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11.討ち入り でござる


「あ、イオタさん!」

「拙者、イオタなるネコ耳族の侍ではござらぬ。怪傑ネコ頭巾と申す者。そこんところ、勘違いせぬよう!」


 そこにいたのは銀の髪の女子。やや垂れ系の大きな目。肉感的な唇。唇の下にホクロ。

 誰がどう見ても肉体で男を惑わす女。

 愛人さん、もとい、えー、デ、デイトナ殿?


 スベアにいるはずのデイトナだ! 何でここに? 綺麗なおべべ『胸元が大きく開いたロングドレスですね。腰がキュッと締まってて胸とヒップが魅力的に見える』ドレスを羽織って?


「助けてイオタさん!」


 ぐわっし!

 おおおおおお!

 デイトナさんが抱きついてきた。デイトナさんが抱きついてきた!


『今、大事な事なので2回言いましたね?』

 こやつ、やはり某の心の声を……。


「わたし、監禁されているのよ!」


 監禁? 二階だけど逃げようと思えば……ジャラっという音が?

 足に枷が。そこから伸びる鎖。壁に繋がれている。壁にはさんざん蹴り込んだ後があった。


「なんでデイトナ殿が?」


 たしか大陸へ渡りたいと言っていたが、どうしてここで?


「今朝、冒険者ギルドから、バルテオ商会のボディーガードを紹介されたの。バルティオと会うなり、愛人になれって! 拒否したら、即日こんな状態に!」


 あれでござるな。デイトナ殿の愛人スキルは、いろんな人の人生を狂わせるのでござるな。


『旦那、ここで適当な呪文を』

 なにか魔法を使うのだな。心得た!


「仁義礼知忠信考悌!」


 ガチャリ! 足枷は外れた。


「どうやって? 魔法?」

「デイトナ殿、これを」


 それには答えず、脇差しを鞘ごと抜いて渡した。こういうモノは勢いでござる!


「大事な刀故、無くしたりしたら、か、体で払ってもリャうリョ」

 詰まった上に噛んでしまったっ!


『慣れない事をするからです』


「でもどうしてイオタさんがここに?」

「はっはっはっ! どこにイオタなる侍がおるのかな? コホン! バルティオ商会が、幼子を拐かしたのでござるよ。拙者ネコ耳頭巾……とその他一名が乗り込んだところでござる。デイトナ殿は運が良かったでござるな」


「助けてもらったお礼よ。わたしもお手伝いするわ! あの豚面親爺、殺す!」

 夜叉が現れた。


「そ、それは心強い殺意でござる」


 デイトナの腕を引っ張って外へ出る。鍵のかかったドアを蹴り飛ばして。


 廊下は無人だ。この部屋の見張りすらいない。

 戦える男達は全員、庭へ出て行ったようだ。だから素人は!


『コリンナちゃんは突き当たりの階段を下りた一階の、奥の廊下の突き当たりの床に引き上げ式の扉があります。それを引き上げれば地下牢へ降りる階段が現れます』


 ミウラの諜報能力は、影回りを軽く超えるのな!


「よし行くでござる!」

「ちょっと待って!」


 デイトナが言うなり、脇差しを抜き、長いドレスの裾を切った。

 ニュッと飛び出す白い足。


「うおっふ!」

『ぬおっふ! 双方に150のダメージが入った』


 解っておる! 走りやすいように工夫したのだ。某だって同じ事をしただろう。

 でも、デイトナがそれをやると、誘っているとしか思えない!


「い、急ぐでござるよ!」 


 廊下を走り階段を駆け下りる。

 元の体であらば、股間の膨らみが邪魔で走れない所だった。女で良かった!

 家の者は皆外へ出たらしく、人っ子一人見かけない。

 役に立つ事もあるのだな、エランは!


「ミウラ、屋敷に人はいない。二手に分かれよう。人質を救出した頃合いを見計らって、この屋敷を潰せ!」

『証拠隠滅ですね! ガッテン承知の助!』


 ミウラは脇へ飛び、どこへともなく消えた。

 破壊力抜群の魔法を使うミウラであるが、あ奴は人を殺した事が無い。火を使わない方法で屋敷を潰すだろう。


 廊下の突き当たりにでると、ミウラが言った通り、戸が埋め込まれていた。

 丸い鉄の輪が取っ手となっている。

 取っ手を手に、力一杯引き上げると、下へ続く階段が現れた。


 デイトナ殿と目を合わせ、互いに頷いた。

 足音を忍ばせて降りていく。

 声が聞こえる。


「ピー! だれか助けてだっピー!」


 いきなり救出意欲が挫けた。


 地下には通路を挟んで左右に牢が。

 片側の牢から黄色い毛玉が引きずり出され、今から斬られようとしていた。


「このー!」

 やけくそで斬り付けた。

 いや、ウラッコじゃないよ。斬り付けたのは、鳥頭を斬ろうとしてた誘拐犯の一味だ。


「助かったピー! 助かったピー!」


 膝立ちですがりついてくるウラッコの顔面に、膝を軽く合わせてのけぞらせておく。


「イオタさん、この子じゃないの?」

「ネコ頭巾な!」


 反対側の牢に、ネコ耳カチューシャを付けた幼子が蹲って泣いていた。


「コリンナちゃん! ネコ頭巾が来たからにはもう大丈夫でござるよ!」

「あ! イオタしゃん!」

「イ、イオタではござらぬ! あくまでも謎の人物、怪傑ネコ頭巾でござるよ!」


「ここに鍵が!」

 デイトナが、壁に掛けられた鍵の束を持ってきた。 


「えーっと……」


 一つ目の鍵で牢が開いた。 


「イオタしゃーん!」

 コリンナが抱きついてきた。元気そうで何より。


「いやいや、拙者はネコ頭巾な! お母さんにもそのように言うでござるよ」


 コリンナを小脇に抱え、牢を飛び出した。

 そこでばったりとミウラに出くわした。


『おっと旦那! 仕掛けは終わりました。この家の柱という柱をぜんぶへし折ってきました。もうすぐ爆発します』

「どれくらいで潰れるので……、今爆発すると言わなかったか?」


『ええ、爆発です。証拠を隠滅するには跡形もなく木っ端微塵に完膚無きまでに無慈悲なまでな共産独裁者的に吹き飛ばさなきゃ。おっと、後どれくらいって話しでしたよね。ちょうど50数え終わった頃ですかねぇ。49、48……』


「デイトナ殿! 走れー!」

「え? なんで?」


 ここから一番近い出口、玄関に向けて走る!


「ちょっと待ってほしいっピー!」


 黄色い塊などここにはおらぬ! 我が身可愛やほやれほう!

 一目散に外へと走る。


 玄関を飛び出すと、エランが太ったオヤジの胸倉を掴んでいた。


「丁度いい所にネコ耳! こいつが諸悪の根源バルティオだ」

「ひぃー! お助けを!」


「エラン! 逃げるでござるーっ!」

「何を言って――」


「エラン? 面影が! エランお兄様?」

 お兄様? エランが?


 え? 生き別れになった妹ってデイトナ?

 エランは首を直角に曲げた。


「ま、ま、まさか? デイトナ? デイトナか?」

 まん丸に目を見開くエラン。


 こいつ、こういう顔も出来るんだ。


「やっぱり、お兄様!」

「デイトナ! 生きていたのか!」


 バルディオを放り出し、がっしりと抱き合う二人。

 なんとなく声を掛けられない某。

 何か大事な事を忘れているような気が……


『旦那、あと10,9,8……』


「この屋敷は今から爆発するニャッ! 死にたくなかったら走ニャー!」


 某の鬼気迫る様相に事の次第を理解したか、エランも腕を大きく振って駆けだした。


『2,1,0』

 背中を固い壁に押された? これが爆発か?


 世界が二回回ってから地面がこちらに近づいてきた。いや、某が空を飛んだのだ。

 コリンナちゃんを内側に抱えなおす。刀は邪魔だったので仕方なく手放した。

 なんとか背中から落ちる事が出来た。ネコの身体能力侮りがたし!

 そのまま、コリンナちゃんを抱えて丸くなる。 


 パラパラと小粒の破片が降ってきた。

 ザクッと音を立て、デイトナに渡しておいた抜き身の脇差しが降ってきた。あぶねぇー!


 月明かりの元、……まあ、見事に家が……土台と短い柱が三本だけに……。南無阿弥陀仏。


「みんな! 無事でござるか?」

「ぶ、無事だっピ」

 某の下からウラッコの声がした。どおりで、柔らかい物の上に落ちたと思っていたのだ。


「また派手にやらかしてくれたな! ネコ耳! 今のが一番痛かったぞ!」


 ちっ! 無事だったかエラン。


「警告してやっただけでも有り難く思え! エラン!」


 眉間に皺を寄せて睨んでくるエラン。負けじとにらみ返してやる!

 額から血が流れている。ザマア!


「噂に違わず荒っぽい事を」


「おまえらぁっ! 動くなぁーっ!」

 何事?


「デイトナッ!」


 デブい親爺……、もといバルディオがデイトナの腕を逆関節に取っていた。彼女の首には某の太刀が当てられている。


「動くとこいつを殺すぞ! はははっ!」


 目が血走っている。狂気の沙汰に踏み込んだか!


「この女はお前の妹らしいな! 殺されたくなかった動くんじゃねぇ!」


 横目でエランを見る。

 駄目だ。我を忘れている。

 武士たる者、手足を切られ腸を裂かれようと首を切られるまで冷静であらねばならぬのに!

 こんな時、頼りになるのはミウラ。


 ……だめだ。庭木に突っ込んで尻と尻尾だけを出している。


 ウラッコ……は論外、と。



 さて、……誰か助けて!




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