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1.セイレーンは歌うよ でござる

新章スタートです


 さて船に乗って二日目。明日朝には、ゲルム帝国の港町、グレイハルトに到着する。

 順調に航海がすすめばであるが……。


 すすまなかったでござる!


「だめだっ! 舵がきかねぇ!」

「このままだと岩礁にぶつかるぞ!」

 絶賛、渦に巻き込まれ中でござる。

 

 順調に航海中だった頃、一天にわかに掻き曇り、強風吹き荒れ波高く、海は荒れ、船に打ち付ける波が白く砕け散る。

 海は渦を巻き、何と言うことか、親の因果が子に報いたか? 船が岩礁へ引き寄せられていく!

 このままだと、船は岩礁に激突して沈没するでござる!


 どうしてこうなった!?


 船が引き寄せられる先、岩礁海域の真ん中で魔獣が三匹、座っておる。

 上半身は見目麗しき女性。ただし下半身は魚でござる。

 噂に聞く人魚?


「美女とは申せ下半身が魚というのは……さすがの拙者も……需要があるでござるか?」

『確かに。ポムンとマルコさんがセットになって初めての魅力。……卵を体外に放出してから子種を撒けってか? 男女の自家発電の見せ合い? どんなけニッチな産業だよ!』


「いやまて! 拙者の知り合いの絵師に、そういった隙間産業でのみ発憤する男がいた!」

『有名な浮世絵師じゃないでしょうね? やめてくださいよ!』


「べつにそんな話をしたかったワケでは……それより、問題はあやつらだ」

『こんな馬鹿話をしている暇はありませんね!』


 話し戻して、噂に聞く人魚!

 そして聞こえる美しき音曲。


『イオタの旦那、あれはセイレーンです。船乗りを美しい声で誘い、難破させるという。「海流操作」の魔法で船を誘い、岩礁地帯へおびき寄せ難破させるのが家業という難儀な魔物です。ちなみに遭難者は頭から食われます』


 相変わらずミウラは博識である!


「対抗策はござらぬか?」

『さすがに、そこまでは。ここからですと魔素を乱す魔法も届きませんし。それに関係性が少ないと思って、海の魔物をあまり研究してませんでした!』


 ここでミウラの不覚を責めても詮無き事!


「大型の魔法を一発撃ち込んだらどうか?」

『わたしの得意は火魔法と土魔法。火魔法は海の上だと-5のペナルティが付いて「効果は弱かった」判定となります。土魔法は、そもそも材料の土がありません。これから重力魔法の研究を始めます!』


「出来る事を考えようか?」

『この船を木っ端微塵にする事なら』

「却下する!」


 万能だと思っていたミウラにも弱点はあったか。

 万事休す!



「歌だ!」

 いつの間にか隣に船長が立っていた。


「セイレーンの歌声に対抗するには、より美しい歌を、それも珍しい歌をぶつけるしかない!」

 さすが海の男! 海の魔物対策はバッチリだ!


「セイレーンは高慢ちきだ! 自分の声が世界最高だと思っている。それをぶち破るだけの歌を聴かせると、恥じ入って逃げるという! 俺のじっちゃんが酔うとよく言ってた」

 いまいち、情報発信元が頼りないでござる。


『俺の歌を聴けー! ですね!』

 ミウラは鼻の穴を膨らまし、自棄(やけ)に興奮している。昔、歌で何かあったか?


『山をも動かす歌エネルギー! ロッケンロールスピリチュアル! ヘヴィーメタルッ!』


 ミウラの知識が火を噴いている。ミウラが生きた未来の世界では、歌を何らかの兵器として活用していたのかも知れない。ミウラの生きていた時代は何をしでかすかわからんからな!


「歌と言えば僕だっピ!」

 勢いよく船の手すりに飛び乗るトリ羽族のウラッコ。丸い体型が頼もしい、か?


「ただし、歌い手は女性に限る! セイレーンは男が歌うと何故か逆ギレするんだ!」

「引きづり降ろすでござる!」

「な、何をするっピ! 僕に歌わせるっピ! 痛いっピ!」


 問答無用で引きずり下ろされるウラッコ。どさまぎで二・三発入れられている。

 あはれ!


「となると、歌い手が女性に限られる訳でござるが……。この船の何処かに女性はおられぬでござるか?」


 乗組員、および乗客の目が、ゆっくりと某に集中する。

 ……。

 あっ!


「拙者、おなごでござった!」


『旦那、失礼ですが……歌えますか?』

 確かに失礼でござる!


「何を言うか! 拙者、こう見えて幼き頃より母上に厳しく教育されていたでござる。歌は基本中の基本でござるよ! まあ、大船に乗ったつもりで任せておくでござる!」


 大見得を切った。

 某の母は、傍流のさらに傍流でござるが松平家の出でござるよ!

 歌など幼少の頃より、それはもう思い出したくなくなるほど仕込まれたでござる!


「では一発。祖国の歌を一献献上つかまつる! コホン!」

「それは頼もしい!」

「ネコ耳族の歌か? これは珍しい! 期待が持てるぞ!」


 船員達から、キラキラした目で見られている。

 欄干にひょいと飛び乗る。


「おおー!」

 沸き上がる歓声。


 この身軽さ。ネコ耳族の面目躍如でござる!


「いざ!」

 手にした扇子を広げ、ピンと手を伸ばす。


『その扇子、どこから出しました?』

 ミウラが何か言ってるが無視する。ここからは精神を集中させねばならぬからな!


 セイレーン三匹が挑発的な目でこちらを見ておるわ!

 よし! 舞台は整った!

 胸を張り、呼吸を整える。

 息を呑む人達が、某を希望の光と讃えておる。

 朗々と詠おうぞ!  


「色見えでー  移ろふものはー  世の中のー 人の心の 花にぞありけるー」

『訳:(草木や花であるなら、色褪せてゆく様が目で追えるけど)外見には見えず色褪せてしまうものは、人の心に咲く花であったものよ』


 静まりかえる船の上。

 静まりかえる海の上。

 静まりかえる岩礁の上。


「ふふふ、どうやら某の和歌(うた)に驚いて、声も出せぬようでござるな!」

「いや、今の歌じゃねぇし!」

『歌ったって和歌じゃないですか!』


「何を申すか! 六歌仙の一人にして絶世の美女、小野小町の恋歌でござるぞ!」


 騒然となる船の上!


「うるせー! もう駄目だ! お前のせいで船が沈む!」

「なにが大船だよ! 泥舟じゃねーか!」

『勘違いも甚だしいわ!』


 殺気だった男共が迫ってくる! ミウラ、おまえまでっ!


「いやまて! セイレーンが!」


 胸ぐら掴まれて海に突き落とされそうになっていたら、船長が海の向こうを指さしていた。

 岩礁の上で――

 セイレーン達が――


「今のは歌かどうかで審議しているッ!」


 三匹のセイレーンが額を付き合わせ、身振り手振りを交えながら白熱した議論を繰り広げていた。


「あ! セイレーンが歌うのを止めているぞ!」

「海をみろ! 凪いでる!」

「今だ! 逃げろ!」

「取り舵いっぱーい! 両舷全速! エネルギーボルトを使え! 焼き切れてもかまわん!」


 魔法によるよく分からん絡繰りを使い、船は魔の海域より脱出した。

 こうして、危うく難を逃れたのであった。


『いやー、旦那と一緒にいると災難に不足しませんね。ホント』





 翌日には無事、グレイハルトの港に到着した。遅れ無しってどうよ?


「おい、ネコ耳の娘! 礼を言うぞ」

 わざわざ船長が見送りに出てきてくれていた。


「礼は良い。それより、この町でお勧めの宿屋を教えてくれぬか? 多少ボロくともかまわぬ。ネコ耳族にも優しい店が良い」

「なら『屋根の上のカモメ亭』に泊まるのがいいだろう。ショーン船長の紹介だと言えば、少し位安くしてくれる場合が、もしかしたらあるかも知れないぞ。知らんけど」


 頼りになる船長である!




 さあ、新しい土地で新しい冒険が始まった!


『もう既に冒険は一つクリアしましたけどね』

 



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