11.ジベンシル王国で勇者と魔王 でござる
さて次は冒険者ギルド。
ここで先ほどの噂を検証するつもりだ。
「ハイいらっしゃい! あら、ネコ耳族の方? 珍しいわね!」
ややトウが立っておるが、愛想の良い受付嬢である。
充分、守備範囲でござる!
「イオタと申す。B級冒険者でござる。ついさっき陸路を歩いてこの町に着いたばかりでござる。いやぁ、疲れた疲れた」
疲れてもいない足をトントンして、川を使ってないよ、ここまで歩いてきたんだよ、と匂わしておく。
そして冒険者カードを差し出す。
「はい、イオタさんですね」
いつも通り、理解を諦めた魔法からくりにカードを乗せた。
カードを判別する前に、某に視線を戻し、話し始めた。
「みんなにも注意を促してますが、ここ直近、急激に魔物魔獣が増えています。魔王出現の予兆という説まで出ています」
魔王はどうでも良い。どこかで勇者なり騎士団なりがカタを付けてくれるであろう。
一介のB級冒険者風情がかかわる問題でもあるまい。
「と、同時に勇者出現の噂も流れています」
「へー、拙者も一度勇者殿のご尊顔を拝したいものでござるなー」
『旦那、棒読み、棒読み!』
うるさい!
勇者という聞き慣れない言葉について、興味が湧いた。
聞いた所、とんでもない力を世の為人の為に使う。あっぱれな御仁。
「ちなみに、勇者のレベルは如何ほどでござろうか?」
魔王の力は、対象となる勇者の力から推し量ることができる。
「勇者にクラス分けの概念は通じません。あえてクラス分けができるとすれば、仲間の冒険者達まででしょうか?」
勇者に仲間がいると?
勇者単体で魔王に匹敵する力を持つ。その者の仲間とは? ……猿や犬や雉をあてがわれた桃太郎が可哀想でござる。
「ちなみにイオタさんはBクラスでしたね。Bの上がAクラス。その上の選ばれた者達にSクラスの称号が与えられます」
知っておる。最上級のSクラス。英雄と呼ばれる人で、なんだかよく分からない人である。たまに面倒な仕事を押しつけられるとも聞く。
「ですが、SだろうとSSだろうと、実力は冒険者ギルドでの仕事の範疇。魔王と戦える勇者に、冒険者ギルドのランク分けは当てはまりません。
それを踏まえ、魔王と対決する現場で勇者の足を引っ張らず、なおかつサポートできる者。その者をクラス分けするとすれば、Zクラス!」
「ぜっとクラスとな!? ミウラ、ぜっとクラスとな!?」
『はいはい。Zとはイロハ歌でいうところの「京」に相当する文字でございますかね。
わたしの世界でもZは特別です。無敵の魔人がぁー、Zでした。
はっ! そう言えば! 神龍を使役し、異形の侵略者から世界を守ったのもZ戦士!』
理解した。人を越えた究極の存在が勇者であるなら、その仲間と名乗れる人も究極の戦人。
「拙者には到底到達できぬバケモノ共でござる。いやはや、安心いたした」
ミウラの喉をゴロゴロしながらほっこりしていた。
情報料の請求がない所を見ると、この程度なら料金は発生しないようだ。
「イオタさんは、ゲルム帝国から来られたのですね?」
その声。雲行きが怪しくなってしまった気配。嫌な予感に脇がジメッとしてきた。
カードには寄り道したギルドの情報も書き込まれると聞いたが?
「途中のレブリーク帝国では一度も冒険者ギルドへ顔を出していませんね?」
そ、そんなことも判るのか?
「先ほど歩いてきたと伺いましたが、川を使ったんじゃありません事?」
「うっ、えー、せ、拙者、商業ギルドにも登録してござる。レブリークでは商業者ギルドを使って商売していたでござるよ」
商業ギルドのカードを見せる。これが証拠でござる!
無言で某を見つめる受付嬢。
「……そうでございましたか」
やたら受け答えが丁寧語になってるのだが?
「えーと、――」
おすすめの宿を聞こうと思ったが、こちらの行動を知られるのは不味いような気がした。
「また、明日来るでござる。今日はこれにて御免!」
ここも、そそくさと後にする。
大通りを宿屋街に向かい早足で進む。
「川オークのことがバレ、万が一にも勇者の仲間に仕立て上げられ、魔王と対峙するなぞ御免被りたい!」
『魔王相手は確実に負けますからね。この世界が現世の初期中世ヨーロッパと同レベルの倫理だと仮定すると、無理矢理勇者に祭り上げられ、結果、火あぶりにされる危険が高確率であります。三十六計逃げるに如かずでございますですことよ!』
ミウラと意見の一致を見た。
この町は一泊だけして、早々に南へ向かい旅立つに限る!
でもって自力で宿を探すこと暫し。
全部満員。
川オーク出現で足止めされている状況。
これから解除されると思うが、今日はダメだ。満室のまま。
彷徨ったあげく、最下層ではないが並ではない、という宿で空き部屋を見つけた。
飯無し風呂無し北向き部屋、陰険なババア。
「ここでよかったら泊めてあげるよ。嫌なら他を当たっていいんだよ」
上から目線。悔しいが、ここ以外に泊まる所がない。
「前金だよ」
むう! さほど安くないぞ!
案内された部屋は湿っぽくて黴臭い。
「どうぞごゆっくり。ちなみに鍵は壊れてるから、自己責任でお願いしますよ」
ベッドの薄い布団を撥ね除けると、蚤がピョンピョン。虱っぽいのが急いで姿を隠す。
屋根があるだけ上等でござる。武士は食わねど――
『はい旦那、下がって下がって。魔法で環境を整えますから、窓を開けて』
ミウラはできる猫でござる!
『軽い放射能で虫や菌を殺します』
「ホウシャノウってなんでござるか?」
『殺虫剤みたいなもんです。わたしなんか毎年春に1回浴びて、事ある毎にバリュウム飲んで浴びてましたが至って健康でした』
なら安心だな。
『では3秒斉射ぴかー! はい終了。旦那は窓際でシーツと毛布をもって立ってください。はい、風を入れ替えますよ! ウインドミルの小さいの!』
シーツが吹き飛ばされそう!
窓から風が入り部屋を掻き回してから外へ出て行った。
『あとは超強力紫外線ピカー!』
「シガイセンとは?」
『お日様の光に含まれる光の一種です』
お日様の光なんだから無害だな。安心でござる。
臭い匂いがしなくなったし、蚤や虱もいなくなった。
あらびっくり、快適な宿に変身でござる。
さっそくお日様の匂いがするベッドへ潜り込む。
「今日は早く寝て英気を養い、明日この町を出よう」
某のお腹の上で丸くなるミウラ。
『それがいいです。お休みなさい』
ところがこの後、それで良くない出来事に巻き込まれるのでござった!