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6.続・ダヌビス川の決戦! でござる


 某とミウラは、桟橋の反対側へ走る。ここには残り半数の戦力が固まっている。

 逃げられる前に殺る! コツは必殺を心がけて!


「波動爆圧! バブルパルスー・バルディーッシュ!」


 同じ事をもう一回。

 発射された光弾を避け、敵はみな水中へと逃げる。


『水中へ追い込む。それが狙い目です!』


 同じく手前に着弾。魔法の光弾は、細かい泡を曳きながら水中を飛ぶように走る!

 水中に潜む川オークの集団の中央まで進んでから爆発。


 プカリプカリと川オークの死体が浮かび上がる。


 緩やかな川の流れが災いしたか幸いしたか? 川オークの死体は流れることなく浮かんだまま。


「なぜだ? 火魔法は水中の魔物に利かぬはず?」

 見学に来ていた騎士の口からこぼれた。


「某も解らぬのだが?」

『難しいことは端折りますが、仮称「波動爆圧」の魔法弾の中に、圧縮した酸素、つまり煙硝みたいなのを混ぜています。これにより水中にあっても空気中と変わらず爆発します。ロケット花火と(おんな)じです。水中で爆発させればこちらのもの! もはや水中は我等が狩り場! 敵の死地!』


 おおミウラ、目が輝いておるのな。言ってることは一言すら理解できぬが!


『水中だと魔法攻撃が通りにくい。剣や槍も届かない。魔物はそれを知ってすぐ水中へ逃げる。でもそれこそわたしの思うつぼ。この魔法は水中でこそ抜群の効果が現れるのです。これが水中爆発。そしてそれによる圧殺』


「う、うん、圧殺ね、圧殺。うんうん。それで?」


『地上だと爆発で起こった圧力波を散らすことができ、爆心より少し離れると圧力波が激減します。でも水中では、まっすぐ水の中を進んで、敵にフルの圧力でぶつかります。その圧力は肺や内臓の中の空気を押しつぶすのです。水中で爆発の圧力波を受けることは致命傷を受けることと同義語。100%の死です。これがバブルパルスの恐ろしさ!』


「なるほど道理だ! さすがミウラ! よくぞそこに気づいた!」

 全~然、解らんけど。


『魚雷の概念を持たぬイセカイじゃあ、初見殺しの最たる物!』


 ほうほう、魚のように水中を進む雷。魚雷とは言い得て妙でござる!


 おっと、中州ででかい川オークが吠えておるわ!


「残るは中州の上位川オークと川オークキングのみ! 最後に一発でかいのを頼むぞミウラ!」


『心得ました……ですが、わたしの想定以上の爆発力です。まるで何か別の要因が働いているような?……もといして、今まで以上に魔力と気力と超力とガッツを込めますので、時間を稼いでください』


 ひょいと飛び降りるミウラ。なにやらニャゴニャゴと鳴いておる。

 魔法の説明は手も足も出ないが、時間稼ぎなら得意でござる。


 ゆっくりと観客席に向かい振り返る。

 バルディッシュを肩に、片手を広げる。


「さて皆の衆! 今のがネコ耳族に伝わる秘伝の技でござる」


 おおーっ! 


 某に、勝利の期待を籠めた視線が集まる。


「見ての通り、拙者はネコ耳族。一族の中には一部、魚を捕る術に突出した者もおる!」

『日本の猫が魚好きなのは、タンパク源が魚しか無かったからですが、おっと呪文呪文!』


「……魚も川オークも、川に住んでおる事に違いはない。よって対策我に有り!」


 腕を大きく突き上げる。

 そこここから拍手が起こった。


「フフフ、既に拙者、こうみえてセイレーンを下しておるのでござるよ。ネコ耳族の上級侍にとって、セイレーンは捕食対象でござる!」


 おおおーっ! 大きな歓声が沸き起こる。

 現に、証拠が目の前にある。


 川オークの主力が全滅(プカー)


 騎士も冒険者も敵わなかった敵に対し、初めて実績を出したのだ。しかも大量の!

 川オークキング如何ほどのものぞ! と!


「しかし、さすがに秘伝の奥義技を二発撃てば疲れるのでござる……」


 肩の力を抜いて、疲労を表現する。

 観客から笑顔が消えた。


 次ぎに、ミウラに教えてもらった足拍子手拍子。

 どんどんぱん! どんどんぱん!

 足を踏みならすこと二回。手を打ち合わせること一回。

 どんどんぱん! どんどんぱん!


「拙者の心を高ぶらせてくれ。さらば、貴殿らの魂を振るわせてみせようぞ!」


 どんどんぱん! どんどんぱん!


 何を求めているか、皆の衆が理解したようだ。

 某と同じく足を踏みならし、手を打ち合わせてくれる。

 音が合わさり、空気を振るわす!


 では参ろう。

 にっこり笑って片手を挙げる。


「ネコ耳族のイオタ、参る!」


 桟橋をゆっくりと歩き出す。桟橋の先には、中州がある。川オークキングが潜む地。きゃつは、中州の前の水中に潜む。


 振り返って、手のひらクイクイ。観客を煽る。


 参加する者が一気に増え、足拍子手拍子がことさら大きくなる。

 ミウラはまだ魔法の構築とやらに集中している。もう少し時間を稼ぐ。


 某も足踏みし、手を打ち合わせる。調子を早くして。

 どんどんぱん、が、どっどっぱっ、に変わる。


『旦那、いつでも行けます!』

 ミウラが某の懐へひょいと飛び込んだ。


「いくぞ!」


 バルディッシュを抱え桟橋を走る。観客の足拍子手拍子がさらに早くなる。唸り声が地響きのようになる!


 桟橋の端が見えた。

 バルディッシュを大上段に構え、派手に飛び上がる。


「波動爆圧! バブルパルスーッ・バルディーッシュ!」


 飛翔の頂点でバルディッシュを振り下ろした。


 発射された青い光弾は前の二つより太くて長い。川の中ら辺で着水。微細な泡を引きながら、馬より早い足で水の中を真っ直ぐ進む。

 川オークキングらしい大きな影が逃げるように動くのが見えた。


『もう遅い!』


 大きな影の手前で赤い発光。

 くぐもった爆発音が聞こえる。揺すぶられる桟橋。


 光の範囲が広い。今までの倍以上広い。


 小山のように盛り上がる水面。その頂上から一本、水柱が高く上がる。

 渇いた爆音が圧力を伴って頬を打つ。


「威力、高すぎなくね?」

『想定を遙かに超える破壊力です。やはり何かある。……ってか、桟橋が崩れていきますね』


 高波に飲み込まれ、先端からバラバラになっていく木製桟橋。


「尻に帆かけて撤退するでござる!」

『旦那の場合、尻尾に帆かけてです』


 一目散に逃げ帰る。

 背中に、木製品が捻り壊れるいやな音を背負いながら。


 結局、桟橋の半分が倒壊したでござる!

 ダヌビス川衆がアングリと口を開いて惨状を見つめているでござる!


 吹き上げられた川の水が雨となって某と見物人を濡らしていく。ノリで加熱した頭が、水で冷やされていくのが手に取るように解る。


『桟橋の……責任を取らされませんかね?』

「有り得るが、某に妙案有り!」


 某、声を張り上げる。

「さあさあ、皆の衆!」


 何だ? といった視線が某に突き刺さる。


「そこ元らの手を貸して欲しい」


 だから何だ? という顔つき。


「憎っくき川オーク共にとどめを刺す仕事。死に至る怪我を負って苦しんでおる敵を楽にしてやる。これ、武士の情けなり!」


 川波衆の顔色が喜色に変わる。意図を察してくれたようだ。

 連中、復讐心を満たす要求に攻撃的な心が躍っておるわ!


「生憎と拙者は船を操れぬ。ダヌビス川衆の中で、船を操るのが一番得意なのは、いや! この町一番の船頭はどなたかな?」


 ダヌビス川衆に向け、顔に黒い表情を浮かべる。口の端を思いっきり歪めて笑う。


「川オークキングの首を取る世界一の船頭殿は、この中の、ど・な・た・か・な?」


 一瞬の沈黙の後、誰かが声を張り上げた。

「そこまで言われてやらねえヤツがいるか!」


「野郎共! 船を出せー!」

「俺が一番乗りだー!」

「今日までの鬱憤ッ晴らさせてもらうぜー!」


 どっと繰り出す船舟々。向かうは、プカリプカリと浮かぶ川オーク。


「ついでに川オークの討伐部位をもってきてもらえば助かるでござるよー!」

「まかせとけー! たー!」


 頼りになるでござる。


『ああ、なるほど。共犯者に引きずり込んだのですね!』

「例え相手が権力者であろうと、みんなで殴れば恐くない」


『ロックですね』



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[一言] うぃーうぃるうぃーうぃるろっくゆう!
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