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8.ひねもすのたり川の旅 でござる

 船の後方、西の方角に日が沈んでいく。


 川面も丘も茜色に染まる一時。

 イセカイの景色は赤が似合う。


『思うんですがね』

「なにがだ?」


 国境の町ギドンへ向けて進む豪華客船の中で。ミウラが前後のつながり無く何かを言い出した。


『仮称「波動爆圧」の魔法なんですが、何度計算しても想定出力の1.5倍は下らないんですよ』

「効果が大きいという事であるな? 良いではないか。大きい事は良いことだ」

『隣の車が小さく見えます現象ですか?』


 それは知らぬ。

 イミフでござる。最近ミウラに習った未来語でござる。


『何らかの外的要因でブーストがかかっています。一番怪しいのはイオタの旦那』

「某が犯人でござるか? 証拠と手口、犯行理由を述べて頂こう」


 窓際の文机におっちょんしているミウラ。小首をかしげている。複雑で難しい考えを言葉に直す時の癖だ。


『イザナミ様は、ヒルコ様を手始めに淡路島とかの国々やら、岩とか海とか風とか自然の神を産まれ、最後に火の神を産んで死んでしまわれた。四貴神こそは産みませんでしたが、神産みの神といえばイザナミ様を指します』


 それくらいは知っている。


『イザナミ様制約があったとしても、イザナミ様ご本人がお作りになった体。いわばイザナミ様が産んだお体』

 何を言ってとるのかな?

 小首をかしげる。


『なにが言いたいかというと、イオタの旦那のお体は神と同列なんですよぅ。色々と制約があって、本来の神様と比べ、めっちゃ劣っておりますが』

 某は神ではない。


『結論として、「波動爆圧」の魔法は旦那を介して使われました。旦那の神としての力が無意識に注がれていたのです。効果が上がるのも当たり前のことかと存じます』


「うーん……、この体、普通の人と比べ、何かと便利にできておる。足の肉球は足音を立てないし、手の肉球は物を握る時滑らないし」

『それは別件ですな。旦那のチート能力は後付けの別件といたしまして。……確か旦那は剣術が不得手で、後ろから数えた方が速い序列だったとか?』


 抜刀術とか、居合いとかはそこそこだったが。……確かに某は弱かった。


『生前より強くなってませんか?』


 バルディッシュのオーガ一味といい、オークの集団といい、野盗の団体といい、いずれも以前の某であったら、とっくに死んでいただろう。

 いくら加速の神通力を持っていたとしても、むかしの某に使いこなせていたであろうか?


 否である。


「こういう時は……」

『こういう時は?』


 ミウラと目が合った。


「伊耶那美様へ手を合わしておくのでござる。まんまんちゃんあん」

『まんまんちゃんあん』




 途中の町々に一時寄港。食材などを買い込んですぐに出発。

 夜は川の流れが穏やかな場所に停泊して過ごす。相当な日数を短縮できた。

 この船は某の貸し切り。持ち主に対し、なるべく早く返さねばならぬ。陸に上がっている時間は無いのだ。


 夜食であるが、町の市場で買い込んだ新鮮な食材が使われている。有り難いことである。


「鯉のムニエルです。煮込み野菜を敷いて」


 牛の乳からとれた油で焼いた鯉でござる!

 淡泊な白身がコクのある油を吸い込んでいて、なんとも美味しいでござる!

 野菜も魚の汁がしみこんでいて美味しいでござる!


「クレープ生地のコンソメスープです」


 太くて短い麺でござるか? お出汁の利いた汁に浮かんでいる。饂飩かな? 味噌汁みたいな?

 初めての味だが、腹に溜まる汁物だ。


「餡を生地で包んだ煮饅頭です」


 饂飩生地を薄くのばして餡を包んである。上から溶けたチーズがかけられておる。

 見るからに旨そう!

 熱々を口に入れるとホロリと皮が崩れる。中からハムやキノコ、野菜が出てきた。

 美味でござる! 美味でござる!


 お酒は林檎酒。林檎で酒を造るかイセカイ! やるなイセカイ!

 この酒、甘い口当たりのくせに少々きつい。いや、相当きついお酒でござる


 お腹いっぱいになった。


「ミウラ、おかわりは要らぬか?」

『残っていたら頂きますよ。魚が新鮮で美味しいですね。味付けはまあ、ネコだから食える? 美味しい方ですかね?』


 ミウラは美食家であるな。この料理をもってして、諸手を挙げて歓迎せぬとは。


 満腹の腹を抱えて布団に入る。この幸せは何物にも代えられぬ。


『ネットは無いし、シャワー付きバスタブは無いし。BL本は……いつか作ろう。でもネコだから快適な生活を送れていますので文句は無いです。はい』


 などとのたりのたり話を繰っていた時である。


「イオタ様、またのようです。ご足労願えますか?」


 ドアを叩いたのは、真っ黒に日焼けした恰幅のよい男。この船の船長である。


「かまわぬ。腹ごなしにちょうどよい」

『これで3回目ですね。何らかの原因で、川オークが活性化しているのでしょうか?』

 


 バルディッシュを担ぎ、船先に立つ。

 晴れた夜に半月が浮かぶ。ネコ耳族にとって、明かりは充分。冬の曇り日より、景色がよく見える。


「あの辺だな」


 豚面が何十匹も水面に浮かんでいる。先頭で、ひときわ大きいキングが、偉そうにふんぞり返っている。自ら先陣を切るとは。なまじかな将気では勤まらぬ! 敵ながら天晴れ!


『準備完了です』


 バルディッシュの斧部分が橙色に光る。


「せーのー!」

 大きく振りかぶってからのー!


「波動爆雷! ハリネズミ・バルディーッシュ!」

 振り下ろす先端より、橙色の光弾が斜め上に向けて飛び出す。


 急速に潜る川オーク共。

 山なりに飛んだ光弾は、川オーク集団のど真ん中に向け、下降を開始。十二個に分裂して、川面に降り注ぐ。


 白く泡立つ川面。ザバザバと波が押し寄せ、船を揺らす。

 三呼吸ほど置いて、川オークが浮かび上がってきた。一様に腹を見せて。


「ネコ耳先生!」

「さすがです先生!」


 とうとう船乗り達に先生と呼ばれてしまうようになった。


『潜水対象に点攻撃の魚雷は効率が悪いんで、多弾散布型前方対潜魔法、いわゆる面制圧式魔法に切り替え改良した結果、以前に増して効率的に水中の敵を倒すことが出来る様になりました』


 最初は手も足も出なかった水中の敵だったのに、これほど簡単に撃破していけるとは!

 ミウラは天才でござる! 魔道猫王でござる!


『今回、これで3回目。ビエナを入れると4回目で、こちとら経験豊富。都度改良しております。対して、川オーク側は個々に初見敗退。水中戦は敵無しですよぅ!』


 この頃までは、ダヌビス川の旅は順調であった。



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