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12.ジベンシルの冒険者ギルド でござる


 翌朝。


『朝の冴えきった頭になると、旅の情報を仕入れねばならない事を思い出しました』

「うむ、某も同じ事を思いついた所であった。冒険者ギルドで仕入れるとしよう」


『情報収集から計画組み上げまで2、3日かかるでしょうから、軽い仕事でも受けましょうか?』

「それもよかろう。ここの名物も食いたいしな。昨日は全く味がしなかったし」


 荷物を纏め、薄暗い部屋を出る。


「取り敢えずこの宿は引き上げよう」

『ですね! 川オークがいなくなって、人が動き出しますから、他の宿でも空き部屋がでますよ』


 階段を下りると、婆が待っていた。こっちを見上げて笑顔を顔いっぱいに咲かせていた。このお婆、初めて笑ったな。


「おやー、ネコ耳さん! 今ね、南向きの一番いい部屋が空いたんだよ-! 広い部屋だよー! お客さんには、そこへ移ってもらおうと思ってさ!」


 機嫌が良すぎて気色悪い。


「いや、拙者らは――」

「お値段負けとくよ! 300セスタでどうかね?」


 安っすい。安いのだが――


「ここは食事が出ぬから不便で――」

「近所のレストランで取り寄せできるよ。連泊してくれるんなら、朝と夜の食事代はサービスするよ!」


 無茶苦茶な好条件!

 話し途中で遮られるのが勘に障るが。


『旦那、うまい話には裏がありますぜ!』

 同意見でござる。


「拙者急ぎの用がござるので、先ずはそちらを片付けながら、宿のことを考えておくでござる。ではこれにて御免!」


 宿賃は前金で払ってるから身軽である。


「待ってるからねー! 浮気しちゃ承知しないよ-!」


 何が浮気か!? こんな宿、浮気される方が悪いであろうが!

 早足で宿屋街を歩く。


「おやネコ耳さん! 今夜うちへ泊まってくれないかい?」

 客引きでござるか?


「いやいや、うちへ来てくださいよ! お風呂と豪華食事付きだよ! 今なら400セスタだよ!」

「うちは300セスタでいいよ。あっちより安いよ!」

「食事だけでも取ってくれませんか? お風呂だけでもいいよ!」


 なんか、引っ張りだこである。客が一斉に移動したのだろうか?

 袖を捕まえに来る客引きまで出てきたので、走って逃げた。




「はぁはぁ! ちょっと、はぁはぁ、走りすぎたでござる!」


 冒険者ギルドの戸をくぐる頃には息が切れていた。

 朝のこの時間は、依頼を取ろうとする冒険者で賑わっていた。


 ところが、某が入るや否や、騒がしかったギルド内が静かになった。


 はあはあ言いながら依頼ボードに近づくと、なぜか人垣が割れた。某に気づいた冒険者が、逃げるようにしてその場から離れる。気づかない冒険者も肩をトントンされて慌てて離れていく。


 ああ、またもや種族差別でござるな。

 もう慣れた。見ざる聞かざるでござる。


 おかげで抵抗なく依頼ボードの前に立てた、と思おう。

 では、遠慮無く仕事を探させてもらおうか。


『さすがに川オーク討伐は無し。剥がされてますね』

「あれは楽ちんでいいのだが、今は不味い。犯人が特定されてしまう」


『なら、ここの異常発生したゴブリン討伐なんか如何です? 旦那とわたしの実力からすれば、楽勝でしょう?』

「二番煎じだが、ここにオーク異常発生の実態調査がある。某とミウラだけなら、とっちめることもできよう。逃げ帰るにも事欠かぬ。さほど危険ではないぞ?」


『やはりこちらが!』

「なんのなんの!」


 二人してあーでもない、こーでもない、と議論しておった時である。


「あのー、ニャゴニャゴとじゃれ合ってる所申し訳ありませんが……」

 後ろから声をかけてきたのは、昨日の受付嬢だ。


「何でござるかな?」

「イオタさんにぴったりの、割が良くて高収入なお仕事があります」 


 ほほう? ぴったりとな?

 興味が湧いた。


「説明はギルドマスターから。さあさあ、控え室でギルドマスターが待ってます!」


 ギルドマスター!? うわぅちょっ!

 受付嬢が腕をとって引っ張っていく。しかし所詮は女の細腕。某が抗えば……。

 ポムンが二の腕にポムンで……

 ああー! 部屋に連れ込まれてしまったでござる!


「ギルマスのゲーザだ」

 天辺の人間が出てきて良い話が出てきた試しがない!


「ここから一日半の距離にある山の調査だ」

 どこかで聞いた依頼でござる。


「ドラゴンの目撃例が3件出ている。知っての通り、ドラゴンは最強最悪の超生物。生きている災害、動くアレ。今回、ドラゴンが住み着いたか否かの調査を依頼したい」


 一息に喋りやがったよこの野郎!


『旦那、ドラゴンはマズイ。竜ですよ竜! 神がこの世を作る前から生きていた種族。但しそれは古竜!』


 言われるまでもなく龍はマズイ。出合った途端、即、死でござる! 某まだ死にとうないでござる!

『一度死にましたけどね』


 

「お断り致す!」

 二つ返事で断った。


「なぜ?」

 ギルマスは眉をハの字にし、両肩をすぼめた。イセカイ人は体も使って喋るのな!


「第一、拙者は、しがないB級冒険者。龍と絡む程の腕はござらぬ! 

第二に、この辺りの地理を知らぬ。山へ入る前に道に迷う。まして山に入れば遭難確実でござる!」


 ギルマスは薄く目をつむって、わざとらしい位にゆっくりと2回頷いた。


「疑問ごもっとも! 腕の立つ用心棒はご用意致した。腕の程は私が保証する」


 用心棒!? まさか!

『先生ですか!?』


 まさか! いくら先生の足が速いと言っても、連続で船を使った某が先行しているはず! たぶん!

 今回は別人でござる。きっと!



 話し戻して、そういう手合いには、ちょうど良いお断りの文言がある。


「何日も男と一緒の旅を強いるつもりでござるか?」


 某、一応うら若き乙女に見える。これこそミウラが言う所の女の武器でござる!

 依頼を断る最強兵器でござる。


「用心棒はうら若き女性だ。今二階におられる」

「この依頼、詳しい話しを聞いてもよいでござるか?」


『旦那! イオタの旦那! 軸がブレてますよ。わたしは反対です!』

「そのお方は依頼主でもある。女性騎士だ」

『女騎士クッコロ・サー・スキニシーロ! 異世界へ落ちたからには彼女の依頼を受けねばならぬ義務があります!』


 ミウラなら解ってくれると信じていたでござる。


「そのお方はベルリネッタ様! ボクサー侯爵家の三女で聖騎士。ジベンシル王国羊蹄騎士団団長であらせられる!」

「にゃんですと!?」


『解説しましょう。ジベンシル王国ボクサー藩・藩主の三女、ベルリネッタ姫です。王国旗本衆のまとめ役にして、攻め手の総大将職にあります。との意味でございます。ちなみに侯爵とは王様の親戚筋。三千石以上の松平姓を名乗るのとほぼ同義語。騎士隊長とのことですが、名誉職でございましょうね。但しラヲウの如き体格を持っておれば別!』


 ひ、姫様でござるか! しかも由緒正しきお家柄!

 さぞや可憐な姫君でござろう!


『クッコロ姫騎士! さっき確か依頼ボードにゴブリンとオークの退治があった!』

 ミウラが懐を飛び出し、テーブルの上でウロウロしだした。


 可憐な姫君と数日を山の中で過ごす!?

 望むところでござる!


『運が上昇したのでしょうか?』


 某を心眼! 運は……、


 一のままでござる。

 ⊱φωφ⊰

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