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7.怒濤の突き押し でござる


「日の光だと? 何を当たり前のこと言っている?」


 低い鼻で笑うエスプリであった。

 笑われても当然。某も鼻で笑ったことだろう。ミウラがいなければ。

 お日様とは光と熱を与えてくれる。だからお日様なのである。


「拙者の知ってる事をお話し致す。お日様、いわゆる太陽は地球の約百十倍の大きさ。質量は約三十三万倍。太陽までは一万一千七百三十個の地球が並ぶ距離。ちなみに地球とはこの大地のことでござる」

『すべて太陽系基準です』


 天動説でござるな。疑っていたが、ミウラが言うのだから真実だろう。数字はピンと来ぬが。


「な、何を言ってる。私は魔道師であって――」


「偉大な魔法使いなら再現は可能でござろう? この広大な大地にあまねく強い光と強烈な熱を送り込む。それも1日の半分という長時間に渡って? どんな呪文でござるかな? エスプリ殿はご存じか?」


「た、確かに、莫大なエネルギーを必要とする。こんな事、考えたこともなかった」

 動揺しておるぞ!


「さすが賢者殿! 冷静でござる。当たり前を疑うことこそ偉大な事業の第一歩。それが拙者の国の諺にござる」


「まあな!」

 エスプリの低い鼻が高くなった。


「さて、これは拙者の国でも研究途中なのでござるが……、あの光の元となる仕組みについて、一部だけ解明されておる」


「それは?」

 体ごと乗り出してきた。


『釣れました』


「それは、太陽の内部を構成するスイソを熱カク融合に使用し熱と光を出しておる。物質が直接エネルギィに変換しておるのだ。ざっくばらんに言うと、いきなり物の質量全てを光と熱に変化させておる。そんな現象が太陽の中で、自然と行われている。ちなみに、太陽は推定年齢は四十六億年。理論上、太陽として存在できる時間の半分が過ぎておる。人で言う所の中年。働き盛りでござるな」


「む、むう!」

 唸るエスプリ。頭が追いつかんのだろう。安心せよ、某も全くだ。


 スイソって何でござるか?

 熱カク融合って何でござるか?

 ミウラのいた世界は、どこへ向かって全力疾走しておったのだ?


「神のシステムすら解き明かそうとする。それが研究者でござる。人を越え、神に至ろうとする業!」

「神のシステム? 神に至るだと!?」


 太陽は天照大神様でござるから、神の魔法と呼んでも差し障りあるまい。と、某は理解するが?


『続けましょう』

 はい。


「偉い学者さんが大勢かかってもまだ解き明かせていない。まさに神の偉業でござる。神の英知でござる。神の御業でござる。これをエスプリ殿が研究し、だれよりも先に解明しては如何かな?」


「うむうむ、実に興味深い!」

 両手に力を込めるエスプリ。姿勢も前屈みになってきた。

 

「次はこの大地、地球でござる。巨大な球体であることはご存じであろう? 球体である以上――」

「まて! まてまて! 少し話しを休んでくれ! この大地が球体だと?」


『知識の飽和攻撃に根を上げましたな。さらにぶっ込みますよ!』

 え? まだぶっ込むネタがあるの?


「何を言っておられる? 球体であるからこそ様々な自然現象に説明が付く。大地が果てしなく真っ直ぐなら、地平線・水平線など見えぬでござろう? 球体であるから地平線という仮先端が見えるでござろう? 常識でござろう?」


「む、むう、そうだ! さっきのは言葉のあやだ。か、勘違いするな!」


『知ったかぶりが出てきました。内心グダグダですな』

 そうか? 汗をかいておらんようだから、まだ冷静じゃないのかな?


『汗腺が全部死んでるんですよね? あ! だから体温上昇しないように日の熱を避けたり暗い場所に住んだりするのか!』

 ミウラも何やら得る物があったようで何より。まったく解らんが!


「さて球体には上下がござる。横もござる。なのに人も物も落っこちることは無い。それは重力が作用しているせいであって、重力とは空間の歪みであり、この空間の歪みこそ、重力魔法の原点ではござらぬか?」


「これは重要なヒントだ。コホン! では太陽と地球の研究から始めよう! 重力魔法と太陽魔法の始祖とならん!」


 やったでござる! ご機嫌な声でござる


「エスプリ殿、研究にそこまでの戦力は必要でござるか?」


 エスプリの後ろに控える鎧武者さん達と、巨大骸骨。それとこいつらの数。ダンジョン中で徘徊しておるとのこと。この数と戦力が厄介なのだ。


「部下の管理に時間を割いては本末転倒でござるよ」


「確かに! イオタの言うことは一々もっともだ。だが、ダンジョンより自然ポップしてくる魔物の対策も必要だ。なにかよいアイデアはあるか?」

「されば名案がござる――」


『勝った!』

 ミウラがネコのちっこい手でガッツポーズとやらをしておる。ネコの前足は案外器用に動く。


「今まで通り、冒険者を誘い込んで魔物を退治してもらうでござるよ。初歩的なダンジョン故、エスプリ殿に脅威を与えられる冒険者は近づかぬでござる」

「うーん、だがなぁ……」


 ここでミウラの一手。

「学問所、つまり学校という手は如何でござるか?」


「ガッコウ?」


 イセカイにも学校はあるだろう? アンニャちゃんも通っていた。


「そもそもエスプリ殿の知識も、元を正せば誰かに教えて頂いた物。某の微々たる知識も、多くの先生、教授により授かりもうした」


 ミウラめ! 話の舵を大きく切りおったわ。

 ここから先は話が強引になる予感がする。


「知識とは先達たちの試行錯誤の結果、努力の結晶、人種のみが作り出せる宝物。たった一人で何ができよう? せいぜい過去の遺物に光を与えるか、脚色(アレンジ)するかでござろう?」


『ストーリー小説は全てがシェイクスピアに通じる。漫画の手法は全て手塚治虫先生に開発し尽くされた』


 知らんがな!


「そ、それはそうだが、愚かな者どもと机を並べていても足を引っ張られるだけだ! そして人間の生は短い! 短すぎる!」


「何も禁断の領域に踏み込んだことを攻めているのではござらぬ。人は短命故に、生徒や弟子を取るのだと言いたいだけでござる。己の集めた知識を次世代に伝え、道を指し示してやる。次世代がより前を歩き出し、また世代が変わる。人は死んでも文明と学問は残る。知識と学問に終わりはない。ちなみに拙者の国では、六歳になれば国民全員が小学校へ進み、基礎的な勉学に励むのでござるよ」


「ショウ学校?」


「幼年学校でござるかな? 拙者の国では、ここで六年間、四則計算と読み書き道徳、お日様の仕組みなど物事の理を学ぶ。ついでに体力も養う。この程度はほぼ全員が履修致す。さらに十三になれば中学へ進み、三年間、より高等な数学や物理に文学を学ぶ。他国の言葉もここで学ぶ。落ちこぼれた者は、休みの日に補修が入る。そして皆共通の知識を得るのだ。ここまでが義務教育で国民は全員、勉強する義務と権利を持っている。ここから先の高等学校、大学校、国防大学校、専門学校は任意による」


 ちょ、ちょっと、ミウラさん。子供が学ぶ量にしては多すぎやしまいか?

 ほら、エスプリさんも当惑したっぽい顔をしておられる。顔の肉が少なくて解りづらいけど。


『多少の弊害は認めますが、そんな甘っちょろいこと言ってて、現代社会を生き抜けませんよ! あなたのことを思って厳しく言ってるんですよ!』


 はい、すみません。


『ではとどめを刺しましょう』


「エスプリ殿。失礼だが、不死王となっても、何百何千年か先いつの日か、その体は滅びるのでござろう? 溜めた知識はそこで露と消えるのでござるよ?」


「たしかに。たしかにそうだ。永遠に近い命であるが、永遠ではない。私が死ねば、それまで溜めた知識は霧散してしまう!」


「そのために書物がある。弟子や生徒がいる。正しき道を指し示す教育者が必要なのでござる。この国、いや世界のために!」


「教育者? 世界のため!?」


 おおお、エスプリ殿の体から覇気が! 疾風のように吹き出して恐いでござる。こんなの相手

に勝てるわけないでござる!


『うまく乗ってくれました』


「それに先生と慕ってくれる人間も可愛いものでござるよ。……女子生徒とか」

「女子生徒……」


「可愛い制服を採用するとか?」

「制服? なんてパワーなワード!」


 眼窩の奥の青い光が揺れ動いている。それ、怖いんですけど。


「エスプリ殿にしかできぬ事業があるはず! このままただじっと時を重ねておれば、人種は愚か者ばかりになる。エスプリ殿ほどの知恵者なら、愚とう災難からこの世を救うことができる。拙者はそう思う」


「世界を救う……。だが、もはやこの姿では……」


 クワッと口を開くエスプリ。口の中は干涸らびた舌が! 恐い!


「マスクを被るとか、ほら――」

『ほら旦那、こっそり収納から試作の面を出して!』


 イオタちゃん人形と並べて売ろうかと思って試作してたアレ! G系列もびるすぅつ、とかの面だ。大河原意匠と永野意匠の系列が有るとか無いとか?


 子供っぽいので万人受けはすまい。

 ミウラ監修のZ型と、某お勧めの∀型を取りだした。


「む、それ格好いいな! 髭の無い方が!」

 ウケたでござる!


「一つ五百セスタにござる」

「高くないか?」

「ワンオフにござる故」


 律儀にも、悪霊が金を支払ってくれた。


「まいどあり」

 

『続けます』

「幻術を応用した変身魔法(しぇいぷちぇんじ)はご存じか?」

「シェイプチェンジ? 幻術を応用して? 可能だ! 我が頭脳なら簡単なことだ。ほら、もう魔法方程式をあらかた組み上げたぞ。待てよ待てよ……できた! 強殖装光(ガイバ)!」


 エスプリの姿がズバッと歪み、ズバッと綺麗になった。

 白い貫頭衣をまとった白髪交じりの黒髪。色気を感じる中年男が立っていた。


「これでどうだ?」

 やる気満々のエスプリでござる!


『幻影の魔法は、ああやって組み立てるのか。参考になる!』

 ミウラもご満悦のよう。


「女生徒ウケするお姿でござる。な、スヴィ?」


「え? はい! 先生格好いい!」

 機転の利く子で良かった。


「そして、その面を付ければ完璧。おお、魅力的でござる!」

「秘密を持った美男先生! 謎多き仮面教師! 秘めたる魅力! 教師仮面様!」

『パーフェクト! フルアーマーです!』


 そこの二人、褒めすぎでござる。


「いのか? 逆に怖がられないか?」


「何を仰る! 不快な印象であろうが、心をドキドキさせることに変わりはないでござる。恋とは心のドキドキから始まるのでござる。これぞ純愛でござる!」


 動かなくなるエスプリ。上手くいくのか? 某の心臓が激しく鼓動を打ってる。


『勝負です!』

「長い間、泥の中に埋まっていた種が芽吹き、花を咲かせる。それは蓮の花『イセカイにもありました』でござる。エスプリ殿は、まさに蓮の花。蓮の花の体現者にござる!」


 そして――

「教導賢者、(ロータス)エスプリ。そう名乗ろう……かな?」



 エスプリ殿、おっさんが小首をかしげても可愛くないでござる。



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