15.お山へ出発 でござる
翌朝早く、町の入り口に集合でござる。
ヤル気満々、頬を紅潮させたベルリネッタ姫。やたら美麗な革鎧。脇差しと太刀の間くらいな剣を左の腰に。右の腰に鉈のような不格好の蛮刀。背負い込んだ巨大な背嚢の後ろに、これまたでかい盾をくくりつけておられる。
「万が一の場合、わたしが大盾を使って敵を防ぎますので、イオタ様はその間にお逃げください。プシュー!」
鼻息が荒い。子供みたいに可愛い顔の可愛い鼻の穴から勢いよく息を吹き出すベルリネッタ姫。
『この方を主人公に美女と野獣の逆獣姦物を書きたいな。美女が嫌がる野獣に跨がるやつ。そうだ! 事が終わったらウラッコに……』
なにやら物騒なお題目を唱えているミウラ。
一方、眠たそうな目のウラッコ。こいつも背嚢を背負っている。男はこいつ一人だけ。まさか女子に荷物を持たせる気ではあるまいな、と難癖付けて富士のお山で活躍する剛力並の荷を背負わせている。
某がヤル気満々の目を向けると、目がぱっちりと開いた。
「お、おは、オハヨウゴザイマスっピー!」
『旦那攻めのウラッコ受けでも1本書けそうだ』
ぬ? 某が刀で攻めて黄色いのが白刃取り失敗で斬られる。良い話ではないか!
早速出発。隊列は、ウラッコが先頭。二番目がベルリネッタ姫。最後は某イオタ。某の小さな背負子の上にミウラ。という布陣。
前日の打ち合わせで、龍が住まいする場所の候補地は三つ。
ざっくばらんに言って、右と真ん中と左。
本命は真ん中。
ここは開けていて、空を飛ぶ者にとって、狩りがしやすい場所とのこと。また、大きな身を隠す場所も多いらしい。
対抗が左。
ここは大小取り混ぜ滝が多くある岩場。高低差があり、空を飛ぶ者には守りやすく住みやすい場所らしい。
某の勘は、ここが本命と伝えてきておる。鯉が滝を登って龍になるというではないか!
大穴が右。
ここは静かな森で神秘的な湖があるだけ。静かに住む場所を龍が求めるなら、ここであろう。
最初の目的地は大穴の右。
ここを最初の地に選んだ理由は三つある。
一つ目。
水もあるし木陰もある。野宿するに適している。ここを拠点として中央からぐるっと回って左まで探索しようというわけだ。
二つ目。
行程上、端っこの右から順に回った方が早く帰れるから。
三つ目。
二つ目に通じるが、右への道筋が険しく、左より下る道筋がなだらかであること。登り道より下り道の険しい方が危ない。体力的にも帰りが楽な方がいい。
上記の理由でもって、現在、険しい岩場に足を踏み入れ、しばらくの所である。
まばらに松に似た木が生えているが、ほぼゴツゴツとした岩場。そこを上に向かってエッチラオッチラ。
某はネコ耳族故、身が軽い。多少荷物を背負っていようとヒョイヒョイと岩から岩へ飛び移れる。手を使ったら、厳しい崖も難なく上れる身の軽さ。本物のネコであるミウラは、言うまでもなし。
意外とウラッコの身が軽い。トリ羽族は鳥みたいなモノ。ネコ耳族以上に身が軽い。己の背丈より高い荷を背負っているくせに、まるでそれを感じさせない。
どのような生物も、何かしらの取り柄があるということだ。
『真剣白刃取りの名手である理由がここに!』
……黄色いのを仕留めるには、部屋などの限られた狭い場所に追い込んでからにしよう。
んでもって、問題はベルリネッタ姫でござる!
体力は売るほど持っておるのに、その身の重さが災いしておる。
「ひー! ふー! ひっひっふー!」
『体重のせいか足が遅い。一方、ウラッコは、何度も立ち止まり、後続を待ってくれていますね。意外と気が利く毛玉だ』
某は、何度も立ち止まり、ベルリネッタ姫が落ちてこないように何かと気を揉む。
こう何度も何度も立ち止まると、膝の辺りが疲れるのでござるよ。
『上から重量物が落ちて下敷きにならないかと気を磨り減らす思いです』
それは絶対口にしてはいけないぞ、ミウラ。口惜しいが、某にはミウラを庇える腕を持ってない!
そしてとうとう、ベルリネッタ姫が根を上げた。いや、姫の名誉の為に言っておくが、疲れて動けなくなったといった類いではない。
目の前の屏風のような崖を登ることができなかったのである。主に体重的原因で。
「くっ! わたしをここに捨て置いて使命を全うしてください! わたしはどうやらここまでのようです。ここで死んでお詫び申し上げます!」
「おいおいおい!」
仕方ないので腰に付けた縄束を取り出した。この縄の先には三つ叉の鉤爪が付いている。
『鉤縄ですね。忍者がよく使うアレ。もしくは世界的有名な大泥棒の3代目のアレ。コミケで売ってたバックル買いましたよ!』
「忍者? これは侍も使うし、捕り物でも重宝する道具だぞ。忍者だけが使うのではない」
軽く反動を付け、崖上の太い木の幹に向け放り投げる。
狙い違わず、くるくると幹に巻き付いた。意図を察したウラッコが、鉤爪をしっかりと固定する。
「さ、これを使って登られよ。この場所は某も縄を使わねば登ることはできぬでござる。――うっ!」
ベルリネッタ姫の目が……うるうると潤んでいる?
「かっ! かたじけない! なんとお優しい!」
『さらなる高評価ゲットだぜ!』
しくしくと美少女らしく涙を流しながら、崖を登る。腕の力はこの中で一番だから、手がかりさえあればヒョイヒョイと登っていく。
あとから登った某に抱きついてくる始末。ここは崖の上、危ないでござる! 危ないでござる! アーッ!
なんやかんやで、空が明るいうちに森の中の湖へと着いた。
印象的な大木と巨石を回り込む。注連縄が張ってあってもおかしくない大きさだ。
「ここは、僕たちトリ羽族の遠足コースだっピ。こんな所にドラゴンなんて――ピーッ!」
巨石の向こうに何かいた。
大きなトカゲぽいのが。
全身が綺麗な鱗に被われておる。
三越の倉ほどもある緑の巨躯。
そんなのが眠たそうに目を半分閉じておった。
おやおや、久しぶりに見る。
リザードマンのディーノ殿ではないか?
「ピッ、ピピピピ!」
「ド、ドドドド!」
『ドラ、ドラッドラッドラッ!』
その声に驚いたのだろう。
ディーノ殿はクワッっと凶悪な目を見開いた。
引き続き、ご感想をネコ耳一同、耳を揃えてお待ち申し上げております。