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6.迎撃 でござる

 昨夜から雨は降り続いていた。しっかりと根の張った本降り模様だ。

 それでも空の雲が目に見えるまで明るくなる頃、賊共が姿を見せた。


 ……顔を見る限り異人でござるな。堀が深い。


 賊は予想通り十人だった。みんな髭もじゃのぼさぼさ頭。


 内一人は、ミウラが言う所の魔法使い。鼠色の頭巾をすっぽりかぶり、なにやら霊験あらたかそうなグネグネした杖を手にしておる。

 注意するべきは二人の大男。頭目と副頭目だろう。見た目に強そうだ。


 頭目らしき大男は槍のような武器を手にしていた。槍との違いは先端部分が小ぶりの斧になっていた事。斧の先っぽが尖っていて、斬るだけではなく突く事も出来る。さらに枝状の刃が出ていて、引っかけることも出来る武器だ。

 使いづらそうだが、使いこなす者が使うと、とんでもなく面倒な武器となる。様な?


『バルディッシュという武器ですね。殴ったり斬ったりと、手練れが持つと厄介な代物でして。間合いが長いのでご注意ください』

 相変わらずミウラの博識ぶりには舌を巻く。


『なあに、わたし達オタク……もとい、高等博識者達による最近の研究対象はイセカイについてです。大体の事は研究し尽くしてますので、頼りにして頂いて結構です』


 頼りになる! さすが高等博識者!

 その他の者どもはと見ると、急所を覆った鎧に、刀を背や腰に履いているだけ。


『あの刀は両刃です。剣です。旦那が使う剣術とは型が違いますのでご注意を。特に切り返しの裏剣に用心してくださいよ』


 峰が切れる剣。切り返しの技がある、と。


「心得た」 


 村人達を全滅させたと確信しておるからか、連中は隙だらけだった。

 三人、四人、三人と三つの班に分かれ、それぞれ乱取りに向かう。

 魔法使いと頭領は四人組の班だ。


 それを昨夜泊まった屋敷の屋根で寝そべって監視していた。

 分かれてくれたのは有り難い。各個に斬り崩す事が出来よう。

 集団は外側から削れと兵法書にも書かれている。


『各個撃破ですね! 分かります!』

「左の三人から片付ける」

『わたしは魔法使いを封じる事に専念します』


 昨夜は、どうしても必要な資料の検分で時間を費やしてしまったので、作戦を練る時間が取れなかった。

 朝が来る前にめぼしい手ぬぐいや布きれを探しだし、体の要所に巻き付けるだけで精一杯でござった。


 して、現状に合わせ、臨機応変に作戦を考える事と相成った。ぶっつけ本番とも言う。


「死ぬでないぞ、ミウラ!」

『へへっ! イオタの旦那こそ!』


 某達は、二手に分かれるべく屋根を飛び降りた。さすがネコ姉さん(ミウラの言による)の体。屋根の高さから飛び降りても何ともない。

 剣戟の始まりでござる。目にものを見せてくれよう!


 ミウラは言っておった。イセカイの剣術が日の本の剣術と異なっておると。

 逆に言うと、某の剣術は、イセカイの者にとって初見という事。ならば剣術道場序列下から五番目を誇る某にとって、先手は有利!


 倒壊した家々の陰に身を隠しつつ、左に分かれた三人組みの背後に回る。

 某、既に抜き放った剣を肩に担ぎ走る。鞘は重いだけなので持ってきてない。

 降り止まぬ雨が足音を隠し、こちらへ有利に働く。


 使う刀は通常の長さ。大太刀より使い慣れた長さの方が良い。

 背後より早足で忍び寄り剣を振りかぶる。足裏の肉球が足音を消してくれる。さらに有利。


 無言で、突く。


 首を通る太い血管を切り裂いた切っ先を返し、隣の男の首筋を刎ねる。

 さすがに三人目は気づいて振り返るが、もはや遅し。一合も刀を合わせる事無く、袈裟懸けに切り下ろした。


 三人分の悲鳴が上がる。


 やはり次は奇襲が望めぬな。まあ、予定通りだから良しとする。

 ぐるりと迂回し、右手に分かれた三人組を追う。


 物陰に潜み、顔だけ出して確認しつつ進む。

 見つけた。


 通りの辻で動きを止めていた。三人は背中合わせで抜刀している。

 仲間の悲鳴を聞いて、用心しているのだ。


 ミウラが言っていた通り、諸刃の剣だった。肉厚で重そうだ。打ち合うと、某の刀が折れそうだ。

 時が過ぎれば頭領の班が合流する。七人に増えぬうちに撃って出るべし。

 物陰から飛び出し姿勢を低くして走る。雨が目に入るが気にしない。


「いたぞー!」

 見つかったがまだ何とかなる。


 一気に辻へ躍り出た。

 右の視界で何かを捉えた。


「引っかかったな!」

 新手?


 しまった! 待ち伏せにあった!


 ばるでぃっしゅ、とやらの長槍を抱えた棟梁達四人組みがこちらに向かって走ってくる。外側から削ろうとした策が見抜かれた!

 足を止めるも、既に遅し。囲まれてしまった。

 頭巾を被った妖術使いまでいる。

 頭領がにやけながら近づいてくる。


「俺はよう、死にかけている女とナニ致すのが趣味でな。死ぬ直前が良く締まるんだ」


 下卑た笑いを上げる配下共。こっちは笑えんわ!


 頭領は降りしきる雨を跳ね上げ、頭上に長槍を振りかぶる。

 肩幅が広く、なにより背が高いのが驚異だ。七尺(212㎝)はあるか?

 間合いが広い上に長い得物。ちょっと嫌になってきたぞ。


「頭かち割ってくれる。小娘!」


 こっちに突っかかってくる。思ったより足が速い。得物が長すぎて距離感がつかめない。

 後ろに下がりながら下段に構える。寸前を見切り、懐に飛び込むしかない。


「そうら!」

 振り下ろされた。


 だが脇が甘い!

 左に余地がある。左へ身を躱しながら、刀を走らせる。


「甘いよ」


 頭領の巨体から秋刀魚みたいな顔の小男が飛び出してきた。背に隠れていたのか!?

 短めの片刃剣が弧を描く。

 体を捻って躱そうとしたが、秋刀魚男の間合いに深く入りすぎていた。――、


 ザックリ。


 脇腹を捉えられた。

 出血してからの激痛。


 それでも顔を上げると、――長槍を振り下ろす頭領が――

 あ、これ斬られるわ。頭かち割られるわ。

 前の人生と同じ終わり方だわ。



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