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間話:帝都グレート・ベアリーンへの道すがら


 グレイハルトの港町で小銭を稼いだ某は、懐にミウラを放り込んだいつもの旅姿で、ゲルム帝国帝都グレート・ベアリーンへ旅を続けていた。


『下乳の揺れ感覚が耳を優しく撫でるように何ともカンとも』


 このミウラというネコは、鉄火場で狼狽えない。戦人でもないのに不思議な話だ。

「未来は殺伐とした世界なのかな?」


 ミウラは小首をかしげた。

『ああ! 斬った張ったの件ですね。経験はありませんが、FPSやTPSなんかで慣れてるんです。あと、ネコになったから、という事もあるかもしれませんね』


 慣れているとな?

 エフなんとかとか、テーなんとかいうのが何か解らぬが。


「ミウラの生きていた未来の戦とは?」

『そうですね……』


 いつになく真面目な顔(ネコだから表情はさほど変わらないが、雰囲気だ雰囲気)になるミウラ。


『大政奉還から第二次世界大戦へ。昭和、それは地獄と天国を見た時代』

 いつものミウラらしくないな。構えで言うと下段だ。


『世界中を敵に回して戦っていた時代もありました。お馬鹿な指導者もいたものです。お馬鹿なマスコミもいました。被害者はいつの時代も市井の人々。攻撃する国も攻撃される国もです』


 守るべき町民や農民を巻き込んだ戦いとな? 軍勢を率いる者どもは馬鹿なのか?


『日本は世界大戦を2つ、局地戦を2つくぐり抜け、最後は国土を焼かれました』

 いい加減になされよ日本国。


 はっ!

 まさか! ミウラが見慣れた景色とは!?


 日本が滅亡? 帝は? 某の伊尾田家は!?


『今は平和を享受し、歴史上最高の繁栄を謳歌しています』


 よく生き残れたな、日本!

 てか、どうやって?


『刀や槍を使う戦いは、達人キートンを除いてほぼ皆無。兵器の主力は鉄砲や大砲に移り変わっております』

「それは拙者が生きておった頃よりであるが?」


『その頃とは武器の性能に天と地の差がございます。一回引き金を引くだけで何十発も発射される銃。雨の中でも使える火薬。隣どころか世界の裏側まで飛んでいく火薬入り大砲、等々!』


 ありえる。蘭学の先生から聞いた事がある。

 巨人化する薬とか、動く青銅製の仁王像とか!


『例えば高性能の火薬を使った爆弾。城壁なんか一発で吹き飛びますよ。直接天守閣を狙えますしね』

「だとすると、確かに刀は古い物となったであるな?」


 ポンポンと腰の物を叩いてみる。この重さ、存在感が安心と興奮を与えてくれるのだが。


『これは話して良いものかどうか……。わたしが生きた時代、最強の爆弾が存在しています。それは狂気の兵器、悪魔の爆弾、等と呼ばれておる物騒なものです。大量に使えば地球、全ての地面を破壊すると提唱する学者もいます』


 なっ! 人はどこまで凶悪になれるのだ? 公方様のお膝元でそんな物作れば、直ちにしょっ引かれるぞ!

 間違いなく小塚原でさらし首だ。


『実際に使われた国では、6つの町が消えました。

 半径500mえーと、275間は一瞬で壊滅。光になったのです。人は即死ですよ。

 キノコ雲、えーと、爆煙の高さは確か16㎞、えーと、ざっと4里の高さまで昇ったって話しです。

 その爆弾の威力は、半径3㎞、えーと、一里の4分の3が全壊。半径5㎞、えーと1里と5分の1ほどが半壊する威力。

 4ヶ月以内に9万人から12万人が直接間接的に死亡しました。

 破壊力はさることながら、放射能……えーと、毒の一種ですかね? 後遺症が残る毒を振りまくんです。

 爆弾の後遺症に苦しんだ人達は何万何十万人にも上ります。

 あまり酷いんで、わたしはおざなりな調べ方しかしてませんけどね』


 なんという……地獄の扉を開ける鍵のような爆弾であるな。

 四百年後の未来。人は人で無くなっていくのか?


『こいつは、まさに最終兵器でして。……それを使ったら世界が終わるっていうか、使う国は外道鬼畜とかと言われ、現在は各国相互監視の下、封印されています』


 封印された爆薬であるか……。


「そんなの喰らった国は滅ぶな! 日本でなくてよかった!」

『え? 喰らったのって日本ですよ』

「……え?」


『だから、世界で唯一喰らった初めての国が日本ですって!』

「なんと! それを日本が一発喰らったと申すか?」


『いえ、2発です』

「二……。よく……生き残れたな」


『今は年老いた諸先輩方が頑張ってくれたからですよ。現在の日本は、逆に戦前より豊かな国となりました』

「そうか。日本は死なぬ国であるな」


『死なぬ国かは置いといて、伊達に何千年も歴史を積み重ねてはいませんて。……旦那も積み重ねてきたお一人です。……わたしは何も積み重ねる事なくあの世界から離脱してしまいましたけどね……』


 最後は自嘲気味となるミウラ。この子は、生きていた時代で何をなさんとしていたのであろうか?

 某も何かを成したという気はせぬが。


「この世界で歴史を積み重ねれば良いではないか?」


 ミウラは押し黙った。

 右を見て一旦停止。左を見て一旦停止。某の下乳にスリスリして、一息。

 どうやら恥ずかしがっていた模様。



 会話が途切れてしまった。とても気まずい。

 話を変えよう


「スベアからグレイハルトまで使った船であるが、大きかったな!」

『そうですかねぇ? あの時話した全長263m、えーと、145間弱の戦艦の話をしましょうか?』


 前も聞いたが、先ほどと違って今回はマタマタァ! の話しでござるな。

 確か千石船で16間程だから、約9倍?

 こんな化け物みたいな船、港に入らぬわ。はい論破ーっ!


『最高速度が27ノットですから、えーと時速に換算して、時速50㎞だから、……一時で25里チョイの速さで海を進む事が出来ます』

「ほうほう、馬の早駆け並みの速さだな」


 かような速さで進む船があれば、日本はさぞや栄えた事であろうな!

 南蛮列強国を押しのけ、世界一の領土を持つ大国となっているはずだ!


『満載時で72,8000トンだから、えーと、1,940万貫?』


 うん、沈むな。確実に沈む重さだ。ミウラは夢があって良いのだが、これには致命的な欠点がある。


「そうそう、確か鉄で作られてる船だったな」


 鉄が浮くとはこれいかに!


『そのとおりです。ちなみに横っ腹の装甲厚は41センチですから、えーと、13寸ちょい? 不沈戦艦とか、海に浮かぶ城とか呼ばれていた時期もありました』


「それだけ分厚い鎧を纏っておったら、敵の爆弾や大砲では傷一つつかぬであろう? それこそ不沈戦艦であるな。まさか最初から沈んでおるとか言い出すのではあるまいな?」

『イオタの旦那、鉄製のお釜は水に浮くんですよ。ご存じだと思いますが?』

「む? そう言えばそうだな? あれ?」

『鉄の船はその理屈で浮いています。それなりの強度が必要ですが、年月がその問題を解決しました。何も不思議ではございません』


 そう言われれば不思議でも何でもないな……。

 あれ? 妙に説得力がある?

 むぅ! ミウラの博識ぶり、彼女の生きていた時代の進化した文明。

 鉄の船が浮かぶ。あり得るのか?


『日本は大戦艦を2隻所有していました。3隻目は戦艦とは違う船として誕生しましたが』


 詳しい。

 微に入り細に入り、架空の話しにしてはできすぎている!

 ここまで詳しく設定を練る事は、さすがのミウラにも出来まい。

 本当にあったのか? その大戦艦が!

 日本は、そのような大戦艦を作るまでに発展するのか!?

 凄いぞ、日本!


『でも、沈まぬ船など有りません』

「え? 城のような船が沈むの?」


『先の大爆弾が落とされた大戦において、敵の攻撃を受け大破、爆発沈没しました』

「ど、どのような戦いで? 敵の攻撃は?」

 十三寸の鉄に覆われた船が沈む訳無かろう?


『敵は飛行機。鳥のような姿をした空飛ぶ戦闘機です。もちろん、日本軍も所持しておりましたが』


 なんと! 空を飛ぶ絡繰りとな! 

 それも戦に使う武器として! せっかく空を飛ぶのに!


『大戦艦は、魚雷……海中を進む火薬内臓の大砲的な? を13本から14本。空から落とされた爆弾を5発。一説によると、魚雷が30本。爆弾が38発だったりしますが、そんなけの攻撃を受けて、ボイラー室が大爆発。乗組員3,300と共に、海に沈みました。生き残った者は僅か』  

「なんと! 壮絶な!」


『時代の主力は海から空に移っていたんですねぇ……。こうして大戦艦は海の底で長くの眠りについたのです。そして時代は平成へ……』


 栄枯盛衰と一言で言えば簡単だが、憐れである。

 日本の民として、なんだか悔しいでござる!

 大戦艦が惨めでござる!


『時代は移りまして……』


 この話しには続きがあるのか?


『この大戦艦は、秘密裏に後の政府が確保。全長を333m、えー、183間に大幅強化改修され、宇宙戦艦として蘇ります。それに伴い、対空装備も完璧な物となりました!』


 内勇(うちゆう)戦艦として蘇ったのか! 大戦艦! 良かったな、大戦艦!

 内勇戦艦の「内勇」がなんだか解らぬが、さすが日本! 廃物利用はお手の物! こう言う事は得意でござるな!


『全く新しい理論による桁外れな大出力機関を得て、ついに空を飛ぶ事に成功! もう戦闘機など怖くはありません!』

「まさに不沈戦艦であるな! なんだかワクワクしてきたぞ!」


『大艦巨砲の復活です!』

「意味は解らんが、響きからして男心をくすぐるのな!」


『男の船でございますなぁ』

「さすがミウラ! 博士でござる!」


『いやぁ、それほどでも!』



 こうして、グレート・ベアリーンへの道は楽しいものとなったのであった。

 



ミウラは、令和になる前に異世界転生しました。

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