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14.商売 でござる


 翌日、商業ギルドの門を叩いた。


 世間には知られていないが、商業ギルドには大きく分けて三つの部門がある。


 一つはビラーベックのような大商会相手の調整部門。

 二つ目は固定店を持った商店や、行商人の相談部門。

 そして三つ目は、、店も持たぬし行商人でもない商人。かみ砕いて言う所の「香具師(やし)」担当の部門。


 某は三つ目の香具師部門のカウンター前にいた。

 この部門は、商売人の品格を見極めたり、商品が売り物になるか否かを判断し、営業の可否を出す権限を持っている。

 絶対売れない商品を出してしまい、首を括る商人が出るのを防ぐ為である。


 もう一つ、法に触れる(ぶつ)や盗品を市場へ流さない、監視と検査、ふるいの役目を司っているのだ。


 この審査に通って初めて出店を許される。

 ギルドに支払う金額にもよるが、六尺半四方の『2メートル四方ですね』ギルド印入り茣蓙を渡される。それが許可証。

 この茣蓙の範囲で商品を並べ商売をする。それが決まり。

 ギルド印の茣蓙を持ってない者はモグリとされ、ギルド専属の怖いお兄さん方に裏路地へ連れ込まれる運命が待っている。


「ではまず、販売にあたって、対象商品のサンプルを幾つか見せてください」


 商業ギルドの受付は、なぜか中年の親爺ばかりでござる。笑顔を振りまく規則は無いらしい。

 おっさんの笑顔は、それはそれで厳しいモノであるが。


「これでござる!」

 自信満々にズタ袋の中に仕込んだ収納ボックスより取り出したのは――


『個性的な人形ですね。それも、南の町だけの観光用記念人形。さ、帰りますよ旦那。恥ずかしいお土産はしまってしまって』


 はっはっはっ! ミウラよ、それだからネコは商売の才能が無いといわれるのだ。

 ここ帝都で南の町の土産が買える。突き詰めて言えば、この町には絶対無い商品。

 これが売れずして何が売れるというのか?


 担当の親爺は、素晴らしい作りの商品を手にし、いろんな角度から眺めている。


「えっと、少々パンチに欠けますね。これでは許可は出ません。他に何かありますか?」

 なんと! これの良さが判らぬのか! 巨大な商売の予感がせぬか?


「くっ! 他にも取りそろえているでござる!」


 二枚貝をくっつけて作ったカエル魔獣の人形。大理石のかけらを貼り付けて作った魔王城の灯籠。大きな木の実くりぬいて作った南国妖怪人形。


「……もうありませんか?」


 担当の親爺は、これら商品に一瞥すら与えず、かような失礼なことを……マジ駄目すか?


「な、ならば、これなんか……どうかなーって」

『最後囁くように小声になるのは辞めてくださいよ。かっこわるい』


 取り出したのは、南の町で暇に飽かせて作った自作木彫り人形。


「ほう、これは?」

 手に取る親爺。


「拙者の姿形を元にした、招き猫的な? ……商品というより、ネコ耳商店の看板というか?」


 高さ七尺『20センチですね』の木彫り人形。恥ずかしながら、色もなにも付けてない。素の木肌の人形である。

 某が七尺に縮んだらこうなるであろう。なるべく写実的に作り上げた。


「誰がお作りになられた商品ですか?」

「せ、拙者でござるが?」

「器用ですね」

 斜めやや下から覗き込む中年担当。


「これを売るなら出店を許可しましょう。ちなみに、値段を付けるとしたら?」

「ご、五十セスタ……では?」

『物価にもよりますが、大きい方のワンコイン相当ですね』


 担当の眉間に皺が寄った。これ以下って事は無かろう。だとすると、上か?

「い、いや、百セスタ?」

「3,000セスタの値を付けるなら許可しましょう」

『物価にもよりますが、日本円で3万円相当ですね』


 敷物をもらった。

 噴水広場で空いてる場所ならどこでもいいとのこと。

 

 解せぬ。


 ま、いいか。




 翌日。朝早くに宿を出たが、広場は既に先約ばかり。遅かった?


 夏の日差しがまともに当たる南側だけ空いていた。しかも工事中で石畳を掘り返してある隣でござった。

 立地条件最悪でござる。


 グチグチ言っていても金は入ってこぬ。

 商品を並べて、……暑くなってきたので羽虫が多い。顔や頭の周りを舞って鬱陶しい。かといって手で払うとそれだけ準備が遅れる。


 耳をパタパタさせるだけで、羽虫が寄ってこない。ネコ耳族の便利な所でござる。

 商品を並べ終え、最後に「招き猫イオタちゃん」を出して、ふと顔を上げると、人だかり。


 びっくりした!


 工事現場にまで人が立ってる?


「その、ネコ耳人形はいくらかな?」

「三千セスタでござるが、高いようなら――」

「買った!」

「にゃ?」


 三千セスタで売れたとな?


「ちょっと待った! それは俺に売ってくれ! 倍の6千セスタを出す!」

「まてまて! 俺なら7千セスタ出す!」

「はい、7千、それ以上はないか? それ以上は?」

「7千5百!」

「8千!」


 勝手に競りが始まった。

 競りが終わると一万五千セスタにまで跳ね上がっていた。

 どうぃぅ事でござるか? 怖いでござる!




 招きイオタちゃんが売れてしまうと、あれほどいた客が、潮が引いた如く消えてしまった。

 またしてもこれはどういう事でござるか!?


 首を捻っていると、ミウラが某の膝をトントンした。訳知り顔でござる。

『旦那、わたしの時代で流行っていた技法を使って、もう一度木彫り人形を作りましょう。頭の大きさ1に対して体を2にして作ってください』


「はっはっはっ! ミウラよ、それでは頭でっかちで、変な人形になるでござるよ!」


 ミウラは、いつものように反論もせず、続きを話しはじめた。

『福助人形って旦那の時代にありませんでしかね? デフォルメという最新流行の技法です。イセカイにはまだありません。早い者勝ちです!』


 未来の世界の、しかも最新にして流行の技法であるか!? これはイケル!


 某、こっそり収納から木ぎれと小刀と小ノミを出して、彫り始める。

 脇目もふらず、一心不乱に彫り続けた。慣れてないから時間がかかるのな。

 それでもお昼前には完成した。

 ふーっ、と息を吹きかけ木くずを払う。


「ざっとこんなモンで――」

「それ買った!」


「うぉっ!」

 驚いた。いつの間にか客がわんさと集まっていた。


「俺が先だ! 5千出す!」

「なら6千だ!」

「ナマの息がかかってるんだ、8千出す!」


 ……競りが始まった。


 最終落札価格は一万八千セスタであった。ぼったくりもいい所でござる。

 朝と同じく、イオタちゃん人形が売れてしまうと、潮が引いてしまった。


 某が目利きをして仕入れてきた人形は要らぬでござるかー?

 今なら一割引でござるよー!

『返事が無い。ただの屍のようだ』

 どーゆー意味でござるかな?


 お昼でござる。

 宿の女将が、なぜか持たせてくれたお弁当を食べながら、ミウラと会議を開いた。


『次は、旦那の着物を着たわたしが体で、顔が旦那。これは確か、三本の指に入る流行の技法だと記憶しております!』

「よし乗った!」


 さっっそく彫り始める。

 お日様が暑いので、なんとかしようと件のネコ頭巾を取り出した。

 こないだの夜のように顔を隠したりせず、耳を出して頭に乗っけるだけだ。


「はい! 完せ――」

「買った-!」


 朝より昼前、昼前より今、といった順で人が増えているでござる!

 どうしてこうなった?  


「今度は俺だ!」

「あのかぶり物! こいつは本物だ!」


 ネコ耳競り会、本日最高価格の三万百セスタを記録したでござる。


 鐘八つ。仕舞いの時間になった。

 結局売れたのは、某が手作りの木彫りの人形三つだけ。

 大量に仕入れた人形類は全て売れ残り。

 しかし、売り上げは全ての仕入れ価格を大幅に上回った。いわゆるボロ儲けに相当。

『今日の売り上げ合計で、セローを乗り出し価格で買えますね』


「これは一体どういう事でござるかーっ!」

『こんなところで夕日に吠えないでくださいよ旦那!』

「もうお家帰るーっ!」

『ああ、幼児退行現象!』




 利益は上がったが、いまいち納得のいかぬ商売の帰り道。

 ――それを見つけた。


「何でござるかな?」

『旦那の商売より人だかりが出来てますね』

「某のとは比べものにならぬ行列でござるよ」


 それは石造りの立派な建物。ビラーベック商会の本店より背が高い。

 相撲興行のような幟がたくさん上がっていた。

 ここにずらりと人の列。


『オペラハウス? のようです。歌劇や芝居をする常設舞台ですよ。入場料が高そうですね』

「うむ、立派な芝居小屋でござるが、我等には縁の無い所。それとも、ミウラは芝居好きでござったかな?」

『有料チューブは大好きでしたが、演劇関連は苦手でしたね』


 某も相撲なら是非とも見て見たいが、芝居はどうも。




「この町で商売はどうもいけないようだ」

『ばっちりな気がしますが?』

「商売は一旦打ち切り、冒険者ギルドへ行こう。近くの町へ行く商人の護衛が有ったら引き受けよう。旅の中で頭を冷やしたい」


 どうせ宿への帰り道に冒険者ギルドはあるのだから。



 ギルドの戸をくぐる。

 なにやらカウンターが騒がしい。


「そこを何とかお願いしますよ! 出発は明日なんです!」

「ですから、今日の明日は無理があります。ましてや今は夕方。ご用意頂ける金額もかなり低め。これでは対応できませんと先ほどから申し上げているでしょう!」 


 若い商人ぽい男と、受付嬢が言い争っている現場に遭遇した。


 この商人に見覚えがある。

「ナントカ殿ではござらぬか?」

「ナントルカです! って、イオタさん!」

 グレート・ベアリーンまでの道で知り合った行商人だった。


「おなご相手に声を荒げて、何事でござるか?」

「あああ、イオタ様! 後生ですからお助けください!」


 何事でござろうか?



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