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8.間話:男二人

今回は間話です。


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 ネコ耳族の村を襲撃してきた賊共を撃退した後ッ! そしてミッケラーと邂逅する前の時間ッ!

 TSネコ耳少女とオタク子ネコの間で持たれた、秘密の時間であるッ!


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 お天道様は一つ。お月様も一つ。お江戸の空とイセカイの空は変わらぬ。

 しかし、動物や植物は違う。人々の毛色も違う。刀や鎧も違う。ネコ耳の人間も初めて見るものだ。


「まことイセカイとは、摩訶不思議な場所でござるな」

『イオタの旦那、何か面白い物でも見つけましたか?』


「うむ、ここへ来る前にだが、白馬の群れをみた。みんな一本角を生やしておった」

『それはユニコーンです。乙女のみが乗馬できるとされる気高い馬ですね。角には解毒作用があるとされています。滅多にみられない動物ですよ。まれにデストロイモード形態に変身するタイプが混じってます』


 ミウラの博識ぶりに驚く。オタクなる博物学者集団の知識は、さぞや世の役に立っていたのであろうな。


「大根の類いだと思って土を掘ったら、根の部分が老人の顔だった。怖くなったので逃げてきた」

『マンドラゴですね。旦那の勘は冴えてましたよ! あれは、いわば、呪いの大根でして、根っこを抜いたら即死でした!』

「なんと! 危ない所であったニャー!」


 イセカイは恐ろしい場所でもあるのな! 基本的な事だけでもミウラに教わっておいた方がよいだろう。

 ……そういえば、約束があって話す事は出来ぬが、でっかいトカゲの事も知っておるだろうか?

 出井野(ディノ)殿の動物としての名前が分からんと、支障が出てくるやも知れぬ。


「ミウラよ、えーと……」

 どう話そうか?


『何ですか? 姿形さえ解れば、大抵の名前は分かりますよ』


 ミウラは大博士である!

 個人が特定されなければよいのだ。形態だけなら話しても良かろう。

 三越の倉ほど大きかったな。


「一番近い姿はトカゲだ。大きなトカゲだ」


 大木のように太い後ろ足だった。器用に立っておったな。ちょっと可愛かった。

「それと、えーと、二本足で立ったな」


 会話できたからな。

「んーと、人の言葉を解するようだぞ」


 そんな所だろうか?


『大型で二足歩行し、言葉を話すトカゲ? ああ、リザードマンですよ! 厳つい見た目と違って温厚な生き物です。危害を加えない限り、襲ってくる事はあません。ただし、戦うと勇猛ですよ!』


 りざあどまん、か。確かに厳つい見た目に反して温厚であったが、戦うとなると腰の刀は通じぬだろう。騎馬が使う槍で何とかなるか?

 いやいやいや、出井野(ディノ)殿と刀を交える事はあるまいて。もしあったら瞬殺される自信があるでござるよ。


『ところで』

 ミウラが居住まいを正した。なにやら真面目な話があるようだ。


『旦那が戦闘で使われたスキル、もとい、不思議なお力の事でお話があるのですが……』

「雨や敵の動きがゆっくりになった、あの不思議な現象でござるか?」


『そうです。あれは加速装置……は島村さんちのジョー君か。回りがゆっくりになったんじゃなくて、旦那の動きが鳥より速くなったんです』

「拙者が速く動けるようになったので、逆に回りの動きがゆっくりに見えたという訳か? うむ、一理ある。だがしかし、その力、意のままにならぬのだ」


『なるほど。条件付きパッシブスキルか、もしくはアクティブなのに発動させるという認識が旦那にないだけかもしれませんね』

 ぱ? あく? 蘭語でござるか? 


『旦那、一つ実験致しましょう! 石っころを上に放り投げ、心の中で「加速装置」と強く念じてください』


 カソク? 加速ね。ソウチ? 装置か? 加速装置とな!

 足下の小石を拾い上げ、軽く放り上げる。


「よし、加速装置!」 


 ギシィ!


 おお! 小石の動きが! 鳥餅に絡められたように!

 あの時のようにゆっくりとなった。


「ミウラよ――」


 ミウラが止まっていた。いや、動いているのだが、実にゆっくりだ。


 もう一度放り投げた小石に視線を戻す。頂点を過ぎ、落下しつつある。とてもじゃないが、落ちてくる石の速さではない。糸で吊られているのではないかと疑うほどゆっくりだ。

 じっと見ていると、急に小石の落ちる速さが元に戻った。


『やりましたね旦那! まさかほんとに加速装置がキーワードとは知りませんでしたが言ってみるものですね! ……たぶん「加速」だけでもイケルでしょうが。

 今は小石を放り投げる程度の時間しか使えませんが、何度も連続で使えるはずです。それと使っている内にレベル……えーと、腕が上がって、長い時間使えたり、より速く動けるようになります。

 これは旦那の生命線ですよぉ! ご精進して腕を上げてください』


「おお! 背が低くなった拙者にとって、頼りになる力であるな! よし、さっそく練習しよう」


『加速装置を使うにあたってですが、力が解除されたら「そして時が動き出す」という台詞を口にする風習が未来の日本にあるのですよぉ』

「それ恥ずかしいな。……まあ、考えておこう」


『島村さんちのスイッチが奥歯にあるって設定だったけど、食事の度に加速装置が働いてるんじゃないかな? フランソワーズとお高いレストランでお食事してる時なんかにうっかり加速してしまったら怒られないか? 二人の仲が心配だな……』


 ミウラが独り言を喋ってるが、なに言ってるのか全く解らない。おそらく、ミウラが生活していた世のなかの出来事なのだろう。

 島村殿とかの未来に幸あれと祈るばかりである。


『演算加速とか、防御フィールドなんかもセットされてるようだし……さすがは至高神のご母堂様。さらりと高性能を肉体に付加、……まてよ、イザナミ様は多くの神を生み落とされたお方。まさか!? イザナミ様が造られたのだから、イオタの旦那の体は!?』


 何やらボソボソとミウラが言っておるが、難しくて半分も解らない。


 あ、神通力と言えば、思い出した!

 伊耶那美様が仰せであった、……なんだっけ?


「あいて? あいてんぼっくり? 某に不思議な押し入れが付いておるそうだが……」

『アイテムボックスですね。まさに押し入れです。旦那、アイテムボックスと念じてください』


「あいてむぼっくす! ニャッ!」

 顔の横に小さな闇が現れた。


『ネコ語尾で驚く旦那を頂きました! 大丈夫です。そこら辺の小石を拾って、アイテムボックスに入れてください』

「だ、だれが驚いてなぞいるものか! こ、こうかニャー?」


 手頃な小石をあいてむぼっくすとかいう謎の闇に、おっかなびっくり放り込む。


『次は、閉じろと念じてください』

「閉じろ。ミャオウ!」


 あいてむぼっくすが閉じたぞ!


『もう一度アイテムボックスと念じてください。声に出す必要はありません』


”あいてむぼっくす”

 再び闇が現れた。


『では先ほど入れた小石を取り出しましょう。小石を掴む気持ちを持って、アイテムボックスへ手を入れてください。なに、取って食われる事はありませんて!』

「ば、ばかやろう! 誰が食われるニャどと! こ、こうか? おおっ!」


 手に先ほどの小石が握られていた。


『驚く旦那は至高の宝。……至高りたい。……もとい、このように、アイテムボックスとは、見えない巨大な背負子なんですよ。中のスペース……広さは人それぞれですなんですが』


「伊耶那美様は押し入れほどの大きさだと仰っていた」

『まあそんなもんでしょう。これはレアスキル、滅多に持ち得ない力ですんで、秘密にしておくべきです』


「確かに! この力を使えばご禁制の品々を持ち込み放題でござる。犯罪の証拠や死体そのものも放り込んで悠々と町中を歩けるでござる。置き引きから殺人まで、完全犯罪が可能でござるよ。これは大変危険な力であると認識しているでござる。どうしたミウラ?」


 ミウラが阿呆のように口を開けている。


『そ、それはそうね。よく考えれば世の中のあらゆるシステムを崩壊させる危険なスキル! レアスキルどころか、ウルトラスーパーレジェンドレアスキル。加速装置や魔法自在なんざ目じゃない!』


 何を今更。ミウラの慌てぶりが滑稽である。

 ところで……まだ何か大事な事を忘れているような……。


「あ! そうだ! ミウラよ!」

『はい、何ですか?』


「伊耶那美様から、お詫びの神通力を頂いてきたのではないか?」

『これは失礼を! すっかり忘れてました。今行きますか?』


「うむ、賊も討ち果たしたし、これから相見えんとする者も、所詮商人。拙者が臆する事などないであろう。やってくれ!」

『では遠慮無く。そーい!』


 えらく気の抜けた掛け声と共に、体の中に浸みてくる何か。冷たいようで熱いようで何とも言えぬが、体がだるくなり、気分も優れぬ。

 賊共を退治した後で良かった。これではちょっと戦えぬな。


『はい受け渡し完了です。この力は「鑑定」……うーん、たぶん意味が通らないでしょうね。そうそう、江戸時代の人には「心眼」の方が理解しやすいでしょうか? 旦那、これは「心眼」と呼ばれる力です。人の本質を見抜く力です』


「心眼か!? なんか格好いいぞ! 剣の腕前が上がったような気がする! 十四歳の時、奇しくも某が考え出した必殺技と同じ名前だ」

『江戸時代のお方も、厨二病ってのがあったんですねぇ。心が温まります』


 ミウラはほっこりとした目で某を見ていた。


「それで、この『心眼』だが、いかようにして使うのであろうか?」

『意味が通じれば良いんであって、大抵は先ほどの加速装置と同じで、心の中で「心眼」と唱えるだけで発動するはずですよ。わたしを実験台にして使ってください』


 よーし使ってみよう。ミウラを目で捕らえて……。

 心眼!

 すると、文字が認識として現れた。



種族:ネコ(チャトラ)

性別:雄(元女子)

武力:五 上昇中 

職業:魔法使い

水準:乙

性癖:腐女子・レズ・処女

運 :八



 ……大体は、まあ、解った。武力は十段階の評価だろうな? どれくらいの所に居るのかって事だろう。数が五とは、魔法使いとして、大体中間の強さという事か。

 水準は職業の熟練度であろうか? 甲乙丙丁による評価となっているらしい。乙は上から二番目だ。それなりの使い手なのであろう。


 理解できないのは性癖の表示。


「なあミウラ、性癖って何だ? 癖のことだろう? なんだか違う意味ではなかろうかと某の魂が叫んでおるのだが?」


『さすが旦那です。男女が交わる時の癖とか趣向とか、そんな意味でございますよ』


 なんと破廉恥な! 伊耶那美様、良いお仕事をなさいます!


 でもって腐女子ってなんだ? れずってなんだ?

 そもそも性癖を見抜く能力って必要あるか?

 あと、三十過ぎにして処女は辛かろう。 


『イオタの旦那ご自身に向けても心眼が使えるはずですよ!』


 そうか、それはいい。客観的に自分の強さや状態を計れるって寸法だ。

 そーれ自分に向けて心眼!



種族:古よりのネコ耳族(黒猫)

性別:女

武力:六(足す二)

職業:浪人

水準:丁

性癖:女性を恋愛の対象とする女性。新しい扉を開く者

運 :一



 武力の「足す二」ってなんだろう?

 加速装置を使った際の腕前上昇分だろうか? 多分そうだろう。


 職業が浪人になってしまったが、これは致し方ない。水準が「丁」なのは、浪人になりたての、いわば浪人素人であるからかな。これも仕方あるまい。生きていれば、いずれ甲へ上がるであろう。


 ……浪人の甲になる前に、手に職を付けたいでござる。


 性癖って……まあ、男は嫌いだからね。女子おなごを愛するってのは間違いが無いところだ。ただ某、性癖表示を心眼に組み込んで良いのかって点を問題としたいのだ。


 最後に、運が一ってのは何だ? 運が悪いって事だろうか?

 拙者、ネコより運が悪いので御座ろうか? 

 解せぬでござる!


『旦那、旦那! どうやら例の行商人が来たようです!』


 村に続く一本道の向こう。なだらかな丘の上に、馬が引く荷車が見えた。

 あれが伊耶那美様の仰った行商人であろう。


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 そして話は前回の最後に続く。



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