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2.ドワーフ でござる

『女装! 男の娘! 目隠しして十字架に貼り付けて強制写生させましょう! 滾る! 腐の聖櫃にドボンするッ!』


「落ち着くでござる。落ち着くでござる! こやつは少年。男でござる!」


『レモンなピープル! 千○ナイフ先生お元気ですか!』


 日頃は沈着冷静なミウラが興奮している。鼻の穴がピスピス鳴ってる。

「妖魔退散!」

 ミウラの首筋をトンする。


「うっ!」


 ぐったりしたミウラを小脇に抱え、スヴィの顔に肘を当てて力ずくで引きはがす。

 ここまでミウラが騒いでしまったので、聞き違いではない。


「スヴィちゃんは商売上、女装してるだけだッピ。性の対象は女の子だッピ。将来の目標は一家を支える頼りになるお父さんだッピ」


『ノンケ! ノンケでも大丈夫! 優しく仕事を教えます! 我が暗黒魔法をとくと見よ!』

 ミウラが復活した。復活したのはどの言葉に反応してのことだろう?


「暗黒魔法はやめるでござる! 人をいや、ネコをやめてはいけないでござる」


 首筋を掴んで毛皮を引っ張ると温和しくなった。

『おお! なぜか体が動かない。これが「つまみ誘発性行動抑制(PIBI)」か! 落ち着くー」


 これだからネコは!


「こっちはこっちで、いい加減、離れろコラ!」

 某の胸にしがみついている女装少年スヴィを蹴り倒す。


「あふん!」


 変な声を出して、内股で転ける。その仕草がいちいち女っぽくて色っぽくて虫酸が走る! 目が自然と股間に行ってしまうのがより腹立つのな!


「改めまして、エルフの少女風、スレヴィ・マキ・ティーファ。スヴィと呼んでください! 14才と100年でぇーす! お姉様よろしくね!」


 百才サバ読んでて何が十四才だ! なにがお姉様だ!

 イボで大根が擦れるわ!

 陰間茶屋へ売り飛ばしてくれようか!? コイツ!


 心眼ッ!


種族:エルフ

性別:男

武力:三

職業:精霊教布教員

水準:乙

性癖:女装以外は正常

運 :九


 運の数値が凄く良い?


『種族的特性ですね。得てして、エルフとかグラスランナーとかは運が良い』

「新しい種族を口にするでない。そのうち現れそうでなんだか怖いわ!」


 しかし、この少年エルフ、姓に関しては正常か。なにゆえ女装を?

 すり寄ってくるスヴィを足の裏で押しとどめながら、その点を聞いてみた。


「だって、お客さんが優しくなるんだもの! 女の子が目の前で着替えたりしてくれるんだもの!」

「お前なぁ――」


『言葉につまりましたなぁ旦那? そう、旦那と基本同族なんですよ!』

「うぐぐぐ!」  


 ミウラの正論に反論ができない!


「イオタちゃんも仲間になるッピ。エルフの美少女、トリ羽族の美声、ここにネコ耳族の美少女が加われば完璧だッピ!」

「断る!」


「お金儲けできるッピ。宿に困らないッピ」

「うぐぐ!」


 取り敢えず、ウラッコを殴ることで心を落ち着けておいた。


 この件は棚上げとして、同じ宿を取っておくだけに止める。

 ミウラの要望によるダンジョン見学でござる。


「ダンジョンだッピ? ここにはドワーフのダンジョンがあるッピ」


「なに? どわーふだと? どわーふだと?」


『ドワーフとは、地面のエルフというか、大地の精霊が人型になったというか。同じ精霊出身なのにエルフと仲が悪いです。ずんぐりむっくりで頑強で、女もヒゲが生えていて、鍛冶屋として、工芸人、細工人として超一流で、得てして飲兵衛で頑固。岩山なんかに穴を掘って中で暮らしてます。彼らの作る武器や工芸品は、魔法が使われていないのに魔道具を凌駕します』


 相変わらずミウラの博識ぶりが素晴らしい!


「その名も『捨てられた地下王国』。大昔に滅びたドワーフの王国があった場所だッピ。ドワーフの宝物は既に運び出されていて無いッピ。ポップする魔物が落としていく小物しか無いッピ。初心者向けのダンジョンだったッピ」


「簡単で優しいダンジョンでござるな。それは好都合」


「でも行かない方がいいッピ」

「なぜ故?」


 腐っても黄色い毛玉でもウラッコの情報収集能力は高い。変な所で変な親爺に聞くより安くて確かだ。それが行くなと言う。


「ゾンビだとか白骨騎士だとか、ダンジョンでポップする魔物が、厄介な不死系の魔物に取って代わられたッピ。関わらない方がいいッピ」


 ゾンビ? 白骨騎士? 不死系?


『ゾンビとは動く死体。白骨騎士はモロ白骨化した騎士が生前の装備で彷徨っているのです。レイス……幽霊なんかもいますしね。死霊系の連中、不死と言うだけあって、攻撃しても死なない。すでに死んでいますから。体を破損して動けなくなるだけです。それと腐った死体ですから、病気の元を振りまいているようなもの。残念ですが、諦めます。ダンジョンは他の地方にもあるみたいだし』


 うーん、幽霊だとか怖いな。動く死体や白骨だとか、気持ち悪いし。


 捨てられた地下王国と名付けられたダンジョンと死霊怨霊の組み合わせが、ちぐはぐでござる。

 イセカイは摩訶不思議な所でござるな。


 とは言うものの、その不思議がイセカイの魅力でもある。安全な立ち位置でさわりだけでも経験できぬであろうか?


「不死の者どもに対し、対策は無いのか?」


『火魔法や魔法付与の武器が利きますね。特に神聖魔法が、えーと、法力を持った坊主による加持祈祷ですかね』


 赤い鎌とハンマーのイサクが腕の良い坊主だったな。あいつらならドワーフのダンジョンへ潜れるのか?


「せっかくのイセカイだ。外側だけでも見学しておきたいな」

『ですね。雰囲気だけでも味わっておきたい』


 無難な所で済ませておこう。


「捨てられた地下王国のダンジョンはドワーフが閉鎖してるッピ。あの爺さん、ドワーフらしく頑固者だッピ」


「外から見るだけだから大丈夫でござるよ。ちょっと行ってくるでござる。場所を案内いたせ!」

「ピー!」

「私も行く!」

 ウラッコを小突きながらドワーフのダンジョンまで案内させた。





「結構歩いたな。ここがドワーフのダンジョンか?」


 結局、町の外れの岩山まで歩いた。この岩山の地下がダンジョンだとのこと。想像以上に大規模でござった。


 入り口は岩山の麓。入り口は壮大な、彫刻が彫られた巨大な岩門となっている。

 これ一つとってもドワーフの力が推し量れよう。左甚五郎もかくやでござる。

 千代田のお城の門が小さく見えるでござる!


「なんだテメェ? 余所もんが近寄って良い所じゃねぇんだぜ!」


 酒瓶片手に赤ら顔の髭モジャ爺。丸い兜を被っておる。

 髪も髭も白髪の老人でござる。背が低くてずんぐりむっくり。長柄の両刃斧を片手で杖にして持ち、もう片手で水筒の中身を呑んでいる。


 これが噂のドワーフでござるか!?


 千鳥足でこっちへ来る。水筒の中身は酒でござるな。


「唯一残ってここを管理しているドワーフの親爺さんだッピ。今日は酒が入ってるから機嫌が悪いッピ。もう帰るッピ」


 後ずさりして帰ろうとするウラッコの首筋を掴んで最前列に押し出す。何かあっても初撃を喰らうのはウラッコだ。


「テメェ、ネコ耳族とトリ羽族は良いとして、腐れエルフのメスが何でここにいるんだ? あー?」


 うっ! 酒臭い。酒精が強いぞこの酒。そして安酒だ。


「おう! 儂を岩王国警備隊長ウェグノ・キユク・メ・ルー軍曹と知っての狼藉か? 殺すぞ、あー? ヒック!」


 警備隊長と言うだけあって実に男らしい風貌。顔の真ん中左右に長い傷跡が走ってる。


『ハー○ック傷ですね。ドワーフも長命種ですから、過去に色々あったんでしょうね。ちなみに軍曹って、えー、難しいな。同心で説明すると古株の先輩ってところですかね? 現場の指揮官みたいな?』


 父の同期だった井筒さんみたいなもんか? あの人若い連中への目配りが素晴らしかったなぁ。元気にしておられるかなぁ? もう会うこともないが。


『有名どころでは、ベトナム戦争で名を馳せたサ○ダース軍曹。ククトニアン戦争の英雄ケ○ツ軍曹ですかな!』


 ミウラはまさに生き字引! 優れた師に付き、猛勉強をしてきたのだろう。

 そうこうしている間に軍曹殿が詰め寄ってきた。


「中は危ねぇんだ! 立ち入り禁止だと聞いてねぇか? あ?」


 両刃斧を手首だけでひっくり返し、持ち直す。その仕草、酔っているとは思えぬ切れの良さと腕力の持ち主。

 できる! 歴戦の戦士とみた!


「そこを何とか、入り口だけでも見学できぬでござるか?」

「ダメだつってんだろうが! 帰れ帰れ!」


 取り付く島が無い。

 何とかして、心を通わすことはできぬだろうか?


『だいたいが、性癖の所をつつくと話を合わせられます』


 真理でござる!

 心眼!


種族:ドワーフ

性別:男

武力:五

職業:警備隊長

水準:甲

性癖:衆道(美少年限定)

運 :五

 

 衆道!


「よし、スヴィよ、行け!」

「え? きゃー!」


 スヴィの首根っこを引っ掴み、流れるようにドワーフの戦士ウェグノ殿の腕に放り投げた。 


「そこなエルフ、男の子でござる」

「通って良し!」


 異種族と心が通じた瞬間でござる。 

 



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