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6.対決 でござる


 翌朝でござる。


 日の出直前。東の空が白み始めた時間でござる。


 地下王国の壮大な大手門の前に立つ某、と懐にミウラ。と、後ろにヴェグノ軍曹。と、隣に女装エルフのスヴィ。と、どうでも良いけどウラッコ。


 スヴィは聖魔法が使えるので、万が一のことを考えて呼んだ。万が一の時、聖魔法を飛ばしている隙に逃げる為だ。ウラッコは勝手に付いてきた。盾の代わりぐらいには使えるだろう。


 ミウラが言うに、精霊教布教員とは精霊教なる教えを布教する坊主との事だ。坊主が女装とは末法の宗派でござる。破戒僧でござる。精霊教だけは信じぬでござる。

 精霊教の力を見せて頂きたいと説いたら、二つ返事で付いてきた。キリシタンのバテレンのようでござるな。


 さて、これから勝負でござる。

 仕掛けるのは某を介したミウラ。受けるのは死霊王エスプリ。


「儂は口を挟まねぇ。儂の運命も過去も、何もかも全てイオタに任せるぜ。いいね、こういう博打!」

 ヴェグノ軍曹殿が、子供のように笑っておる。


 手にした布でグルグル巻きの銃を握り直し、存在を確認する。


「よいな、ミウラ」

『ガッテンで!』


 大門の前に仁王立ち。口上を述べる。


「やあやあ我こそは、日本は江戸の住人、エンシェントネコ耳族の伊尾田松太郎! 腕に覚えがあらば手合わせ願おう!」


 ミウラが言うには、死霊王エスプリは、何らかの方法で門の外を見ている。絶対にだ! とのこと。

 だから、某の口上も耳に入っているはず。


 この程度じゃエスプリは出てこない。ダンジョンの奥にいるらしいから、名乗りを上げたくらいじゃ、顔は見せぬ。いいとこ、化け物骸骨を使わすくらいだろう。


 だが、ここまで引きずり出す!


 するするっと、布を解き、銃を頭の上に抱え上げる。


「これに見覚えがござろう?」


 充分見せつけてから、びしっと構えてみせる。ここまではエスプリも理解していよう。武器だとアタリは付けているだろう、……とミウラが言ってた。


 台本通り、次の段階へと進もう。


 ミウラが作った弾を三つ。見せつけるように弾倉に込める。

 ボルトを引いて撃つ!


 ズパーン!


 石の門に小さなへこみができた。軍曹が嫌な顔をするが、これは許可済み。

 素早くボルトを操作し、第二弾発射。第三弾発射。弾込した分を撃ち尽くした。


 撃ち終わった銃を下段に据えて待つ。


 エスプリは、これが何かを知りたがっている。それを知る者がここにいるぞ!

 さあ、来い! いささか乱暴に蹴り込んだ蹴鞠(ボール)は、エスプリの足元にある!


 そのまま、ゆっくりと五つ数えた時。

 ギギギと重い音を立て、門が開いていく。ゆっくり開いていく。


「門が勝手に開いていくッピー!」


 城を守る門である。内側から開けられぬはずがない。

 半分開いた門の向こう。朝日が差し込む通路に、……死霊王がいた。

 風格、威圧力、王の気品。あ奴が死霊王だと某の勘が告げる。

 先頭に立つ死霊王の後ろに、人の背丈を超えた鎧武者が三名。


『ジオン系の重モビルスーツですね』


 内、一名が、黒い鉄砲を大事そうに掲げている。某が持つ鉄砲より上等そうだ。

 鉄砲を持たぬ鎧武者が早足で歩み出て、扉に刻まれた銃痕の前に立つ。小刀を取り出して弾をほじくった。


『わざと潰れるように鉛で作りました』


 ほじくり出した潰れた弾を死霊王へ手渡す。

 死霊王は何も言わず、掌で弾を転がしている。おもむろに前と出てきた。光に中にその姿を現したのだ。


 死霊王は、僧侶のような服を纏っているでござる。肩幅が広いでござる。『世紀末式肩パットですね』。頭からすっぽりでござる。


 真っ黒で小汚いでござる。

『洗濯も日光消毒もしてませんからね』


 顔しか見えぬが……何と恐ろしい顔でござろうか。

 骸骨に皮が張り付いただけ。しかも爛れておる。鼻は陥没し、平面に穴が二つ開いているだけ。

 唇も無く、黄色い歯が剥き出し。抜けている所は無いので、マメにお手入れしているのでござろうな。

 さらに目玉が無い。窪んだ眼窩の奥に、小さい人魂が揺れておる。あれもイセカイでは青い目なのでござろうな。


 無残でござる。


「その方、女子にもてぬでござろう?」

「はったおすぞ!」


 初めての会話が厳かに交わされた。 


「改めて名乗らせて貰う。拙者、ネコ耳族の伊尾田松太郎。イオタと呼んでくだされ」

「我が名はエスプリ。不死の賢者エスプリと呼ぶ事を許す」


 尊大でござる。自尊心が強すぎ。銃のこと知らなかったくせに!


『典型的な厨二病患者ですな。まずは、賢者ではなく探求者では? と聞いてみてください』

「探求者でござろう?」

 素直にぶつけてみた。


「ふむ……そういう見方もできるな。知識と、主に魔道の探求者だ」


 自慢げでござる! 自分の台詞に酔っておる!


『つかみはオッケイ! 念のため、心眼を使って頂けますか?』

 レベルが高い相手だと読み取れぬのだが、なぜか一項目だけ明け透けなのだ。


「心眼!」

 くわわっ!


種族:+++

性別:+++

武力:+++

職業:引きニート


 引きニート、とは何でござろうか? ニート、はてどこかで聞いたような?

 ミウラがニートがどうのと……解った! ミウラは博士。エスプリは賢者! ニートとは日本語で学者の意味でござるな!


水準:+++

性癖:純愛主義者・面食い

運 :+++


 じゅ、純愛主義者でござるか? 死霊王を名乗る男が? これはちょっと笑えぬ。

 あと面食い? 身をわきまえよ!


 エスプリは傲慢ちきな態度で某らを睥睨する。純愛主義者のくせに!


 ゆっくりとぞんざいな視線を移動し、某の所で僅かに止まり、また何でも無かったかのように視線を動かし、スヴィの所で僅かに止まり、また動かす。それがもう一度往路で再現される。たぶん、ウラッコと軍曹は輪郭しか認識してないぞ。


『では銃の説明を――』

 ここから先は、ミウラの台詞を某流に変えて話を進めることとなる。


「これは銃と呼ばれる武器。その名もボルトアクション式自動小銃。拙者の故郷では鉄砲と呼ばれている。ちなみに、拙者の家は鉄砲兵科の出でござる」


 軽く前振りでござるな。


 懐より空薬莢を摘み出し、エスプリに放り投げる。

 エスプリは、大げさな手振りでそれ受け取る。何となくエランを彷彿させられてイラッとする。こいつら兄弟じゃあるまいな?


「鉄砲の本質はその薬莢を含む弾丸でござる。弾丸は、エスプリ殿が手に持つ金属」

 エスプリは掌を開き、潰れた弾丸に青白い目を落とした。


「使い方でござるが、まず薬莢に魔力を注ぎ込んでおく。自動的に魔力は爆裂系に変換され、薬莢の底部に蓄積される。用意の終わった薬莢に弾丸を差し込んでおく。これが弾丸でござる。ここでやっと鉄砲が登場する。鉄砲の薬室に弾丸を装填し、引き金を引くと撃鉄が弾丸の尻を叩く。その衝撃で仕込まれた魔法が爆発。勢いで弾が前方へ飛び出すという仕組みでござる。簡単な仕掛けでござろう?」


 ざっと鉄砲の仕組みを話した。鉄砲をよく知る某であるので何とか付いてこられたが、鉄砲素人のエスプリに付いてこれるかな? にやり!


「なるほど、仕掛けを知れば、なんとも簡単な。クラフトであったか」

『ちなみにクラフトとは工芸品のことです。話を続けましょう』


 う、うむ! 付いてこれたか。……しょぼーん。

『耳が萎れてますよ、旦那』


「エスプリ殿ほどの賢者でござれば、鉄砲の仕組みを知れば欠点も――」

「魔法の方が使い勝手が良い」


 話が早いでござる。


「誰にでも使えるという利点はあるが、所詮、物理の攻撃。魔法による属性攻撃はできぬ。そして弾切れは早い」


 エスプリの掌に魔力っぽい何かの渦が巻く。某に向けて殺気が放たれている。


「弾切れではこの攻撃をかわしきれ――」

 ズターン!


 四発目の弾がエスプリの額を貫いた。


「だれが三発しか装填してないと言ったでござる? ここへ来る前に、一発余計に弾丸を仕込んでおいたのでござるよ」


 エスプリの体は、僅かに揺れただけ。


「面白いネコ耳だ。ふむ、もう一つの弱点。不死者に通常の攻撃が利かぬ事。良いおもちゃだった」


 だが、攻撃は止められた。

 頭をぶち抜かれたのに平然としている死霊王エスプリ。


 吸血鬼のヴァンテーラですら胸を貫いても平然としていた。死霊王たるエスプリにとって、羽虫が後ろを通り過ぎた程度にすら感じぬのであろうな。


「フッ、つまらぬ。これは返す。……時間の無駄だった」


 鎧武者より黒い鉄砲をむしり取り、某へむけ放り投げよった!

 がっちり掴ませて頂きました。


「軍曹殿、取り返しました」

「お、おおおお……」


 軍曹殿、そう緊張されては心臓に悪いでござるよ。



「むむ、終わってみれば当たり前じゃった。仕組みを知れば興味を無くす。いや、ありがとうイオタ殿!」

「未だでござるよ。もう一つの問題が解決しておらぬ。ダンジョンではびこる不死者の群れ」


「そうだ、それを解決せねば、ドワーフは軍を起こす!」



 改めて、エスプリと対峙する。


「ところでエスプリ殿」

 ここで初めて銃を下ろし、にこやかに話しかける。


「エスプリ殿、日の光は大丈夫でござるかな?」

「馬鹿にするなイオタ。私は日の光などとうに克服している」


『これよりわたしのターンが始まります! 永遠に!』


「さて、日の光とは、そもそも何でござろうか? 是非ともご教授願いたい」


 そう。

 ここからがミウラの攻撃でござる。


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