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23.イセカイの森は事件で溢れている のでござる


 スベアの町東側に見える治道山 『オサミツ山です!』 を中心に、その北側と、中央である西側、そして南側を三つの(チーム)が各々捜査する。

 某と「赤い鎌とハンマー」、デイトナのチームは、西側、つまり中央を担当する。


 町を出て歩く事、約一時も周囲の景色はは森へと変化した。

 日本の国だと、森は山にある。イセカイの森は平地に存在する。鎮守の森が盛大に大きくなった。そのような……もっと規模が大きいか?

 イセカイは摩訶不思議な所でござる。


 赤いトンカチとハンマーの……赤い鍬と鎌だったっけ? 少年共は下心の泉から湧き出る親切心により、やれ荷物を持とうかとか、やれ喉が渇かないか、とか聞いてくる。

 連中、それとなく、そして自然を装ってるが、女子には丸わかりである。

 ……以前の某も、こんな風に気色悪かったのであろう。彼らを見ていて恥ずかしくなった。


 イセカイの森は地面が複雑に隆起している。某の足は、そこをヒョイヒョイと身軽に歩ける。ミウラが言う所の、ネコ耳族の能力だそうだ。有り難い事である。前世の体だと体力がもたなかっただろう。

 足の肉球も一助となっているが、とくに長靴の性能が良い!

 草鞋だったら、出っ張りに蹴躓いて、足指の一本や二本は痛めていたはずだ。

『靴底が固いので、尖った石を踏んづけても何ともないぜ!』

 それも体力の消耗を押さえられた一因であろう。足元を固めるのは大事である!


 直に昼がきた。さて昼飯である。

 昼飯は各々が手持ちの保存食だ。某はお握りと黄色い沢庵と言いたいところだが、ここはイセカイ。酸味の利いたライ麦パンである。

 なるべく重いのを選んだら堅かった。歯ごたえがあって美味しい。唾を全部持って行かれるのが難点だが、水筒の水を口に含めば大丈夫だ。


 鎌のメンバーとデイトナも同じくライ麦パンであるが、水で喉に流し込んでいるように見える。こんなに美味しいのに、味合わなきゃ損だぞ!

 飯時に某の横の場所を巡って小競り合いがあったが、なんとも気色悪いものであった。


「色気過剰のデイトナがおるというのに」

『あの年齢の少年にとっては過剰すぎて恐怖を感じるんでしょうね』


 そんなものであるか? 某ならがっつり食いつくがな?


 結局、某の両隣はヘイモとデイトナとなった。


『そこを楽しまなきゃTS転生したかいがありませんよ! 襲われたって連中のしょぼい腕じゃ逆襲できますし、万が一の事があった時のためのスキル「避妊」と「性病無効」ですしね!』


「デイトナ殿、ミウラを抱いてみるか? 好きなだけカイグリカイグリしてよろしいでござるよ」

「ええっ! 良いのですか?」

『ちょっ! 旦那! ちょっ! 謝りますから! うぎゃっ! この女、力任せに――いたたたた!』


 ミウラ良いな。美人に可愛がって貰えて。……戦士を名乗るだけあって握力半端ないようだが……。


 ふと気がつくと、ヘイモがキラキラした目で某を見つめておる。


「イオタさん! 70人斬りの話聞かせてください!」

「十人ニャ……、十人でござる!」


 いかん、噂に尾ひれどころか、足まで生えてきたぞ!


「そんなけも斬ったら刀がボロボロになるでござろう? これから、誰かと話しする時は人数の訂正をしておくでござるよ!」

「はーい!」


 解っているのか解ってないのか? ニコニコ顔の赤いカマの小僧共め!



 昼飯を片付け、暫し歩くと――。

 某の鼻が反応した。


「む?」

『この臭いは……温泉ですね』


 道を逸れ、岩場を過ぎると湯気が見えた。

 良い案配に湯が岩場に溜まっている。


『危険なガスの臭いは無し、と。単純な硫黄泉のようです』

「うぃーっ! 湯加減も熱からずぬるからず」

『何やってんですか! 旦那!』

「何って、温泉だから湯治かな? 肩まで浸からないと風邪をひくぞ」

『いきなり服脱いで素っ裸になって湯に浸かりますか?!』

「温泉に来て入浴しない馬鹿がいるか?」

『覗きをする馬鹿ならここに大勢おりますが?』


 見ると、ヘイモ達と目が合った。慌ててそらしていたが。

 いかん! 某、女の体になっておったわ! 不覚!


「イオタちゃん、身を挺してわたしからガキ共の目を反らすなんて!」

「デイトナ殿?」

 デイトナ殿よりの信用が上がったので良しとしよう。


 

 もといして、

『全然もといになってませんが? ガキ共の脳裏に一生物として残っておりますが?』


 もといして歩く事暫し。

 日が西の空に掛かるようになって、開けた場所に出た。側に泉がある。


『冷泉ですからね。素っ裸になって飛び込まないでくださいよ』


 ネコはしつこい。三代先まで祟るとはよく言ったものだ。……もしくは三までしか数を数えられないとか?


 さて、ここを今日の野営地とした。今夜は野宿である。

 季節は夏。北の地であるが、夜も寒くない。毛織物の掛け物が一枚あればぐっすり眠れる。


「イオタさんは凄腕なのに冒険者初心者なんですよね? 疲れが溜まらないようにする寝方は知ってますか?」


 グイグイ来るな。今回は最年少のイサク。かわいい系の男の子であるが……その笑顔、某には利かぬ。底が読める故、むしろイラっとくる。殴りたい。

 しかしそこは大人として、組織の連携の為、グッとこらえる。


「大丈夫でござるよ! 少し前まで若い行商人と二人で旅をしていたでござる。その者に野宿の方法を教わったでござるよ!」


 ごくりと唾を呑む音があちこちから聞こえてきた。

 ……あ、そうか、男と二人旅って言ったのも同然だからな。


『そう、それがチェリーボーイを手玉にとると言う事だ』


 

 晩飯も赤い鎌とハンマーの連中が用意してくれた。某とデイトナ殿は座って休憩。上げ膳据え膳でござる。

 女子っていいなー。楽できるのなー。

 と思っていたら、日が暮れるのと同時刻。ガキ共の目がランランと輝きだした。

 夜行性か? こやつら!


『こういう時は、今夜の寝ずの番を決めましょう。旦那が率先して一番最初を譲ると言ってみてください』


 なるほど、その手があったか。一番最初が一番楽だ。優しい男を全面に打ちだしている男共のとる行動は一つ!


「寝ずの番は俺たち男に全て任せてくれ!」

 ほーら!


 翌朝。起き出したのは東の空が白み始める頃。

 鎌のチェリーボーイとやらは、互いが互いを監視し合って、某と愛人殿、ではなくてデイトナ殿に指一本触れられずにいた。牽制しあって、近づく事さえできなかった。

 例え近づいたとしても、某の耳はそれを捉えるであろう。寝ていてもだ!

 ネコ耳族万歳!


 据え膳上げ膳の朝食をとった後、我等一行は野営地を出立した。


「イオタちゃんと組んでれば、楽できるわね!」


 いやそれは、八割方デイトナ殿のおかげだと思います。

 しかし、喜んで頂けるなら、某の手柄にしても良いと思う今日この頃、皆様は如何お過ごしでしょうか? 某は無駄に元気です。


「ちなみに、デイトナ殿はナゼ冒険者などに?」

『愛人としてのレベルはSSクラスのはずですのにね?』


 デイトナ殿は幾ばくか言い及んでいた。

 やがておもむろに口を開く。


「お金を貯めて、大陸へ移るの」

「それは偶然でござる! 拙者もこの戦いが終われば大陸へ移動するんだ、でござる」

『旦那、江戸時代の人なのに何でフラグの立て方を知ってるんですか?』


 フラグとは何でござるかな?


「いいわね、わたしもいつか……」

 空を見上げるデイトナ殿。

 それっきり話は終わってしまったでござる。 




 本日はいよいよクエストの本番日。ゴブリン集落の調査である。


「ではこれよりフォーメーションを組み替えます」

 リーダー役ヘイモが取り仕切る。


「斥候役として、エサとイオタさんに前へ出て頂きます。大丈夫ですね? イオタさん」


 某、腐ってもネコ耳族。人の耳より遠くから音を拾える。加えて、鼻もよく利くし風の向きにも敏感だ。これらは本職のネコであるミウラも然り。

 慣れない仕事であるが、判断は本職のレンジャーであるエサ殿にお任せしよう。某は異変を伝えるのみである。  


「拙者とミウラの耳が、微力ながら役立てば良いのでござるが」

「イオタさんは奥ゆかしいなぁ」


 イセカイ人は自己主張が激しい。某にとって普通の挨拶であっても、謙遜ととられる。

 それは良い事ばかりでは無く、むしろ嘗められる傾向にある。ところがそれを奥ゆかしいとか、乙女っぽくて良いとか、勝手に良いように取ってくれるのである。


『美人の特権です』

 うむ! 某にも心当たりがあるので、声には出さないでおこう!


 結局。レンジャーのエサと某が先頭。次いで重戦士のアウボ、軽戦士のヘイモ、デイトナ、魔法使いのヨーナ、回復役のイサクの順となる。突撃に適した陣形であるのな。


 さて、当たりを付けた場所へ、風下から近づいていく。ゴブリンもネコ耳族ほどでは無いが鼻と耳が利くらしい。

 藪をかき分け進んでいく事暫し。


「むっ!」

『旦那!』

 某とミウラは同時に気づいた。微妙な変化に。


「どうしましたイオタさん?」

 エサ殿は気づいておらぬ。


「臭うでござる。これは死臭!?」

 僅か。ほんの僅かな、そして一瞬の感触。

 エサは黙って立ち止まり、後続の仲間に手で合図を送っていた。嬉しい事に、某の鼻を信用してくれている証拠だ。


 某とミウラは盛んに鼻をひくつかせる。僅かにそよぐ風の中から、臭いの流れてくる方向を見定める。


「こちらでござる」


 笹藪をかき分け、倒木を越え、下草が広範囲に薙ぎ倒れている場所へ出てきた。

 臭いの元はここだった。


「これは!?」

 エサが一目見るなり周囲を警戒した。いや、警戒するのは良いがそれは無駄な事。


「ゴブリン!」

 これがゴブリンか。


「ゴブリンとやらの死骸でござる」


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