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5.ドワーフが作りし武器 でござる


「地下王国から引っ越すときだ。地下宮殿は掃き清められるようにして、一切を残さず持っていった。でもたった一つ残った物。そいつは儂が見落としてしまった、たった一つの遺産。それがこいつだ!」


 机の上の長箱を拳でドンと叩く。


『ウェグノ軍曹のケアレスミスですか……』


「何年も後に、在庫を整理していた儂は忘れ物に気づいた。儂は、それが悔やまれて……王国を出奔して……といっても現王に許しは得たけどな。ここに戻ってきたんだ。そうしたら、死霊王が住み着いていて、ドワーフの秘密兵器も奴の手に。この目で見たんだ!」


 軍曹殿は、拳を固く握りしめた。


「エスプリがあそこを去らないのは、そいつを手に入れたからだ」

 王国最後の財宝でござるな。


「それがこれだ。やつはこれが何か知りたいんだ。なにせ、死霊王ですら一発で葬れるパワーを持ってるからな!」


 某は改めて机の上の長箱に視線を落とす。


「炎か吹雪を吹き出す剣でござるかな?」

 死霊の魔物を葬れる力を持つドワーフの不思議武器でござろうか?


「ちげーよ。ほら」


 机の上で箱を開けた。

 現れたのは木と鉄が組み合わさった――。


『旦那、これは!』

「危ない物でござるな」


「触っても良いぜ。そいつがなんだか解るかな?」


 手に取る。予想通り重い。


 全長、四二寸『約130センチ弱』。

 重さ、一貫に及ばず『4㎏弱』。


 それを手に取り、構える。

 右手で鉄部分の終わりを握り、木の部分の終わりを肩に当てて固定。左手は鉄部分に添える。


「種子島でござるな」

『ボルトアクション式ライフルですな』

 未来ではそう言うか?


『三八式歩兵小銃に似ております。ライフリングが施されていますね』


 伊尾田家は鉄砲組の出。家に古びた種子島がござる。形はさほど変わっておらぬ。

 撃ったことは無いが、取り扱いはしっかり仕込まれておる。


『だから構えが様になってたんですね。種子島と仕組みに大差ないですが、それなりに進化してます。弾は後ろ込式になっていて、そこのボルト・ハンドルという取っ手で操作する連発銃です。いいですか――』


 懐から飛び降りたミウラ。銃を覗き込んできた。


『ボルト・ハンドルを上へ縦に回して起こして、ボルト、……遊底……、えーっと、そこの出っ張りごと後ろに引きます』

「こ、こうか?」


 思ったより固い。力が要るが、これは慣れが解決してくれる程度の重さだ。


『引くと、空薬莢、えー、金属製の早合の残りですかね? が、弾き出されて弾が装填されます。これは弾が入ってませんので、落ち着いて操作してください』


「こうか?」

 出っ張りを動かすと、ガチンと心地よい音がした。


『次に飛び出したボルトを掌底で押し込んで。重いから力一杯乱暴に。そうそう、ボルトハンドルを右へ真横に倒して、そこの溝っこに固定して引き金を行くと発射です』


 狙いを定め、引き金を引くと鉄と鉄を打つ音がした。


「こんな所でござろうか?」

 ミウラと軍曹殿、二人に向けて問いかける。


『さすがです旦那。あと十回も練習すれば熟練の狙撃兵ですよ!』


「お、おい、イオタ! それなんだか知って扱ってるのか?」

 軍曹殿が……鳩が豆鉄砲を喰らった目をしていた。


「銃、鉄砲でござるな。遠くの鎧武者を一撃で倒す武器。強力な飛び道具でござる。一丁だけでも狩りに使えば熊をも倒す。何百丁と揃え一斉射撃をすれば、どのような軍勢であろうと一溜まりもあるまい。また攻城戦において、城門を攻略するに必須の武器とされる」


 軍曹殿の目が吊り上がった。あれ? 説明でしくじったか?

 狂気の様に吊り上がった目。口が――口の端が吊り上がっていく。


「ぶわっはっはっ! そうかそうか! やはり貴様はハイエンシェントネコ耳族。お前達はこれを知ってるのか! ネコ耳族の王国は、それをとっくに使っていたのか!」


 某の背をバンバンと叩く軍曹殿であった。


「痛いでござる! ところで、不死王は鉛玉を打ち込んだら死ぬのでござるか? 拙者が知ってる不死者は、鉛玉を何発撃ち込まれた所で屁でもないでござるよ」

「鉛玉? なんだそりゃ?」


 急に真面目な顔付きに戻った。

 え? これ鉄砲でしょ?


「何が悲しゅうて鉛玉なんか撃ち出さきゃならねぇ? 鉛玉ぶち込むくらいなら、魔法攻撃の方が色々あって有利だろうが? 火とか氷とか――。特に不死王相手へ鉛玉ブチ込んだって、あいつは屁とも思わないぜ! こいつはもっと凄いのを撃ち出す機械だ!」


 鉄砲ではないと?


『はて? どう見てもライフルですが?』

 ミウラすら欺くドワーフの技術でござるか?


「これだよ」


 軍曹殿は、机に大きな紙箱をドスンと置いた。中身は重そう。

 紙箱をひっくり返す。中身がジャラジャラと音を立てこぼれた。


『薬莢、えーと、金属でできた早合っぽいの? 先っぽに鉛玉を差し込んで完成品。おや? 薬莢の底に魔法に頼る仕掛けが? 爆発系ですかね?』


 軍曹殿が立ち上がった。戸棚の奥をゴソゴソしている。

「それで、えーっと……」


 金庫? 戸棚の奥に隠し金庫がある?


「こいつだ」

 金庫から出した手に握られていたのは、透明な、先の尖った?


『硝子の弾丸? 魔晶石かな?』


「こいつはとんでもねぇキャパシタを供えた、ドワーフ製特殊弾丸だ。一端こいつが解き放たれりゃ、氷だろうが光だろうが、どんな障壁だってひとたまりもねぇ! 鉄ゴーレムも鉄の城門だって、全て(エネルギー)でぶち破る! 特殊非晶質製魔晶石。略して特殊非晶質魔晶石」


 全然略してないが、なんかいいぞ!  男の子心をくすぐるぞ!


『魔法を物理で打ち砕く! イセカイ物の醍醐味です!』

「凄いでござる! さすがドワーフでござる! それを使えば不死王を倒せるのではござらぬか?」


 なぜそれを使わぬのか? 解せぬ!


「残念だがエネルギーがねぇ。この魔晶石はたらふく魔力を食いやがる。あふれかえっていた魔晶石も残り少なく、手持ちの魔晶石じゃ力が足りねぇ。通常攻撃で80発分」

「80発もあれば十分でござろうに?」

「そんなんじゃ不死王をブチ抜けねぇ。中途半端なエネルギーによる攻撃じゃだめだ。不死王にコイツの仕掛け、性能を教えるだけさ!」


 不死王とは……それほどの者でござったか!

 軍曹殿の悩みの一端が解った。


「やつはこれが何か知りたいんだ」


 いやまてよ?

「弾は特別製でござるが……、鉄砲が秘宝とな? 釈然としないが?」


『知らないんです。鉄砲を。イセカイではオーバーテクノロジー、イセカイのあらゆる種族における科学技術の水準を遙かに超えた技術や機械、絡繰りのことです。ここは魔法の発達したイセカイ。鉄砲の特長である長距離、超破壊の仕事は魔法が代わりにやってます。わたしのファイアーボールや波動爆雷があれば鉄砲は必要ありません。よって、鉄砲の開発素地が無かったのです』


 そう言われればそうであるな。


 某らが住む世界に魔法はない。それまで弓矢で戦ってきた戦国の時代、種子島はまさに魔法でござった。魔法に溢れたイセカイに、弓矢があるだけ不思議でござる。


「エスプリは、そいつが何なのか、何に使われていたのかを知りたがっている。それはもう、狂おしいほどに!」


『限りない知識を求めて、知識に捕らわれ、知識に取りこまれたんでしょうな。自分が持たない知識を知らずにいられない。自らを縛る悲しき性。むしろ呪縛。死者故に悟れぬ者の愚かしさ』


 知識を得てより賢くなりたかったのだろうが、今や知識の為に生きておるのだろう。ミイラ取りがミイラになった。そんなところか。


『死霊王と言えば、この世界でもトップクラスの知識人にして科学者。オーバーテクノロジーとはいえ、銃の現物を見て、それが解らないって事ありますか?』


 確かに。それを軍曹殿に伝えてみた。


「幸いなことに、エスプリの手元に弾がねぇんだよ。弾がありゃコイツの正体はとっくにばれている。銃は本体と弾の二つで一つ。完成品。だからさ、本体しか持ってないエスプリに謎は解けない。ましてや、奴は魔法使い上がり。魔法を使わず魔法兵器以上の武器を作るドワーフの技術が解るはずねぇ。それにあいつは、ここのもう一つの銃を知らねぇしな」

 

 軍曹殿、そう自信なさげに笑うでない。


 机の下から酒の小樽を取りだした。


「地下王国がダンジョン化するのはまあ良い。捨てた都だ。だが死霊王に乗っ取られてしまった。結果、銃の存在を知られてしまった。儂がこの手で取り返さなければならねぇんだ!」


 熱に浮かれたような目でござる。


「現王は儂に時間をくれた。儂が恥を濯ぐ。ドワーフの汚名を濯ぐ! それを許してくれた」


 酒を口にする。のど仏が激しく上下している。酒はほどほどに。


「プハー! だが、もう時間が無い。王は、回りの声を押さえられなくなってしまった。この冬を越し、春が来たら、王は軍を起こす。捨てられた地下王国の死霊王を攻撃する。短絡なドワーフ族のことだ。地下王国ごと屠るやも知れん。そうなりゃ、儂の恥は永遠に取り戻せねぇ!」


『トンネル掘削のプロ揃いのドワーフですから、ありえる話ですね』

 ドワーフ、恐るべし種族。


 背中が丸いでござるよ、軍曹殿。

「この銃はな――」

 ボルトを操作して、引き金を引く。ガッチンと間抜けな音。


「魔晶石はもうない。チャージする道具も無い。コイツは無用の長物さ! あっさり死霊王ごと埋めちまうのがいいのかもしれねぇ」


 天井からぶら下がった燭台に向け、寂しげに銃をかざしておる。


『旦那、薬莢を持ってください。そして机の上の鉄板も手にしてください』


 おおミウラ! 孔明を凌駕する頭脳が動き出したのだな!

 言われた通りにしてみる。


『本来弾頭は、多層構造なんですがね』

 手にした鉄くずが、形を変え、尖った指みたいなのになった。


「何をしてるんだ?」

 目を剥く軍曹殿は無視。今はミウラの策が大事。


『それを薬莢に嵌め込んで、それは逆さま。そう、そうして。もうちょっと持ってて。魔力をチャージします。はい結構です。そいつを今から、わたしの言う通りに操作してください』


 ミウラから言われた通りに操作する。要は後ろからの弾込でござるな。


「金属の弾にどれほどの価値がある? エスプリには通じねぇ。気の利いた魔法障壁に弾かれて終わりだ。……的にするなら壁に貼り付けてある請求書にしてくれ」


 向こう側の壁に請求書が張ってあった。全部酒代だ。


 構える。

 引き金を引く。


 バスン!

 乾いた音だ。


 想像より小さな音。小さな反動。

 でも的に穴が空いた。中心から離れていたが……。銃身が歪んどらんか? いや、某の腕前ではなくて!

 的自体が凹んでいた。火縄銃より威力が高いぞ!


『旦那、賭に出ませんか? 死霊王と対決です』

 ミウラがいつもより静かに話しだす。


「何か考えがあるのだな?」


『いっそ、死霊王の知識欲を満足させてあげようと思いまして。きっと上手くいきます。その上でダンジョンからお引き取り願う算段を考えましょう。ぶっつけ本番になりますし、これが本当の勝負となりますが……』


 いつも某の賭に付き合ってくれていたミウラである。たまにはミウラの賭に付き合うのも良いか。



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[気になる点] 三八式は自動小銃じゃないんですが。
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