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4.どうあっても船を出さない件 でござる

 湯あたりが原因か、旅の疲れが出たか?

 某、体調を崩し、宿でぐずること2日。3日目に動けるようになり、4日目に全快。


 さっそく、東へ向かう船を見繕う。

 どれ、某の交渉術をとくとご覧に入れよう!




「それは何故でござるか? か、金ならある!」


 いきなり問題発生である。

 船頭に、船が出せないと言われたでござる!


「金の問題じゃねぇんだよ。川オークが大量発生しちまって船が出せなくなったんでさぁ!」


 川オーク? 

 川オークと言えば、上半身オークで下半身が海豚のアレ?


「いや、そのりくつはおかしい。川オークは自身より大きな物、船などは襲わぬと聞いたでござるよ?」


「それがさぁ、連中、数に物を言わせて川の上で動く物なら何でも襲うようになっちまって。大型の船まで餌食になっちまってさぁ。水系の魔法まで使うのも出てきたし」


 オークが魔法なんか使ったっけ?


『それは川オークメイジですね。たまに発生するんですよ。でも所詮はオーク。魔法使いとしては下の方です』


「3日前までは何とか船を出せたんだけどなー」

『旦那、旦那!』

 ミウラが恨めしそうな目で某を見上げておる。


「しかしこれは困ったニャー!」

 声を大にして叫ぶ。いや、ごまかした訳じゃなく!


 前に進めぬ。いや、陸を行けば前に進めるが、本格的な冬が来る前にジベンシル王国へすらたどり着けないだろう。旅の計画を大幅に変更しないと。資金とか稼ぎとか仕事とか資金とか!


『おや? 旦那、あちらの方が騒がしくなってきましたよ!』


 あちらを見ると――騎士らしき集団が大型の船着き場付近に集結している。


「おっ! やっとの事でお出ましか! 騎士団が出たからには、もう安心ですぜ! すぐに船が出せるようになるでしょう!」


 主要な船着き場を抱えるブレダには、地元の名家っぽい豪族に毛が三本ばかり生えた領主がいる。川に張り出した美しき砦が居城だ。


 騎士を目で数えた所、ざっと五十人。

 ブレダの町だけでこの数は揃えられまい。近在の領主達から借りてきたか、事の重大さに進んで提供したか、どちらかでござろう。


 騎士達の後方で薄く広く展開している小汚い武装集団。

 これは冒険者であるな。


「Cクラス以上の冒険者に招集がかかりやした。騎士様が討った川オークの後始末要員でさぁ」


 馬回りの小者扱いか?

 騎士にも小者が付いておるが、もっと汚れ仕事を任すのであろう。

 例えば、止め刺しとか、死体処理とか、討伐部位の回収とか。


 魔物対策は冒険者専用だと思いがちであるが、イセカイの騎士団は魔物対策のプロである。……とミウラが言っていた。


 騎士と言えば武士も同然。その騎士が出張った以上、冒険者は後塵を喫するであろう。


『実際、騎士の方が冒険者より戦闘能力が高いですしね。冒険者と違って正式な戦闘訓練を積んでいますし、武器防具も上等です。ちょっとした魔法だって使うそうですから』


 相変わらずミウラの知識には目を見張るものがある。

 ちなみに、中でも一番立派な鎧を纏い、指揮しているっぽい騎士を心眼で見て見ると――


種族:人間

性別:男

武力:十

職業:騎士隊長

水準:甲

性癖:NTR

運:八


 エランと同じ強さだ。

 ……性癖のNTRって何でござろう?

 ま、いっか。



『動き出しましたよ旦那!』


 騎士団全員の装備は腰に剣、手に銛。従者が長柄の槍を追っている。

 一糸乱れぬその動き。

 武人はこうでなくては! ほれぼれする。


 騎士は統制のとれた隊列を組み、陣形を作っていく。

 川の中程に大きな州がある。そこが攻略目標らしい。

 大多数が川辺に布陣。次々と船に乗り、川へと漕ぎ出していく。

 桟橋に展開する騎士達は予備兵力か?


 あれだけの戦力だ。川オークの十匹や二十匹、ひとたまりもあるまい!

 川オークがあちらこちらの川面から顔を出した。川べりが騒がしくなったからだろう。


『旦那、あっちからもです』


 ミウラの丸い前足が桟橋のこっち側を指す。そこにも……何でござるか? 五十匹は下らぬぞ!

 桟橋の向こう側にも五十匹以上の川オークが水面から顔を出している。

 合わせて百匹。騎士団の倍の数。


 川面が豚面で埋められている。これはこれで一種の壮観な眺め。


「ああーっ!」

 船頭が悲鳴を上げた!


 川の沖合に出た騎士を乗せた船が、申し合わせたようにひっくり返ったのだ!


 川に落ちた者は二度と浮かび上がってこなかった。鎧が重いんだ。

「命綱を船と体につけていないのでござるか?」

「そんな事したら命を惜しんでるように思われますぜ! 臆病者と誹られます!」

 うむ! 侍も騎士も同じ馬鹿者でござったか。


 何にしろ幸先が悪い。先手を取られてしまった。

『遅れましたが攻撃が始まったようです』


 岸に並んだ騎士から矢や魔法が飛んだ!

 川オーク達はザブリと音を立て、水中に身を沈める。

 矢は水面を貫けず、プカプカと浮くばかり。風や火の魔法は水中に届かず。水の魔法はどうなったか解らぬが『水棲の魔物に水攻撃は、効き目が今ひとつです』。

 ドブン、バシャンと派手に水面が沸き立っているだけだ。


『土魔法は、水に浸かった途端、ただの泥になりますし。石化した土魔法でもどうでしょう? 水の抵抗で威力は相当削がれます』


 ゲルム帝国へ向けた海の旅でセイレーンに襲われた、……人魚に襲われたと聞けば聞こえは良いかも知れないが……嫌な想い出が鮮やかに蘇る。


『地上で効果的な魔法は水中じゃ通用しません。使用頻度が低い水中用の魔法なんざ誰も開発しませんしね』

 ミウラの言うことは、いちいちもっとも然り!

 

 銛や投げ槍が効果的であったが、数が少ない。突き刺さったまま潜られたものだから、回収ができない。銛を体に突き刺した川オークを、数頭の川オークが引っ張って川底深く潜っていく。


「川オークに嵌められたでござるな」

『オークの知恵とは思えませんね』


 銛を消費した頃合いを見計らって、川オークの前線が後退した。

 距離が空いた。いや、距離を開けられた!


 騎士に残された得物が短い。長い槍でも三間『約5m半ですね』しかない。

 土手で振り回しても、中州に届くはずがない。川オークが潜む水中になど届かない。某のバルディッシュでも同じ事。

 沖の方で顔を出し、のんびり観戦する川オークまで出る始末。


 おっ! 桟橋の騎士団に川オークが攻撃を仕掛けだしたぞ!

 水をかけたり、桟橋の柱を揺すったりと、やりたい放題。攻撃の気配を感じたら、迷わず水中へ没し、逃げを決め込む。


『せこい攻撃ですが、地味に利いてますね』


 騎士達の攻撃は届かず、川オークの攻撃は騎士達に出血を強いている。

 手も足も出ない。一方的でござる!


『人間は陸上でしか生活できません。川オークは川でしか生活できません。本来、両者の生活圏は交わること無いのですから、(いくさ)になりません。実際、戦っても両者共にダメージを出せないはずです。ただし、船という人間だけが使う道具により、川オークのテリトリーに入った人間は除く』

「なにを言ってるのか半分位は解りません」


『つまりですな、川オークが陸に上がってきたら人間の餌食。人間が川に出たら川オークの餌食

「理解した」


 人が圧倒的に不利。なぜなら人は、船を使わねばならないからだ。簡単な理由でござる!


「あれは? なんだありゃ? 向こうの中州に何かいやがるぜ!」


 船頭さんが川の中程にある、緑に覆われた中州を指す。

 ここからでも解る。ひときわ大きな川オークが一頭現れた。色が真っ白。両脇に賢そうな顔付きの川オークを連れている。

 連れていると言うより侍らせている?


「ブォオオオォッ!」

 川オークの遠吠えか?


『旦那、川オーク達の動きが!』

「むっ?」


 川辺で陣取る騎士部隊を挑発する川オークの部隊。それに気を取られた騎士部隊の真横から、水中より飛び出し体当たり攻撃を仕掛ける川オークの戦闘部隊。

 今までバラバラに戦っていた川オーク達が、統制だった攻撃をするようになってきた。

 小癪でござる!


「ブォオオオォッ!」


 また遠吠えだ。あのでかい豚は川オーク共の組頭か?


『まさか、川オークキング!?』

 なんと! 川オークキングとな? 

「ミウラ!」


『ははっ! オークキングとは直訳すると「オーク共の王」。およその魔物で「キング」が発生するとその種の数が爆発的に増え、統率のとれた行動をするようになるのです。おおむね、より好戦的になる傾向が見受けられます。ちなみに川オークメイジなる魔法使いの存在も、キング発生と関係があると言われています』


 なんと! 川オークキングとな? それは一大事!



 武器の届かぬ距離から顔を出した川オークの一団から、魔法攻撃が飛び出した。


 ばたばたと倒れていく騎士達。

 力押しの中に奇襲攻撃を交えている。

 これもあの白いオークキングの指揮か? 見事な統率力でござる。


『ウォーターランス! 水の槍です。当たり所が悪ければ死んでしまう魔法です!』


 まず桟橋から騎士達が駆逐された。全員、撤退である。

 川辺に並ぶ騎士達も戦線を後退させた。うおーたー……水魔法の射程から逃げる為だ。


「これは、あれだな。決着が付いたな。拙者らも逃げよう」


 打つ手無し。このままだと騎士団にだけ被害が広がる。


 河原に展開した騎士団の隊列が崩れた。我先にと後退している。

 その後を追い、岸辺にまで押し寄せる川オーク。

 ここから見える一面の川面が、川オークの豚面で埋められた。


「これは? ブレダの砦が川オークに包囲された?」


 川オークの集団が、ブレダの砦を包囲するという結果に終わる。

 三方を川に囲まれた立地が災いした。

 ブレダの砦はダヌビス川の支配を失ったのだ。この大陸の交通の要衝が一つ分断された。

 領主殿の危機でござる。(まつりごと)的な危機でござる。


 上に立つ者の危機に関して、下々の者どもは――。


「騎士なんか役にたたねぇ!」

「普段偉そうな顔してるくせに!」

「こちとら川の使用料を払ってんだ! 金欲しかったら川を使えるようにしやがれ!」


 お上への不心得者も出てくる始末。


 これをもって、ブレダ騎士団は川オークに完全敗北となったのである。


 

「いや、敗北となった、で終わったらダメなんだ。某の旅が!」


 某のちぃと能力をもってしても、効果的な攻撃は出来ないだろう。だいいち、某のは一対一の戦いに特化している。……最近気づいた。

 川オークの素潜り攻撃に対し、打つ手無し。セイレーンの時然り!


『旦那、わたしに策有りです!』

「む、ミウラ、その方セイレーン相手に手も足も出なかったではないか?」


 ミウラの得な魔法は火と土。どちらも水相手に相性が悪いと言っていた。


『ふふふ、いつまでも苦手をそのままにしておくミウラさんではありません! 対抗策は既に開発済み、実用化にこぎつけております!』

「頼もしいぞミウラ! もはや伝助なぞ足下にも及ばぬ高みへ昇っておるぞ!」


『フフフ、褒めてください。わたしは褒められて増長する子なんです!』

「よーしよしよし!」


 ミウラの頭をカイグリカイグリしてやる。

 さすがミウラ! 博士の名は伊達じゃない!


『そのために、旦那と練習がしたい。お付き合い願えますか?』

「もちろんだとも!」



 似たような場面が前にあった気がする……。


本業の都合上、休みの日限定でアップしてます。


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