表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/164

13.お姫様 でござる


「ち、ちなみに……、ベルリネッタ姫は可愛いお方でござろうか?」

 そこ、大事ね。


「鎧姿のベルリネッタ様しか見たことないので、マルコさんの具合は知らないが」

「いや、そうではなく! つーか、そちらを知ってたら神通力持ちでござるよ!」

『そのスキルは誰を倒せば貰えますか!?』


 落ち着けミウラ! 倒しに行くのは全てを聞き出してからだ!


「お年は確か17才。お顔の方は、どう見てもデビュタント前。幼い。可愛い!」

「ほほう、でびゅたんとまえでござるか?」

『デビュタントとは、乱暴にまで簡単に言えば、男女込みで元服の儀式のこと。イセカイでは13才から15才でしょう」


 子供じゃないか。顔だけは。

 見た目は子供。体は大人。好みでござる!


「国でも1、2を争う美少女。国民にファンが多い。くりっとした目。長い睫。蜂蜜色の金髪。まさに天使降臨!」

 ギルマスの押しが強い!


『童顔巨乳は確定事項(デフォルト)!』

「胸はどうでござる? 大きいのでござろうか?」

「失礼ながら、イオタさんより大きい」

『セクハラ発言です』

 巨乳でござる! もはや断る理由は無し!

「よし参ろう! すぐ参ろう!」

『こっちもセクハラだから対消滅してパワーが発揮されました』


「仕事依頼に強烈な熱意を感じます。有り難い。では、二階の応接室で、お顔合わせと行こうか」

『応接室とは客間のことです』


 うむ!


 ギルマス殿に案内され、階段を上ろっていく。

 上がりきると……。


 応接室前の廊下に金色の髪をした女が立っていた。腰に剣を佩き、上等そうな服を着ている。鎧の類いは身に纏っていないのだが……。


「ベルリネッタ様!」

 ギルマス殿が驚いていた。


「イオタ殿!」


 ベルリネッタ姫が某を認めると、満面の笑みを浮かべ、ドスドスと足音を立てて走ってきた。


『え? 二階の廊下が揺れるんですけど?』


 目の前に立たれるとスゲー背が高いの。

 某より頭二個分高いの。

 肩幅広いの。胸板厚いの。

 紫色の目が怖いの。

 詐欺でござるの。


『まさにラヲウの体にリンの顔。ザンギエフの体にバルログの顔! そうきたか!』


 二の腕は某の太ももほどの太さ。太ももは某の腰ほどか?

 そんな仁王様の体に、幼い顔が乗っかっている。

『Hカップでしょうか? ただし中身は脂肪じゃなくてタンパク質』


「初めまして! ベルリネッタです! 17才です!」

『その声、まさに幼女の声を当てる声優!』 

「お、おほう!」


 この女、手練れの者! 視線誘導を使って某の死角を作り、潜り込むような体裁きで抱きつかれた。


 おなごに抱きつかれるという憧れの情景でござるが、思っていたのとちょっと違う。

 太い腕でギリギリと締め付けられ、息ができない。


「や、やめ……らめ……」

 声を出せない。


『声だけ聞いていれば最高のシチュエーションですが、痛て! イテテテ! 骨が折れる! 爆縮死する!』


 懐に入っていたミウラが悲鳴を上げた。

 某も、「あ、死ぬって、この延長にあるんだな」って思った。


 その時である!


「ヒャッハー!」

「冒険者共は皆殺しだー!」

「うわー! ライカンスロープだー!」

「助けてくれー!」


 戸を蹴り破り乱入してきた者がいる。


 さすがに状況判断はできている。ベルリネッタ姫は力を緩め『緩めただけですけど』、階下を覗き見た。


 某にも見える。狼が二本足で立った怪物。魔物である!

 でかしたぞ魔物! これで戒めが解ける!


狼人間(ライカンスロープ)ですね。鉄棒をねじ曲げる怪力。狼並みの素早さ。そして再生能力は旦那を上回るというか、旦那の最終モデルですね! バンパイアとならぶ、刀で斬っても死なない不死身の怪物。Aクラスの魔物です』


 こ、これは強敵でござる!

 下の冒険者達が混乱しておる。某も参戦せねば!


「ちょっとだけお時間くださいね」


 某を放り投げたベルリネッタ姫。二階から飛び降りた。

 床に着地。「へぶぅっ!」らいかんすろーぷの一匹を踏みつぶして。


『いまギルドの建物が揺れましたね』


 下敷きにされた、らいかんすろーぷはピクリともしない。……らいかんすろーぷって簡単に死ぬんだな。

 呆気にとられている残り一匹の首に丸太のような腕を回し、ギリギリと締め上げる。


「俺は無敵のライカンスロープ。力で俺に勝てると? すぐに抜け出して……」

 抜け出せなかったでござる。


「俺は不死身のライカンスロープ。首を絞められたってキュボッ」

 首の骨が外れる音だ。


 ベルリネッタ姫『そうだね、プロティンだね』が、首のグラングランしたらいかんすろーぷを軽く放り上げ、落ちてきた所を両腕で抱え込む。


『腕を巻き込んだベアハッグですね』


 骨の折れる心地よい音が連続で……いつまでもいつまでもいつまでも続く。

 両腕とあばら骨と背骨をやったな。あと内臓も心臓ごと潰したな。


 体格的に変になった、らいかんすろーぷをゴミのように放り投げる。


『ああっ! 不死身のライカンスロープ様が!』

「やあ、お待たせしました。えーっとお礼の途中でしたね? 何か仰ってましたが?」

「……いえ、特に何も」

 そう答えるしかないでござろう!


 ここで「心眼!」


種族:たぶん人間?

性別:女!

武力:十二以上。知らん!

職業:元騎士隊長

水準:超甲

性癖:可愛い物好き

運:五

 

 たぶん人間って、何でござるか? 鑑定である心眼がそのように自信なさげで良いのでござるか?

 性別、女性の後ろに強調句が添えられているのだが、某、疑ってはござらぬ!

 武力は見た目通りでござるが、十を越えた人は初めてでござる。知らん、ってなんでござる?

 その他にも色々突っ込みたいことが山ほどあるでござる!

 ほんとうに姫でござるか?

『姫と呼ぶにはあまりにも筋肉質ですが』


「昨日は危ない所を助けて頂きまして有り難うございました。城に詰めた者ども一同を代表して礼を申し上げます!」


 笑顔が可愛い。子供から大人へと移りつつある年代特有の美しさと儚さ、純真さ。

 それが仁王の体の上で……。可愛く微笑んでいる。


『ギャップ萌えという言葉がございます。ですが、さすがにこれはカテゴリーエラーでございます』

 意味不明の単語が並ぶが、言いたいことは理解できた気がする。


「では、お礼の続きを」


 何事もなかったように。ちょっと肩に付いた綿埃を払っただけのような落ち着きぶり。

 両手を広げて近づいて来た。

 間合いを取る為に、すり足で後ろへ下がる。


『えーっと、ここさっきライカンスロープの奇襲攻撃を受けましたよね?』

 ミウラよ、それは幻でござる。


「イオタ様、このご恩、いつかきっと我が命にかえてお返し致します!」

 ああ、言葉によるお礼ね。よかった。命拾いした。


『我が命と引き替えにって、何と戦って相打ちになるんでしょうかね? 魔王?』


 魔王が可哀想でござる。

 いやいや! 雰囲気に呑まれてはいけないでござる!


「拙者、何のことかさっぱりでござる!」


 事を大げさにしたくない。天国の門で暴れたのは正体不明の頭巾侍。某ではない。


「なんと奥ゆかしい、……解りました。ではそう言うことで」


 目がキラキラしてるの。この姫様。

 完全に誤解したまま忖度されたでござる! いや、誤解ではないが!


『相当旦那に惚れ込んでますね』


 あれー? おっかしいなー?

 女から惚れられている気が全くしないんだけどー?


「えーっと。じゃ、挨拶も済んだことですし、中へ入りましょうか?」


 困った顔のギルマス殿が、話を進めようと仕切りだした。ある意味助かったでござる。


「案内致します。こちらが応接室です。汚い所ですが、どうぞ」


 ベルリネッタ殿が自分の家みたいに案内しだした。なんなの、この人? 何か怖い。

 中にいたのは既視感溢れる黄色い塊。 


「えー、こちらが山の案内人で、ウラッコさんです」

「ウラッコー!」


 居合抜刀!


「ピーッ!」


 ウラッコの喉元に切っ先が触れる。両手のひらで刃を挟むウラッコ。

 洒落臭い! 真剣白刃取りのつもりか?

 委細かまわず力一杯、刀を差し込むッ!


「ピェー!」


 動かない! ウラッコめ! 火事場の馬鹿力か!

 腕を上げたなウラッコ! これで遠慮無く斬り殺せるというもの!


「あ、案内人とはグギギ! そこ元でござったか? なにゆえここにおる? ぬォォー!」

「さすがイオタさん。稲妻の如き抜刀術。わたしの目では捉えることができませんでした」

「ピギーッ! こ、ここは僕の古里だから、ピギーッ! あ、あんまり力入れないで! あの山は遊び場みたいなものだっピ!」


 この馬鹿力め! 押し返してきよる! だったら体重を乗せて押し切ってくれよう!


「ぬふーん! そこ元、拙者から逃げるべきではないか? グリグリ! なんで拙者の旅する先、東へ向かったのでござるかハァーッ!」

「この位置からでも動いたことしか見えなかったんですから、ウラッコさんから見えるはずありません。わたしが当事者だったとしても斬られていたでしょう。さすがです!」

『なんか、関係無い台詞が混じってませんか?』

「どうしようどこへ逃げようパニクってたら、頭の隅に『東へ』というワードが出たっピヒーッ! 東は僕の古里だから天恵と信じて走り出したっピーッ!」


 徐々に某が力勝ちしだしてきた。


「バカヤロウ! 『東』は拙者が向かうって言った方向でござる!」

「し、しまったっピー! 後先忘れ『東』という単語だけで突っ走ってしまったっピー!」

「三歩歩いたら忘れる鳥頭か!」

「トリ羽族の種族的宿痾だっピー!」

「宿痾だったら仕方ないなっ!」


 また盛り返して来たがった!

  

「おやおや、案内人とお知り合いでしたか?」

 ニコニコ顔のベルリネッタ姫。


 状況を理解してだな――、某の手首とウラッコの顔面をがっしりと掴む。人外の(かいな)力で。


「喧嘩はいけません」

「喧嘩ではござらぬ! 粛正でござる!」

「ピーッ!」


「仲良く致しましょう、仲良くね」

 無理矢理引き離された。


「うおぅ!」

「ピーッ!」


 弾き飛ばされた!  


 全力のぶつかり合いをこれほどまで簡単に弾け飛ばすとは! 

 某は壁ギリギリで踏ん張ることができたが、ウラッコは……窓際の壁にめり込んでいた。


『えらい濃いのが現れてしまいましたね』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ