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11.ならば力ずく でござる

『嫌な話はご飯を食べてから。これ鉄則。お腹が減ってると人は苛立ち、お腹がふくれていると人は寛容になる』


 ミウラの助言により、城全体で先にご飯となった。


 食後、城に勤める者、上は騎士から下は洗濯女まで、全て集められた。

 ボーラ殿は、現在の環境が変わるならと、諸手を挙げて賛同してくれた。

 ヴァンテーラは渋々。某と争いを禁じられているから、打つ手が無いのだろう。あと、悪いことはしないと信じていてくれているのもある。


「えー、まず、自己紹介から。拙者の名はイオタ。こう見えてハイエンシェントネコ耳族の侍でござる。侍とは騎士に似て異なる地位と思って――」

「ネコ耳族の勇者イオタ!」

 老騎士が、某を指さして目を見開いている。


「え? 拙者の秘密を知るあなた様は?」


「お尋ね者50人をたった1人で、しかも素手で全滅させ、オークのコロニーに突っ込んで100頭皆殺しにし、大盗賊団200人を一夜で殲滅し、国際的誘拐組織をその上層組織共々壊滅させ、悪徳商館2軒を破壊し、ダヌビス川で異常発生した川オーク1万を刈り尽くし、川オークキング50頭、川オークエンペラー3頭を纏めて始末したうえ、ジベンシルに巣くう悪竜を倒したドラゴンスレイヤー。そして、この一連の魔族異常発生の源、魔王を決闘の上、封印したという、伝説入り確定、勇者の中の勇者、ネコ耳族の勇者イオタ様!」


 その場にいる全員に衝撃が走った。某に一番衝撃が走った!


「ちょっと待つでござる! お願いだからちょっと待って!」

「――そのうえ、生ぬるい対応をしていた冒険者ギルドに三行半を叩きつけ、ギルドマスターの首をすげ替えた!」


「待てと申すに!」


 有ること無いこと、よく口の回る老騎士に殴りかかろうとしたら、ヴァンテーラに羽交い締めされて止められた。笑ってんじゃねえよ、貴様!


「その時の台詞が『Z級認定? それがどうした?』。いやはや、その話を吟遊詩人ウラッコから聞いたときは、爽快でございました!」


 見物人から、拍手が湧き起こった。希望に溢れた目で某を見るな!

 そしてウラッコ! 草の根分けても探し出し、たたっ斬る!


「ネコ耳族の勇者イオタ様がこの城に降臨なされた!」

「イオタ様なら、この状況を何とかして頂けると信じております!」

「見ろ! 吸血鬼がイオタ様に殴られているぞ!」


 ヴァンテーラをポカポカ殴りつけたが、怪我の一つもしておらん。嫌らしく口の端を歪めて笑っておる!


「くくくくく、なに礼は要らん。先ほどのお返しだ。くくくくく」

 吸血鬼、滅ぼすべし!


『イオタの旦那、風が吹いております。勢いに乗りましょう。この冬、暖炉付きの部屋で過ごせるか否かがこの一瞬にかかっております!』


 うぐぐぐ!


「ええい! しからば、まずは三者の状況を簡潔に説明いたす! ボーラ殿は色々あってヴァンテーラ殿に頭が上がらん! ヴァンテーラ殿は、拙者を殺せぬ! そして拙者はボーラ殿に恩義がある! 言わば三竦み状態。もしくはじゃんけんの関係! 各勢力が拮抗した今こそ、解決の道を示そうではないか!」

『なに言ってるか全然解りません!』


「その方らの心配は、奥方とお腹のややこでござろう! 神に作られしハイエンシェントの名の元に宣言致す! 奥方のお体に魔族の気配は一切ござらぬ!」


 おおーっ! 


『さすが勢いのなせる技。一同、頭から信じ込んでしましました。いや、信じたい言葉を信用できる人から聞いたので信じた。そんな心理でしょう。まだ行けますよ!』 


 ならば怒濤の突き押し!


「次はお腹のややこ! 見るが良い! ハイエンシェント奥義、心眼ッ!」


 たとえ、不具合な結果であろうとも、拙者は良いことしか言わぬの決意!

 たのむ! 心眼殿!


種族:人間

性別:男の子

武力:零

職業:胎児

水準:甲

性癖:年上趣味

運 :五


 年上趣味?

 赤ん坊は母に甘えるのが常! 母は赤子の年上が常!

 よって問題は全く無いッ!

 


「安心せよ皆の衆! 赤子も異変はござらぬ。正常で元気な赤子でござる!」


 一同から歓声が湧き上がった。


「子供は男の子。世継ぎに恵まれ申した。これでマセラティ家は安泰でござる!」


 お腹の子は男の子。マセラティ家に世継ぎができた。未来ができた。

 一同狂喜乱舞でござる。


「メラク奥様、お手柄でござる! ボーラ殿、おめでとう」

「まあ! なんて……なんて! 有り難うございます、イオタ様!」

「よかった、よかった!」


 お腹を優しくさするメラク様。同じようにさするボーラ殿。二人が流す嬉し涙が微笑ましい。

 広間に集うネコ共までが、祝福しているようでござった。



「コホン! 吾輩の事、忘れてないか?」

 一言で水を打ったように静まりかえらせた。


 ヴァンテーラが足を高く組んでふんぞり返っている。

 なんだったら、全員殺すぞ! 的な目で睥睨しておる。

 不味いぞ! 某が捨て身になってもヴァンテーラには勝てぬ!


「そもそも、ヴァンテーラ殿は何の為にこの城を欲した? 人間界に残る理由は何でござる?」

「なに、大したことではない……人間界で情報収集が目的だ」


「だったら、このような田舎ではなく、活発な活動をしておる中央国家に屋敷を構えれば良いでござろう?」


 ヴァンテーラは悪戯っぽく笑った。何か良からぬ事を考えていそうな? 特に某に対して悪意を持った笑顔だ。


「ここレップビリカの目と鼻の先、フェラリルの向こうにドラグリア帝国がある。人間界において、唯一、侵略意欲旺盛な国だ」


 いろんな人からドラグリア帝国はヤバイと聞いていたが、ここに来てその名を聞くとは!


「戦略物資を国境に集めている。夏前に侵攻が始まるかもな」


 なんと! 某はそのまえにドロンでござる!


「ちなみに、レップビリカが落ちたら、ドラグリアの艦隊は南を目指す。南には確かタネラを擁するヘラス王国があったっけかな?」


 こやつ、某の目的地を知っておるのか!?

 マオちゃんの一件で、某に恩義を感じておると言いながら、何を考えておる?

 魔族は信用ならん。ただしマオちゃんは除く。


 一つの問題を解決したと思ったら、また一つの問題が持ち上がった。


『一難去ってまたまた一難。ぶっちゃけあり得ますかね? 運が1の旦那?』


 他家の火事が鎮火したら、自分の家に火の粉が降りかかってきたでござる。


『その問題、拙速な回答は禁物です。考える時間は充分あります。先に吸血鬼の問題をかたづけましょう』


 ミウラはいつだって正しい。一つ一つ解決していこう。


『外交問題にすり替えてしまいましょう。人間界、魔界、お互いの今後の事を考えて、この城を秘密の外交館としては如何ですか?』


 それがいい。

 マオちゃんが目覚めたとき、人間界との接点が一つくらいあった方が良い。

 その事を両者に告げる。


「魔王の封印が解ける500年後の布石ですか?」


 余裕を取り戻したボーラ殿に、未来を考えるゆとりが出てきたようだ。


「吾輩は人族に手を出すつもりは一切無い。今はな! 邪魔されぬ場所を欲しただけだ。ボーラの弱みを握ったのはそれが理由。吾輩の活動に協力してくれるか、干渉してこないだけで御の字だ」


 ここら辺で手打ちにできるかな?


「ならば、将来の人間界、魔族界の窓口として、秘密裏にここマセラティの城を外交館と致す。この城の使用人は、世界の未来、その存亡に関わる重大な意義をしっかり理解し、勤めを果たすよう。なお、余計な騒動を防ぐ為、口外無用!」


 ごくりと唾を飲み込む音をネコ耳が拾った。


「それは、ネコ耳族の勇者の仕事を手伝うという意味でしょうか?」

 先ほどの老騎士だ。


「皆が拙者の仲間である事を願うでござる」


 おおー。との声が広間に渡る。

 先ほどまでとは違う。決意を感じられるどよめきだ。


「皆の者!」

 ボーラ殿が声をあげた。よく通る声だ。もともと、こんな声の持ち主だったのだろう。


「歴史が動いた。この場に居合わせた勇者の仲間達よ! マセラティ伯爵として命ずる! 責任は重大である。心して励め!」

「おおーっ!」


 上は騎士から下は洗濯女まで。腕を突き上げ鬨の声を上げる。

 その姿は自信と希望に溢れていた。


『目的ができた人間は強いですよ。ただし、500年も先の未来について責任は持てませんが』


 雪、しんしんと降り積もる。





「さて、吾輩はどうすればいいのかな? 吾輩の面目を立てる算段も考えてくれるんだろうな?」

 ヴァンテーラが膝に乗せた長毛種の黒ネコの背を撫でていた。


 くっ! 誤魔化せなかったか!


「その顔は、なにも考えてなかったようだな?」


 ヴァンテーラを中心にして、精神的に寒くなる何らかの気が発散された。

 膝に乗っかっていたネコが逃げる。

 怒っているでござる。


『ここはわたしめにお任せを! 先ずは――』


 ミウラ大軍師の出番でござる。

 イオタ流剣法奥義、ミウラ傀儡の舞!


「貴殿、ワインは好きか?」

「ほほう、この大事のツケを酒で支払うか? 勇者イオタ様。どのような高価な酒なのでしょうな? もちろん、国一つは買える値段なんだろうがな!」


「ワイン作るときに、まず葡萄汁(ジユース)を作るでござろう? どうやって作るか、貴殿は知ってござるか?」

「ブドウを潰して絞るに決まってるだろうが! 馬鹿イオタ様」


「……どうやって潰すのかを聞いておるのでござる!」

「……そう言えば、どうやって潰すか考えたこともないな、弱っちいイオタ様」


「まず、大樽に葡萄を放り込むでござる。それを年ごとに選ばれた乙女が、裸足で踏みつぶすのでござる。地方によっては巫女様が素足で踏むそうな」

「だから? おまぬけイオタ様?」


「貴殿、マオちゃんが作ったワインを飲みたくはないか?」

「貴様天才か?!」


「どうにかして、マオちゃんにワインを作らせる方法は無いものか? 我等の知能を! 今こそ魔族とネコ耳族の知恵を一つに集める時ではないか?」

「全面的に協力しようじゃないか! 親友よ!」


「ちなみに、我が祖国日本の古い地方には、乙女による『口噛み酒』なるものがあってだな……。マオちゃんを魔族の巫女的な何かに祭り上げることはできぬだろうか?」

「何か欲しい物は無いか? 宝石とか家とか馬車とか? おじさんがなんでも買ってやるぞ!」





「ふー、さすが魔族四天王最強の男。手強い相手だった!」

『性癖を読み取る心眼こそが最強のチート能力ではなかろうかと思う今日この頃です』



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