20.マオちゃん でござる
『フーッ! スッとした。ここしばらくの最大出力で出してきました。あっ! 何ですかその子! 未成年の取り扱いは要注意ですよ!』
ミウラが帰ってきた。
マオちゃんを見るなり、背中の毛を逆立てて威嚇する
「おお、マオちゃん、怖がらなくて良いぞ。小奴はネコのミウラ。温和しくて賢くて可愛い生き物でござるよ」
マオちゃんは某の後ろに隠れ、小さい手で袖をキュッと握って怯えていた。それでもパンをモグモグしている所がいじらしい。
『おうっふ! 黒髪のツインテール! あんどロリータ! とうとう旦那も超レア貴種キャラを召喚可能となりましたか! デュッフ!』
……気に入って頂いて何よりでござる。
「いや、あのな、――――」
『成るほど成るほど! それは奇特な! おそらくこの子は貴族のご令嬢。親か家がらみの嫌なことを押しつけられ、家出したか、警備の目を盗んで逃げ出してきたか? 言いたくないなら聞かずに置いとくのが異世界テンプレ。いずれ心を開いてくれたら、マオちゃんから話してくれるでしょう』
何かから逃げてきたという説がしっくり来る。某が何者か判らぬうちに、マオちゃんが秘密を打ち明ける事はあるまい。
マオちゃんは、某の着物の端っこを掴んで隠れてる。
盛んに某の尻尾が気になってる模様。揺らしてやると掴もうとする。
『人見知りが激しいようですなぁ。わたしの可愛さをもってしても心を開かないとは!』
「なんで某に懐くかなー?」
『食べ物を与えてくれたからでしょう。いわゆる餌付け?』
餌付けは酷かろう。
親御さんを探さねばならぬが、身につけている物から身元が分かるようなのは無かった。
真上に顔を上げたマオちゃんと目が合う。
マオちゃんがぼそりと呟いた。
「イオタ、尊い」
『あっ! 深い方の尊み! 語彙力が消える! ミウラさんは動作を停止しました!』
……ミウラも気に入って頂いたようで何より。
結局なんやかんやあったが、十才にも満たないマオちゃんを放り投げておく訳にもいかず、連れて歩く事にした。『女児の連れ回し案件発生の瞬間ですね。わかります』
マオちゃん。良いとこの育ちのわりに、体力があるのな。
次の町まで歩いたが、全く根を上げなかった。それどころか、大人の足に付いてくる健脚さ。
ここは魔物が跳梁跋扈する世界。それ故にイセカイの子供は体力が有り余っておるのだろうか? 魔物から逃げる的な意味で脚力が強くなっているとか?。
町へはすぐ着いた。東の山並みに日が顔を覗かせたばかりで、町の門は開いてない。
さて、問題は、町へ入る際の取り調べ。
「飯や宿の事もあるし、町へ入らぬ訳にはいかぬ。某の名はここまで届いておるだろうか?」
『届いてるでしょうね。届いてなかったとしても、足取りがばれる。大概貴族は一枚岩じゃない。ベルリネッタ姫のボクサー家と対抗する勢力もあって当たり前。旦那を勇者に仕立て上げ、力を増そうと考える派閥があると考えて行動した方が良いでしょう。魔王になんか勝てる訳ないのに! それはさておき、取り急ぎ、ここをどう突破するかですね』
ミウラも思案げである。
「冒険者ギルドや商業ギルドへ顔を出すのも避けた方がいいだろう」
『資金は潤沢ですから、しばらく稼ぐ必要はありません。先を急ぎましょう』
「その方針でいこう」
……となると……。
『密入国』
「関所破り」
潜入方法であるが……この町も他と変わらず塀が高い。魔獣、魔物避けである。
早くしないと役人が出てくる。何か突破口は無いかとキョロキョロ。
「越えられるだろうか? 低い所を探すか?」
『フライト……「飛ぶ」の呪文は使ったことありません。ぶっつけでも何とかなると思います、が――』
マオちゃんをちらっと見る。子供を抱えての危険な行為は避けたい。
「飛べるかなー?」
マオちゃんがにっこり笑った。
「わたし、フライトの魔法使えるよ」
光明が差した瞬間でござる!
「マオちゃんは、才女でござる! ギュッ!」
『貴族の血を侮ってはいけませんね!』
マオちゃんは凄い! 危なげなくふわりと浮き上がり、塀を越え、町の中に着地。
ミウラが透明になる魔法をかけていたので完璧でござる!
魔法使いが二人いると何かと便利でござる!
そして、ニコニコ顔のマオちゃんはとても可愛い!
人気の無い所に身を隠し、町が動き出すまでじっとしている。
朝の露天商が店を開いた。
朝ご飯でござる! やっと人らしい飯にたどり着けたでござる!
平たい円形のパンにチーズとハムがのっかってる。むっちゃ大量に乗っかってる!
葡萄みたいな果物が安い! 小銭でいっぱい買えた。ばくばく食った。すっぱ甘い!
ミウラはハムとチーズを貪っておる。
某はチーズとハムのパン。葡萄みたいなのを大量に。
マオちゃんは某の真似っこでござるな! 相変わらずほっぺたを膨らませて食べておる。
このまま旅用の買い出しをして、昼前に宿をとった。
風呂入って早飯食って、早くに寝て、日の出前にこっそり町を出る。
完璧な計画でござる!
「イオタ、耳触らせて耳!」
ピョンピョンと飛び跳ねながら、手を伸ばしている。
「むっ! 敏感な所なのでそっとでござるよ、そっとで」
触りやすいように、しゃがんで高さを合わせる
そーっと触るマオちゃん。
小さな手が触れるか触れないかの瞬間、ヒョイと耳を動かして手から逃れる。
「あ、あ、あ!」
あたふたと手を泳がせるマオちゃん。子供と遊ぶのも面白いなー。某、子供と遊んだことないもんなー。
『ちょっとまって! ちょっとまって! 尊さが辛いッ!』
「さて、マオちゃん。風呂に入ろうか? 拙者が洗ってくれよう」
「うん!」
『良い人生だった――』
悶絶しているミウラは放っておくか。一人でも楽しそうだし。
で、お風呂上がって……何でござるか?
童と一緒のお風呂描写に需要がござるか?
『描写を続けろ! と言っているのだ!』
はて? 何かに怒り狂っているミウラは放っておこう。
下で早めの晩飯を食ってる時であった。
宿の大将が、声をかけてきた。
「町の外で魔獣が暴れてるって話がその筋から入ってきました。冒険者ギルドも大忙しらしいですよ。バカみたいに魔獣が増えてるって」
某を旅の冒険者と思って声をかけてくれたのであろう。今が稼ぎ時だ、と。
今冒険者ギルドに顔を出すのはマズイのでござるよ。某の位置が特定されるから。
「某は旅の商人でござる。腰の物はただの道中刀でござるよ。小者一匹でも苦戦でござる」
「そうですか」
話はすぐに終わった。
魔王対策にベルリネッタ姫よ、頑張ってください!
『情報を整理すると、順に西から魔物が増えていってるようですね。予定通り明日の早朝町を出ましょう。マオちゃんは見かけ以上に健脚ですから、大人の速度について来られそうですし』
「次の町で某の名が知られてなかったら、ひと商売してみるか?」
『状況次第ですね』
木製品は暖を取る為に燃やしたので、貝殻の人形か石の建造物しか残ってない。
……恥ずかしいが、イオタちゃん人形を作るか……。
翌朝、日の出前に宿を出た。
入ったときと同じ手法で町を出る。
”ガオー!”
案の定、魔獣の襲撃でござる。
「第二加速!」
『パパレホパパレホ天馬流星弾!』
道中、魔獣の集団に幾度となく襲われたが、幾度となく返り討ちにしておいた。弱い魔物で助かった。
『ダークトロールとか、ラミアの団体なんてザコなんですよ、きっと』
やれやれ、この調子だと、魔王が完全に目覚めたら大変でござる。冒険者ギルドとベルリネッタ姫にはより一層頑張ってもらわないと!
道中マオちゃんの為、休憩を多く取ったが、予定より早く次の町に着いた。
今回は正面から町へと入る。
商業ギルドの身分証明書・ギルドカードを提示して入った。
特に誰何はされなんだ。予想通り、ここまでは某の噂が届いてないらしい。
ここは国境の町。次は国境を越えてレップビリカ王国へと入る。
レップビリカは小さな山国。山脈の切れ端。山越えをすれば目的の国タネラ王国へと入る。
隣に要注意国家ドラグリア帝国が横たわっているが、なあに、温和しくしていれば心配することもあるまいて!
『温和しくしていればですがね。温和しく』
「当然でござるよ。何を今更言っておるか、ぴんと来ないでござる」
『ヒント=運が1』
ちょっと意味不明なミウラの言は横へ置いとくとして、感慨も新た。やっとここまで来たでござる。
レップビリカ王国で冬をゆるりと過ごし、充分に準備を致し、来春に山越えでござる。
日も短くなり、肌身に寒さがしみるでござる。冬でござる。
時期的に申し上げると、神無月半ばでござる。
『新暦で11月ですかね』
未来では暦も変わってしまったか? ひと月損をしてないか? 土御門様は何をしていたでござる!
おう! 北風が冷たい!
「マオちゃん、寒くは無いか?」
「ううん。寒くないよ。丁度いいよ」
某を見上げ、微笑むマオちゃん。ほっぺが桜色でござる。
被わず抱きしめてしまったでござる!
『うぉっふ! 気を取り直して……。冬ごもりの間に山越えのルートを探しましょう。なんでも道中に世界一の山があるそうな』
ほほう、噂の山。富士のお山より高い山でござるか?
霊峰富士のお山より高い山があるとは思えぬでござるがね?
『現世界では天竺の北にあるエベレストという山が世界一で約8千8百m、2万9千尺です。富士山で3千7,8百m、1万2千4百尺ほどですかね。だいたい2倍ちょっと』
……まあなんだ。天竺の方にある山なら致し方ないが。
商業ギルドに顔を出した後、宿を見つける。
宿賃が安い。そこそこ物価が安い町である。イオタちゃん人形は高値で売れるであろうか?
『町の住人の性癖によりますね』
まあよいわ。
昼飯食ってから、イオタちゃん人形の作成に入る。
部屋に籠もってひたすら彫るでござる。
「何それ可愛い! 欲しい!」
指をくわえるマオちゃん。
『くっ! 可愛い。ちょっと嫌らしい雰囲気にしてきます』
ミウラの首根っこを引っ掴んで後ろに引っ張る。
これは売り物。いかにマオちゃんといえど、贈り物にする訳にはいかぬ。
「商売が終わったら、マオちゃんに作ってあげるでござるよ」
「わぁい!」
喜んで頂けて幸いでござる。
『前から暖めていたアイデアがあります。お面を作りましょう。大河原デザインのと永野デザインのとを!』
試作してみたが、なんとも子供っぽいので没にした。十四歳の頃の某なら手を出していたかもしれぬが。
某が彫刻刀を振るい、ミウラが窓際で昼寝をする。マオちゃんが退屈そうにしていたと思えば、某の手伝いをしてくれる。白湯を飲んだり、お菓子を食べたり。
のどかで温かい、当たり前の時間が過ぎ、夜となる。
そんな時間がずっと続くと思っていたのだが――。
深夜に、どえらい侵入者が現れたでござる。
抜刀!
訳あって、土曜日のアップを中止します。
作者モチベアップの為(仕事がぁ! 黒く染まっていくぅ!)、ご意見ご感想お前は悪くないよくやっているなどのお褒めの言葉、おまちししております。