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25.突入! でござる

「囲まれたぁー! どうすればぁ!」


 ヘイモが平常心を失っている。指揮が出来ない。

 他の者どもも浮き足だっておるわ!

 クソっ! 某が前に出る!


「柔らかい後ろを食われる訳にはいかんニャッ!」


 最後尾は坊主と魔法使い。防具の類いを身につけていない。


「このまま前へ出るニャッ! 走れ!」


 一斉に立ち上がり、藪から飛び出す。ミウラが首に抱きついてきた。

 みんな付いてきてるだろうな!?

 目の前にトロールが一匹。リュックを外して顔に向け投げつける。

 敵の目を塞いで抜刀!


「ギャーッ!」

 ふくらはぎに切りつけて駆け抜ける!


 視界の端に全員がついてきてる姿を捉えた。


「死にたくなければ走り続けろ! 一つの敵に全員が一太刀ずつ浴びせていくニャッ!」


 二匹目。ミウラの首根っこを摘んでトロールの目の前にヒョイと差し出す。


『にゃー』


 美味しそうに見えたのであろう。ネコに目を奪われる金髪のカツラを被ったトロール。

 ミウラを山なりに放り投げる。


『ミギャー!』


 目で追うトロール。その股を滑ってくぐり抜けながら斬る。

「アーッ!」

『おおぅ! どこかの玉が二つ、中空に!』


 続く者達も次々と刀を当てていく。


「とどめは刺さなくて良い! まず戦う力を奪え!」


 ミウラを受け取り、下へ降ろす。


「走れミウラ!」

『ガッテン!』


 トロールが迫る。一瞬だけ「加速」を使い、攻撃を躱す。懐に飛び込み柔らかい場所を斬る。

 後ろに続く連中が二の太刀、三の太刀を浴びせて戦う力を奪っていく。

 どうやら要領を掴んだようだ。

 これを幾度となく繰り返し、そびえる崖まで走り抜けた。


「魔法使いと坊主を囲んで陣を張れニャッ!」


 アウボが前面中央に盾を構え、城壁と化す。両翼を某とヘイモとデイトナが陣取り、刀を突き出して威嚇する。


 トロールの動きが止まった。遠巻きで攻撃の切っ掛けを計っている。

 頭の悪いトロールも、容易に近づくと怪我をすることが理解できたようだ。


「どうする? ヘイモ殿。さほど時間は稼げぬぞ!」

「こ、このまま近寄ってくる敵を倒していく!」


「残念だが、籠城戦は無理だ。トロールの体当たり一つで陣は粉砕される」

「じゃあどうすれば?」

「守れぬなら攻めるしかあるまい。死中に活有り!」


 戦況を確認。右より左のトロールが少ない。


「左に魔法と矢を放て! 怯んだらそこへ撃って出る!」


「やってやるぜ!」

 弓を構えたエサが矢を放つ。


「エルメキアランス!」

 ヨーナが魔法の槍? を投げる。


 魔法は一発しか撃てないかったが、エサは矢を三連射していた。

 トロールは充分怯んでいる。


「今だ! 血路を切り開け!」 


 某が先頭で飛び出した。

 丸太を大きく振りかぶるトロール。遅い! 隙だらけ!


「アーッ!」

 股ぐらを切りつける。


『去勢のスキルポイントがどんどん溜まっていく!』


 さっきの繰り返し。某が手を付けた一匹の敵に全員で斬りかかる。

 右にいたトロール達が追いかけてきた。

 頭数分切りつけて走り抜け、行き止まりでまた陣を張る。

 ヘイモ達は、何も言わなくとも陣を張った。こうまですれば、ヘイモ達も戦い方を憶えたようだ。


 だとすると、次の手順も理解しているだろう。


「矢と魔法――放て!」


 追いかけてきたトロールの先頭……シルクハットを被ったトロールに、矢と魔法が集まった。


「ブキーッ!」

 賑やかな悲鳴を上げ、ドウと倒れるトロール。


『ああっ! パパが!』

「左から削っていくニャッ! 出るぞ!」

 

 突撃を繰り返すこと……回数は憶えていない。それだけ必死だった。




 気がついたら、トロール達は血の海で藻掻いていた。




 前掛けを付けたトロールが倒れている。

 胸の下から赤い血が広がっていく。虫の息だ。それでも必死に手を伸ばしている。

 伸ばした手の先には……。

 シルクハットを被ったトロールが、苦悶の表情を浮かべながら、それでも歯を食いしばって這いずっている。

 首から間欠的に血を噴き出していた。人ならとっくに死んでいるだろう。生命力の強いトロールだから生きていられるのだ。

 それもあと僅かの時間だけ。

 もうこれ以上進めない。手を一杯一杯まで伸ばす。

 あと僅かでお互いの指先が……


「とどめ!」


 ヘイモがシルクハットの心臓に剣を突き立てた。

 一層苦悶の表情を浮かべ、そして息絶えた。

 エプロントロールも、腕から力を無くし、穏やかに息絶えていく……。




『いろんな意味ですさまじい戦いでした』

 もうね、体力の限界! ミウラの意味深な台詞にかまっている気力は残ってない。


 ミウラもこっそり魔法を撃っていた。おかげで三回は命拾いできた。

 ヨーナは魔力を全部使ったらしい。座り込んで動かない。

 エサも矢を使い切った。途中から石を投げ出し、短刀で戦っていた。


「はぁっ はぁっ あはぁっ!」

 ……デイトナ殿の吐息でござる。

 一呼吸事に体力を回復していくヘイモ達。……と、某。


 ヘイモもアウボも手傷を負っている。深くはないが辛そうだ。

 イサクが加持祈祷で怪我を治している!?

 イセカイも江戸と同じ方法で怪我を治すのな!


『魔法が使える世界ですから、怪我や病気を治す魔法もハードルが低い、もとい……造作も無いんですよ。ちなみに、魔法治療が発達している世界で医学は発展しません。江戸の方が高水準の医療技術を持ってます』


 そんなものであるのか?

 イセカイとは、以下略。


 息を整えながらヘイモがそばに寄ってきた。目がキラキラしている。

「イオタさん、凄く強いじゃないですか! びっくりしました!」

 

 某も片膝を突いたまま荒い息をついている。声を出すのも、手を動かすのも辛いので、尻尾をパタパタ振って「それほどでもない」と意思表示しておいた。

 シッポ、便利なのな!


「とどめは全て刺しておきました。全部で26匹ですよ! 俺たちの人数やレベルからしたら、奇跡の勝利ですよ!」


 そうか、そりゃ良かったな。


「討伐の証拠は俺たちが集めます。イオタさんはそこで休んでてください」 


 討伐の証拠とは、魔物の左耳を削いで持ち帰ることらしい。

 ずいぶん残酷なのな、イセカイとは。


『旦那らも首を狩っていたじゃないですか。野蛮な行為に比べれば可愛いもんですよ』

「あのなあ、ちょっと小一時間もらうぞ! 首は首級、おしるしとも言ってだな、首実検する時はちゃんと寺を借りるし、首実検側も首に対し正装で礼儀正しく対面するし、対象首にはお供えだってするし、首が腐らないよう塩漬けにして専用の首桶に入れて、これの何処が――」


 某は気づいた。

 今回の仕事(クエスト)に矛盾があることを。  



次話「凱旋」

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