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22.クエスト でござる


 イセカイの地図を手に入れた。


『かなりおおざっぱですね』

「そうかなー?」


 地図にヘラス王国への街道は描かれていない。

 山や谷の地理を参考に、ヘラスへの道を探さねばならない。

「うーむ」

 大陸に渡って、国を二つばかり超えると大山脈にぶつかる。これを越えるのは不可能とのことで、東方面へ回避。

 いくら大山脈といえど、やがては切れる。

 ここを南下し、細い谷間を通り抜ければ目的地、タネラを有する常春の国、ヘラス王国だ。


『太陽高度からざっくり推測すると、日本列島縦断する距離より長い。九州南端から青森までの間より確実に長い。えーと、薩摩から弘前までの距離より長いという事です』

「遠いなー」


 懐具合が心配だ。賞金だけでは事足りぬであろう。


「途中、旅費を稼がねばならんな」

 幻夢庵一流斉先生(美年増)直伝の手妻でも披露して路銀を稼ぐか?


『それも踏まえて、なんとかショートカット、えーと、近道する方法を考えましょう。わたしこう見えて、自室、もとい……、研究室に籠もりながら旅情報を比較する作業に没頭していた時期があったんですよ』 


 さすがミウラ! 頼りになる!



 二人して宿でうんうん唸っていると、ビラーベック商会のエンリコより連絡が入った。

 船は今日より七日後。朝五つの鐘出航なので鐘四つには船乗り場に居るようにとの事。

 乗船券との引換券が付けられていた。


『7日も間が開くと宿代だけでも痛いですね。冒険者ギルドでなんか仕事でも受けますか?』


 ミウラが言う事はもっとも。宿代だけでも稼がねばならぬ。

 と言う訳で、早速冒険者ギルドへ。


「仕事の斡旋をお願いするでござる」


 いつもの男女差別が激しい銀髪受付嬢の所に並ぶ。

 これ見よがしにBクラス冒険者カードを提示しておいた。ふふん!


「チッ……。そこのボードから選んでここへ持ってきなさい!」


 眉を吊り上げる美人になじられるのもまた宜しい。ましてや、夜な夜なボリスと懇ろ(ねんごろ)な事をイタしておると想像すればアレである。心地よい調べである。


「まあそう言ってやるなカーリン」

「ギルマス!」

 えーと、こんな場面、どこかで見たな?


「丁度イオタちゃんに依頼したい仕事があったんだ」

 ボリス、満面の笑みで登場。


「3日前、商人が東の森林地帯で小鬼(ゴブリン)のコロニーを目撃した。近道のため森を突っ切っていた時に目撃したそうだ」


「ころにぃ?」

『コロニーとは大規模な巣の事です』

 解説有り難うミウラ。


「本当だったら大事だ。町が危ない。死人が出て商売が制限される」


 町の近くで魔物小鬼(ゴブリン)が大勢集まっている。これは一大事でござる!


「事を重く見た商業ギルドの幹部は早速の翌日、2日前だな、スベアの軍に正式に警告と退治を依頼した」

「すぐに出動であるニャ!」

『イオタの旦那、ネコ耳族方言が出てますよ!』


 鬼退治。心躍る文言である!

 さすがイセカイ! 何でもありでござる!


「ところが軍は動かない」

「なんと?」


「そんな不確かな情報で軍は動かせないときた!」

「お上として、調査は必要でござろう?」


「当然だ。商業ギルド幹部は、それじゃ調べろよ、と軍に詰め寄った」

「当然でござるな! すぐに調査部隊を出したのでござろうな?」


 ボリスは肩をすくめて手を軽く上げた。

「まだ被害が出ていないので軍の人間は動かせません。ってのが返事だ」

「腰が重いにも程があるでござる! 何の為の武人でござる! この町の武士は腐っておる!


 我が日本の国も腰は重いが、ここまでではニャイぞ!」


『旦那、日本の警察も400年後にゃ全く同じになってます! 事件が起こらなきゃ動かないんです!』


「上等だ! そっちが動かないならこっちで動く! 後で吠え面かくな! とばかりに踵を返した商業ギルド幹部は、その足でここ、冒険者ギルドの門を叩いたぁ!

 どうか冒険者ギルドの手で、民間人の手で、ゴブリンのコロニーの存在を証明してくれぇ!」


『だんだん、芝居がかってきましたね。話しが怪しいですよ。乗っちゃいけません、旦那!』


「おおっ! 腐敗したお上に一泡食わせてくれるでござる!」

「イオタちゃんならそう言ってくれると思ってたぜ!」

『駄目だこりゃ!』

 

「で、3日目の今日現在、複数の冒険者に声を掛けて人数を集めている。作戦はこうだ。それぞれ3つのチームに振り分けて3つの疑わしい地域を探査。出来るならコロニーの殲滅。敵わぬとも手傷を負わせてくれれば御の字。詳しい情報、位置だとか規模だとか、その他詳しい状況を調べて持ち帰るだけでも良い」


 うむ、危険と隣り合わせであるが、十分注意すれば何とかなりそうだ。


『止めても無駄でしょうから……ゴブリンとは子供位の背丈の魔物で、武器を使います。武器は主に殺された冒険者の物で、自分たちで作る技術は持ち合わせていません。個々は弱っちいですが、集団戦が厄介です』


「俺としては、1チーム7~8人を想定。明日出発、1日がかりで担当区域へ。次の1日で探査。次の1日で帰還。都合3日を想定している」


 三日か。予備に一日当てても四日。船出まで三日のこる。

 その間、宿を引き上げておけば宿代が節約できるというもの。


「して、手間賃は?」

「1人5千セスタ。その間の魔物討伐は別払い」


 三日で五千セスタは美味しいな。

 それとは別に魔物退治とは心が躍る。頼光公や桃太郎と肩を並べる大仕事である!

 男子と生まれ、……女子に転生し、これほど心躍る事は無い。武門の誉れでござる!


「その仕事、謹んで申し受けるでござる!」

「うっ! 凄い目の輝き! それじゃ、明日朝の鐘3つまでにギルド正面玄関に集合。チームを割り振りして即出発。いいな?」

「心得たでござる!」


 こうして意気揚々と冒険者ギルドを引き上げるのであった。




 その日は一日掛け、森へ入る装備や、保存食の類いを集めた(ミウラ監修)。ネコ耳の集落から持ち帰った品も幾つか使えたが、そこそこの額が出ていった。


『冒険の初期投資と思えば安い物ですよ』


 何匹か魔物を討伐して懸賞金を手に入れねば、実入りの少ない仕事となろう。




 さて、翌日早朝。予定時刻通り、冒険者ギルド前に顔を出した。

 いつもの袴姿ではない。袴で山歩きは辛い。この世界の旅人とさして変わらぬ着物である。

 上半身は変わらず。足はズボンという股引に似た履き物。

 細い鉄板入りの手甲脚絆で腕と足を固める。同じく細い鉄板入りの胴巻きに鐘鉢巻きという出で立ち。特に足の脚絆はきつく締め上げておいた。

 森の中での戦いなので、長物であるバルディッシュは収納に納めたまま。いつもの刀と脇差しの二本を腰に差している。


 普段は鏡のように研いでおく刀であるが、今回に限り荒研ぎにしてある。刀は粗く研ぐと、ノコギリの要領で殺傷力が強くなる。

 同心を長いことやってると、こういった裏技に長けてしまうのだ。


 某が一番早い到着かと思うたが、すでに二十人と幾ばくかのゴツイ冒険者達が集まっていた。

 現場は、ギルド長ボリスが直々に指揮をとっている。


「来たかイオタちゃん。君は『赤い鎌とハンマー』のチームだ」

『内部崩壊しそうなネーミングじゃないですか!』

 ちっと、何言ってんのかわからないですね?


「おーい! ヘイモ! イオタちゃんだ!」


 掛け声にこちらを向いた若い男。身軽そうな鎧を纏っている。


「あいつがイオタちゃんの所属するチームリーダーだ。今のうちに挨拶しておけ」

「心得た」


 あちらこちらから、「チッ!」だの「こっちは男ばかり押しつけやがって!」だの、心証の良くない舌打ちが耳に入る。都度、ピコピコと耳が動く。どういう事だろうか?

 あれでは連携がうまくとれぬぞ。

 各部隊(チーム)は、中心となる部隊(チーム)が一つあって、そこへ数名の冒険者を補充して頭数を増やしているようだ。


 どうも女が入ったチームは、某の所だけらしい。

 むさ苦しい男共が、こちらに敵対的な視線を送ってくれるのだが、向きが微妙に逸れている。これから同行するヘイモと呼ばれた若者に向かっている気がするのだが?

 

「あんたがイオタさんか? 俺が『赤い鎌とハンマー』のチームリーダー、ヘイモだ。こう見えてBクラス冒険者なんだぜ!」


 土色というかくすんだ金髪というか、鬼か天狗の髪みたいな?

 元服したてっぽい若い男だ。早朝から頬を紅潮させておるのな。


『イオタの旦那がお気に入りのようですぜ。こんな奴と二泊三日の旅。早速貞操の危機だ』


 見ると、他の連中も頬を赤らめて某を見つめておる。みんな、若い男だ。

 うむ、理解した。

 美少女というのも考え物である。


「俺らのパーティの人数が一番多いんで、俺が指揮をとらせてもらう。いいかな?」

「拙者に異存はござらぬ。存分に差配してくだされ」

「堅苦しい言葉を使うんだね。もっとフランクに行こうぜ! じゃ、チームメンバーを紹介するね!」


 あれだな、団子屋のお徳ちゃんに誘いを掛けていた当時の某を垣間見るようで、なんだか辛い。ヘイモは、某の外見だけでのぼせ上がっておる。


 で、紹介してもらったのが、最前列壁役のアウボ。クラスはB。がっちりした鎧を着込んだ好青年だ。頬が紅潮しておる。

 魔法使いのヨーサ。クラスはC。ひょろっとした青びょうたん。ミウラと同じ職業であるな。頬が桃色だ。

 回復魔法を使うというイサク。クラスはC。小さい。幼い。可愛い坊主である。血色の良い頬だ。


「回復魔法って何だ?」

『よく利く加持祈祷だと思ってください』

 うむ、祈祷師か修験者であろうな。


 斥候役のエサ。クラスはB。れんじゃー技能とかを持っているとか。たぶん山歩きに慣れた男なのであろう。はすっぱな態度をとっておるが、顔が赤い。

 

 そして――

「イオタさんと同じく新規参加のデイトナさんです」


 試験で一緒だった愛人さん、もとい……銀髪の女戦士さんだ!


「あっ、ああーっ! イオタさん!」

 いきなり夜向けの声を出さないでください。


「嬉しい! また会えましたね! お姉さんの事、……憶えてますか?」


 潤んだ目で某を見つめるデイトナさん。もしや!


『これはただの挨拶です』

 現実は厳しい。


『第一、旦那の体は女です。周りの認識も女ですから!』

 現実は悲しいっ!


「仲良くしましょうねイオタさん。荷物は重たくない? 知らない事があったらお姉さんに聞いね。何でも教えてあげる……」


 柳眉を下げて見つめる愛人さん。


『何でも教えてあげるって、おねショタですか?』

 クラクラ~、クラクラ~。


「お、お姉さん!」

『妖術、破れたり!』

「うぐっ! はっ! ここはどこだ?」

 ミウラが鎖骨当たりに噛みついた。痛みで正気に戻る。


『周りの目があるんですから、控えてください』


 そう言えば、さっきまでのザワザワ感が無くなって静かになっている。

 口を噤んで某と愛人さんを見つめる目、目、目。

 まるで時が止まったよう。


「何を見ているでござるか?」

「ふぅー。堪能した」「男は邪魔なだけだな」「今夜が楽しみだ」


 そんな種類の声があちこちから流れ、やがて時が動き出す。

 元通り、出発前の騒々しさが蘇る。


 ヘイモ達、赤い鎌とハンマーのメンバーがズボンのポケットに手を突っ込んでいたり、微妙に内股だったりしている。

 某にも経験があるのだが、上手く隠しているつもりでも、丸わかりでござる。……過去の自分はすでに死んだ。すでに死んだ……。

 

 スケベな目的は一切無く、明鏡止水の心でデイトナ殿を心眼!

 


種族:人間

性別:女


 む? 表示がいつもより遅い?

 ゆっくりと文字が現れていく。


武力:十二(愛人として)


 愛人としての戦闘力が高すぎるのはいかがな物でござろうか? 

 それ以前に、愛人としての武力判別をする「鑑定」を信頼していいのだろうか?


職業:愛人(フリー)

水準(レベル):甲


 職業は確か冒険者だったはず?

 水準(レベル)が最高位な事は理解できるが。


性癖:獣好き

運:五



 ケモノ好き!?

 某のネコ耳が良いのか? ネコ尻尾が良いのか?

 女同士は些細な事でござる!

 こ、これは期待が持てるでござるよ!

 某にもやっと春が!


『旦那、心拍数がえらい上昇してますよ! 2サイクルエンジンですか?』


 懐のミウラより苦情が出た。

 そ、そうだ! 恋愛事を仕事より優先してはいけない。


 一通り紹介が終わったので、次は某の番であったし!

 コホンと、一つ咳払いをし、雰囲気を変える。


「拙者、イオタと申す。ご覧の通り剣士でござる。重い鎧は着けぬ主義でござる。故あってネコ耳族でござるが、習性は人と変わらぬ、とよく言われるでござる。そしてこれが相棒のミウラ」

『ニャーン!』


 かわいらしさ三割増で鳴き声を上げるミウラ。要点を押さえる事に関して、当世一でござるな。


「ああっ! かわいいっ! ぎゅー!」

『ぐっ! グエェー! この愛人さん、戦士なだけあって握力スゲー! 腕力おうっふ!』


 これ以上抱っこさせるとミウラが死んでしまう。

 慌ててデイトナよりミウラを取り返す。

 そのやりとりを顔に、股間を膨らませた少年達が見守っている。その少年達を、殺意溢れた目で大人の男達が睨め付けていた。

 

 この顔ぶれで森へと向かうので、ものすごく不安なのであった!




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