であった。

 こんな夜は、燻製したチーズとハム・ソーセージを肴に、ワインを傾けながら年を越す。

 これが幸せというものでござろう。


 これをボーラ殿のおごりではなく、自分の手で手に入れてこそ、真の自由を手に入れた言えよう。


『今宵は大晦日。この世界じゃ、冬至が年末なんですね。よく考えればそれが自然の歴なんでしょうけど』


 餅は無いし、除夜の鐘も無い。さりとて年末は年末。年始は年始。それはイセカイも日本も同じ。

 イセカイで、年末年始にこれと言った行事が無い。嘆かわしいことである。

 せめてミウラと二人で行く年を見送り、来る年を寿ごう。


 明日は正月だ。


『白味噌仕立ての雑煮に丸餅を入れて、砂糖入り黄な粉に塗して食べる。正月の風物詩ですなぁ』


「はっはっはっ! ミウラはおかしな事を言う。雑煮は澄ましでござろう? 餅は四角い切り餅が常識でござる。質実剛健。飾りは要らぬ。他の雑煮は認めぬ!」


『へぇ、江戸のお方は節約家でよろしおすなぁ』

「うわぁ腹立つ! 味噌だの黄な粉だの、邪道でござる」


『江戸の文化は独創的どすなぁ』

「よろしい。では戦でござる」


『除夜の鐘の代わりにゴングが鳴りました』




4章の最後まで連日投稿致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ