観劇:怪傑ネコ頭巾アラハル。または、みんなブツ殺して某も死ぬ でござる
今回は劇中劇です。
緞帳が上がる。
厳かに、まことしめやかに劇が始まった。
なぜか背後に大階段が設営された舞台。
物語は田舎の寂れた村から始まった。
平和な村である。村には作物が溢れ、若者は娘に恋をする。
突然! 暗雲と共に野盗の集団が襲ってきた。悪名高い悪党、バルディッシュのオーガ一味!
それも30人だ!
残忍無比。配下の者どもと無頼の歌を歌い上げながら、村人を惨殺していく。作物に火が放たれる!
抵抗する者もいたが、力の差は歴然! 一人、二人と倒されていく。
神よ! 空より見下ろされている神よ! どうかお慈悲を!
お助けください! 無垢なる子達をお助けください!
村長とその娘らしい子が、暴れまくり歌いまくる盗賊達を背にして祈りを捧げている。
いよいよ盗賊の手が娘に伸びようとした、その時!
稲妻が大階段の最上段に落ちた!
印象的な打楽器による旋律を背景に、むくりと起き上がるのは誰あろう、看板女優が演じる凛とした美少女。
彼女こそ、正義のヒロイン、イオタ。
ここで戦闘シーンが始まる。勇ましい音楽に合わせ、下っ端共をばったばったと切り捨てていく。
最後に残ったのは、バルディッシュを構えるオーガ。
その上背から繰り広げられる長モノの斬檄は凄まじい。さすがのイオタも防戦一方。
音楽も危機感を煽る旋律へ変わる。
だが、オーガの善戦もここまで!
「変身!」の掛け声と共にイオタの体が光る。そこに現れたのは!
「怪傑、ネコ頭巾参上!」
顔には覆面。衣装は金ピカ。腰には派手なバックルが付いた太いベルト。
「辺境一の達人、バルディッシュのオーガ。だがその腕前は、世界じゃ二番だ」
「二番だと!? じゃあ一番はだれだ?」
自棄にカンに障る舌打ちを打つネコ頭巾。
「拙者でござる。とぉー!」
強い! 強いぞネコ頭巾。一撃、二撃、三撃目でオーガを撃破!
彼の者のバルディッシュを手に取り頭上に掲げた!
生き残った村人から賞賛の嵐! そして生命の息吹を讃える歌が流れ出す!
第1幕終了。
第2幕。
大きな町に出たイオタ。
気品溢れた音楽を背景に、ダラダラとした芝居が続く。
いきなり仲間と共に悪の『会話が出来る』トロール一味と大決戦!
前後のつながりがおかしなことになっているが、観客の誰もが気づかない!
仲間を一人ずつクローズアップさせた戦闘シーンが、それぞれをテーマにした音楽と共に繰り広げられる。
やがてトロールのボス『牙大王みたいな』のと一対一で戦うイオタ。もちろん戦場は大階段の上!
激しい斬り合いが始まった。危うしイオタ!
仲間の声援で、勢いを盛り返すイオタ。楽曲がイオタのテーマに変わる!
僅差でイオタが勝利を収めた!
悪の栄えた試しなし!
仲間と力を合わせ、愛と正義と友情が勝利したのだ!
船に乗って一人去って行くイオタ。もの悲しい曲が印象に残る。
第2幕終了。
第3幕。
どこかの都、ベルクファストとかいう名の大都会。
イオタはビーベル商会なる大きな店に用心棒として雇われていた。
先輩格の用心棒は、気のいい先輩剣士エドガー。劇団トップの二枚目俳優が演じている。
そして、妹の美人剣士ドロテア。娘役で有名な女優が演じている。
三人はすぐ打ち解け合っていた。
日常の絡みを人物紹介しつつ、だらだらと続けてから、いよいよ本劇のメインが始まった。
バズ商店からのあからさまな嫌がらせ。
一度は、エドガーとイオタが力を合わせた友情パワーで撃退。
そしていよいよ誘拐事件。
事実に沿って、孫娘であるターニャちゃんの代わりにエルナちゃんが攫われる。
おきまりの身代金要求。『なぜか犯人が直接犯行声明文を持ってやってきた』
他人が攫われたのに、屋台骨が揺らぐほどの身代金をポンと出そうとするビーベル商会の会長!『美魔女女優』
正義の血が騒ぐイオタ。
金策に走りまわる騒ぎを余所に、こっそり抜け出す。
拉致された場所の情報が一切提示されて無いにもかかわらず、夜の町を監禁場所に真っ直ぐ目指すイオタ。
道中、怪傑ネコ頭巾へ変身する『効果音と魔法によるエフェクト有り』。
かっこつけて仲間に加わるドロティア。
心配だとの言い訳で加わるエドガー。お人好しを強調した演出が光る。
舞台変わって、酒を飲みながら誘拐の成功を疑わぬバズ商店店長。
柄の悪い取り巻き共が店長をよいしょしている。
「これで目の上のたんこぶビーベル商会をつぶせますぜ旦那!」
「旦那様も、相当の悪でございますね!」
「いやいや、誘拐策を考えたお主も悪よのう」
「わっはっはっ!」
大笑い。
そこへ届き渡る臭い台詞。
「拙者の心は嵐の如く猛っている。いくつもの怒りや悲しみ。その怒りと悲しみを我が力として、拙者はお前を討つ!」
「だれだ?」
「どこにいる!」
ババンと効果音が入った!
「人、それを『修羅』という!」
両開きのドアをバンと開けて颯爽と現れる覆面と素顔の男女。
「何やつ!」
「人呼んで怪傑ネコ頭巾」
「ええい! 曲者め! 先生方! よろしくお願いします!」
現れる剣豪達、凄い強そう。
ばったばったと切り倒していく三人。
ここでも一人ずつの見せ場があった。
素早い身のこなしで敵を倒していくネコ頭巾。
剛剣を振るうエドガー。
ドロティアの華麗な剣技。
敵を全て切り倒し、エルナちゃん(子役)を助け出すネコ頭巾。
事件は一件落着! と思ったら、ラスボス、バズが現れた。
どういう経緯があったのか? 謎のままドロティアを人質にして。
錯乱する兄エドガー!
しかし、ご安心なされい!
ネコ頭巾が腕を天に掲げる。光と共に天よりピアノ線で『魔法使えよ』釣り降ろされてきたのは、青く輝くバルディッシュ。
それを手に取るや、振り回してから明後日の方向へ振り下ろすネコ頭巾!
大音響を伴って屋敷のセットが壊れ、暗転!
明かりが灯る。どういう経緯かは判らぬが、ネコ頭巾の腕に、ドロティアがあった。
御用だ!
誰が知らせたか知らないが、護民官達が踏み込んでくる。
理由も聞かずバズを縛り上げる護民官。
ネコ頭巾達に敬礼をし、バズをしょっ引いて下手に下がっていく。
でもって、現場に駆けつけるエルナちゃんの親。感動の再会である。音楽隊がこれでもかと雰囲気を舞上げる。
良かった良かったと、口々に言葉をだして舞台から下がっていく登場人物達。
一人残ったネコ頭巾。斜め七三に立ち見得を切った。
「町から町に、泣く人の、涙を背負って世界の始末! 人呼んで怪傑ネコ頭巾! お呼びとあらば即参上!」
その台詞が合図となった。
ネコ頭巾に照明(魔法による)が集中。観客席からは、光で見えなくなった。
光が消えた時、ネコ頭巾はそこにいない。
一人で旅立ったのであろう事を匂わせるナレーション。
万雷の拍手。
そして幕が下りる……。
拍手が鳴り止まない。
カーテンコールが始まった。
イオタ役、エドガー役、ドロティア役、そのたメインの俳優。さらにオーガ役やオーク役、ビーベル役の俳優まで。ウラッコまで出てきた。
手に草冠デザインのベルを持って、軽快な音楽に合わせ振っている。
曲の最後らへんで、左右の客と中央の客に頭を下げてお礼。
最後に二階に貴賓席に向かってお礼。
照明が落とされ、薄暗い明かりだけになった。
これにて怪傑ネコ頭巾、一巻の終わり。
次作、『怪傑ネコ頭巾:さらばネコ頭巾! 盗賊連合108人衆』
ウラッコ先生、絶賛台本執筆中につき乞うご期待!