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9.川オークエンペラー でござる


「イオタ様、またお願いできますか?」

「またでござるか?」


 渋々部屋を出る。


「今度は船倉のようです」


 案内され、下の階へ降りる。

 ここが今日の戦場だ。


「さて、ミウラ。仕事でござるよ」

『わたし苦手なんですよぉ!』


 苦手と言いながらミウラの耳がぴくりと動く。某の耳も同じ方向へ動く。 


「二手に分かれて……そこだ!」

 ネコ族特有の瞬発力で飛ぶ我等。

 ケリは一発でついた。


「丸々と太ったネズミでござる」

『ううっ、猫に生まれ変わってもネズミとGは苦手なんですよぅ! 土左衛~門!」


 ネズミを捕らえることなら任せておいてくれ。




 ビエナの町を立って何日目のことか?

 ダヌビス川両岸の景色が変わる。平野部ののほほんとした田園風景から、山や切り立った崖が目立つようになってきた。

 川幅も幾分狭い。


「もうすぐレブリーク帝国とジバンシル王国の国境です。珍しい景色が楽しめますよ」


 船長の案内に誘われ、甲板へ出る。

 初秋の頃。空は青く澄み切り、川面も空の青に染められている。両岸は青い地肌の奇岩で埋め尽くされていた。

 絶景でござる! 日本には無い景色だ!


『油絵でないと表現できない景色ですね!』

 未来に生きたミウラも感動しておる。ここはそこまで素晴らしい場所なのだ。


「この程度で感動してもらっちゃ困りますよ」


 意地悪な笑顔の船長。

 なんと! これ以上風光明媚な場所があるというのか?


「天国の(ヘブンズ・ゲイト)と呼ばれる場所が、すぐそこにあります。もう少し進むと、左側に城が見えてきます」


 船が進むと!

 川に迫り出すように建てられた、小さな白い城が見えてきた。対岸は、小山と言って良いほどの大きな岩場。


 あそこでダヌビス川が左へ折れておる。


 ここは! 天然の要害でござる!

 守るに易いし、攻めるに難し! 船での突破は不可能。陸よりの攻撃は各個撃破の憂き目に会おう! ……なんか既視感?


「ここがダヌビス川で一番狭い場所です。あの城は国境を守る要塞であり、川の使用税を取り立てる為の役所でもあります」


 ここまで、町々で税を払ってきた。あまり関を増やすとダヌビス川を使う船が少なくなって税収が減るぞ。


「ここで通行料と入国税を払って、ジバンシル王国入りです……って、ありゃなんだ?」


 川に張り出した城の周辺で水が跳ねている。それも一カ所ではなく、城を取り囲むようにして川一面が泡立っているかのよう。

 一部が城に取り付いておる。キングクラスの大型川オークや、魔法をバンバン飛ばす魔法使い川オークまで。城のあちこちから煙が上がっている。


 あ! 炎の魔法が城の一部を壊した!

騎士達も何人かやられたぞ!


 騎士達は籠城戦であろうか、城壁の天辺から魔法や弓矢で応戦しているが、押されている。

第一、魔法が水中に届いておらぬ。やられ放題だ。

落城も時間の問題か?


『川オークの大量発生ですね。旦那、あそこを見てください。川の中程です』

「どこどこ?」


 中程には……オークキングらしき白いのが四頭。そいつらの後ろに赤い肌の、キングより二回り大きなのが!


「ありゃ何だ!?」

 船乗り達も気づいたようだ。こ奴らも知らない川オーク。


『おそらく川オーク・エンペラー。複数のキングを従える実力の持ち主。さしずめ4頭のキングは四天王かと。……思うに、ここしばらくの川オーク並びにキングの出現は、エンペラーの出現による現象ですな。ここが全ての元凶なんですよぉ!』


 それを船乗り達に伝えてやると、あろうことか、荒くれ者で名高い船乗り達が怯えだした。

 そしてキラキラした目で某を見つめるのは止めろ。気色悪い。


「ミウラ!」

『旦那、進化改良最終決戦型対潜魔法を使います!』


 ミウラを信じ、舳先へ立つ。


「get.are.(ゲツター)バルディッシュ!」


 大声で呪を唱える。派手な魔法陣が現れ、中央よりバルディッシュの柄がヌッと出てきた。

 これを見て驚く船乗り共。一様に目を見開いておるわ!

 萎縮した戦意を回復させるには、これが一番。ど派手な演目が特効薬なのだ!


「むーん、くりすたる、ぱわー! めいく、じぇいないんつー! どっちもばっさり!」


 おもむろに懐より取り出した頭巾を被る。船乗り相手に目立たねばならぬのだが、ジバンシル王国の騎士相手に目だってはならぬ。

 これから入る国の騎士に目を付けられたら何かと面倒だ。


「船長! このまま全速力で敵ド真ん中へ突っ込め! 一番分厚い陣より食い破る!」

「うおぉぉぉ! ガッテン承知! 船乗りやってて良かったー!」


 船乗り達が慌ただしく、そして嬉々として船を操る為に持ち場へ急いだ。

 船は魔法の推進力とやらで速度を増し、一直線に川オークの軍へと突っ込んでいく!


 城からもこの様子が見て取れたのだろう。口々に叫んでいる。僅かに聞こえる声は「無茶はやめろ」「引き返せ」の類い。


「命の洗濯の為に何が何でもタネラへ行かねばならぬのだ! そのためには命をも厭わぬッ!」

『本・末・転・倒!』


 火照った肌に冷たい川風が心地よい。

 こうまですれば、川オーク共もこちらに気づく。


 エンペラーが顎でクィ! 

 それを見た川オークの一軍が、こっちへ進軍しだした。


『まずは、全部潜らせますぜ、旦那! 炎系爆発魔法2連発!』

「おおよ! 泰山昇竜波! めてお・バルディーッシュ!」 


 適当な呪文を唱えると、バルディッシュから火の玉が二個飛び出した。

 向かう一団に向かった火の玉が、川オークの頭上で爆発。特に音が大きい。危険を事前に察知したのか、川オーク共は一斉に潜水を始める。


 もう一方は、エンペラーの頭上で爆発。エンペラーも定石通り、安全な水中へ逃れる。エンペラーに釣られ、川面に展開する雑兵川オークも水中へ没した。


 川オーク共め! そこが安全であった時期はとうに過ぎたでござるよ!


『第二弾、本命! スーパーを付けて!』

「波動爆雷! すーぱーハリネズミ・バルディーッシュ!」


 連続して十二発の光弾が飛ぶ。

 一端間を開けて、飛び出した光弾は二十四発!

 まず、近場に十二発が着弾。結構大きな面積で白い泡が盛り上がる。


「一つ上がりッ!」


 第二弾。

 エンペラーに向けて飛んだ光弾二十四発が、投網のように広がりつつ水中へ没した。


 ずいぶん範囲が広いのな!


 今度は白い泡だけで済まない。丘のように川面が盛り上がり、次々と太い水柱が立ち上がる。

 白くてでかいのが四つ、プカーした。


『くくくっ! 四天王の面汚し共め! 旦那、連続で行きますよ!』

「おおっ! 波動爆雷! すーぱーハリネズミ・バルディーッシュ! 乱れ撃ち!」


 城を要として扇状に。ぼっこぼこに泡立ちまくる水面。

 ぷっかぷっかと腹を見せて浮かび上がる川オーク。一頭だけ赤いのがプカー。

 エンペラーといえど、水中でミウラの魔法に敵うはず無し!



 残されたザコ共を殲滅した。逃れた者もいるが、それは騎士に任せよう。

 全速を出した船は城の直前を通過。


大声を張り上げる!

「川オークの壊滅をもって入国税としてもらう! まかり通ーる!」


 どさくさ紛れに国境を通過。確信犯でござる!

 城壁の上の騎士達は、胸に手を当てて某らを見送るばかり。某らの通行を見逃してくれているのだろう。



 ふふふ、これだから武人は心地よいのでござるよ。



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