表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/164

20..晴れてBクラス冒険者 にござる!


 晴れてBクラス冒険者である!

 美人受付嬢が言う「ベテラン、もしくは一流」。某の心象は「凄い人」。ミウラがいうに「食っていける」人。


『狙い通りですね、イオタの旦那』

「うむ!」


 あとは一月、ここで頑張ればAクラス。「超一流」「もっと凄い人」「裕福」である!


『それはどうでしょう? 一月後と言えば7月半ば。グレゴリオ暦で8月終わりから9月始め。秋です』

「それがどうした?」


『そこから海を渡って、大陸を横断するとなると、直に冬になってしまいます。冬の移動はお勧めできません。

 となると、早い内に大陸へ渡り、冬を越す基地(ベース)を作らねばなりません。

 であれば、ここでグズグズしている暇は無いのです。

 よって、Bクラスのまま旅を始めるべきです』



 それは真剣に考えねばならぬ問題であるなー。

 某とミウラの目的は南の国、ヘラス王国のタネラへ赴くこと。あわよくばそこで永住権を獲得することである。

 そのための手段として冒険者ギルドと、Bランク登録である。Aランクへ昇ることが目的では無い。

 危うく目的と手段を取り違えるところであったわ!


 さて、ひとっ風呂浴びてメシ食って寝るか!

 銀の森亭の共同浴場にて熱い湯船に浸かる。案の定、女子の入浴は無い。

 ひょっとしてこの宿、女子は泊まっておらぬのか?



 失意の風呂から出てくると、食事どころが賑やかになっていた。早い時間なのだが、七分の入りである。流行の宿は何処かが違う。

 洗い髪を手ぬぐいで拭きながら看板娘を捜す。

 カウンターで、看板娘と目付きの鋭い商人風の男が会話していた。

 早速、某に気づく看板娘。


「あっ! ネコ耳さん! ちょうど良いところに!」

「拙者、イオタという名がござる。風呂になら一緒に入ってもいいでござるよ」

「あ! それ良いですね」


 飯を食ってた連中がざわついた。某と看板娘が一緒に風呂へ入る話に食いついたのか?

 ……覗きには細心の注意を払わねばならぬ。刀持ち込もうか?


「ところで、こちらのエンリコさんが、イオタさんにお話しがあるそうです」


 エンリコさんがどうとかの下りはよい。一緒のお風呂を先に解決して欲しい。


「お初にお目にかかります。私、ビラーベック商会スベア支店長のエンリコと申します」


 初老の男。背が高く、姿勢が正しい。後ろに撫でつけた髪と口ひげに白髪が交じっている。

 ビラーベック商会ってことは、ミッケラーの件だな。そして、この男はミッケラーの上役ってことであろう。


「この度、うちの若者がご迷惑をおかけいたしました件に関し、心よりお詫びいたします」


 がばりと頭を下げた。

 ずいぶん深いお辞儀である。

 立ったまま頭を下げられてもなぁ。


『イオタの旦那、異世界じゃ座ってお辞儀はしないんです。この場合、土下座並に深い礼だと思ってください。参考までに』


 ミウラが言うのだから間違いないだろう。

 長い間頭を下げていたが、ようやく頭を上げた。


「お詫びと言ってはなんですが、一席設けて御座います。是非、私どもの誠意を受け取って頂きたい。もちろん、ミウラちゃんもご一緒に」


『糞ミッケラーを許しちゃいけません! あの馬鹿男の上司なんだからもっと酷い詐欺を働くつもりですよ! 商人は頭を下げてナンボの生き物です。ここはほっといて二階へ上がりましょう』


 それも手であるが、ちょっと周りの状況が変化してしまった。 

 二人の会話を聞いた客達がざわつきだしたのだ。


「たしか20人斬りのネコ耳族を騙したのがいたな」「ビラーベック商会の若い奴らしい」「ビラーベックってズルするのか?」


 商会に対し、良くない噂が流れている。

 詳しく聞かなかったが、ビラーベック商会は大店らしい。良くない噂は丁寧に消したいのだろう。

 だとすると、某への扱いは下に置かぬものとなる。商会の顔があるからな。

 こちらから顔を潰すのは不味かろう。

 となると、ミウラの意見は悪手であろう。あやつ、ミッケラーに関してやたら感情的になる傾向がある故。


 ふむ、ここは昔の同心時代の解決方法で良いのかな?


「エンリコ殿! 拙者、世間が言うほど怒ってはおらぬでござるよ。それに支店長たるエンリコ殿の顔に泥を塗る気は毛頭ござらぬ。ここらで正式に手打ちにいたそう。お誘い、よろこんでお受けいたすでござる」

『旦那ぁ~!』


「おお、さすがイオタ様。表に馬車をご用意しております! さっそく――」

「いやエンリコ殿、しばしお待ちを。拙者、風呂より出たばかり。それなりの支度が必要でござる」


 そう、支度が必要である。


「エンリコさん、お風呂から出たばかりの女の子を誘うって、凄く失礼よ!」

「これは私としました事が! どうぞごゆるりとお支度を。私への遠慮はご無用に!」


 看板娘より助けの手が伸びた。

 なるほど。女子という技はこうやって使うのであるな。一つ利口になった。



『旦那! 私は反対です!』

 二階の部屋へ入ると早速ミウラが毛を逆立てた。


「そう言うなミウラ。ここが落としどころである。相手の顔を立てねばならぬ時がある。損して得取れと言うではないか。多少仕込ませていただくがな」


 持ち物の中から、必要なモノを取り出す。


「ここは港町。新鮮な海鮮料理が期待できるぞ」

『し、仕方ないですね。エビとかカニはでますかねぇ?』


 食い意地のはったミウラのことである。最後は賛成すると思っていたよ。


 部屋でいつもの筒袖袴に着替え終わった後、文机に向かい、鉛筆という名の筆をとっている最中でござる。


「えーと、『エンリコ殿の選ぶ数字は5』っと。これ、何処に仕舞おうかな?」

 下で手に入れた紙にイセカイの文字を書く。


『キリの良い数字ですから、目立つ所に……、それ書いた紙を細く折りたたんで、紐の代わりに髪の毛を後ろで束ねたらどうですか?』

「おお、それは良い案でござる!」


 いそいそと髪を束ねる。やや高い位置で縛ったから馬の尻尾みたいであるな。


『くっ! 破壊力強すぎますぜ、旦那!』


 何の破壊力であるか? 男の髪型としては、ありふれておるように思うが?

 細かい仕込みを済ませ、サイコロを懐に放り込んで部屋を出る。



 階下に降りると律儀にもエンリコが待っていた。看板娘も隣に立っている。


「キャー! イオタちゃん可愛い! ポニーテール破壊力有るー!」

 ミウラと同じ事を言っておる。このおなご。


「こ、これほどとは! お似合いですイオタ様!」

 エンリコまで?

 どういうこと?


 心眼発動!

  


種族:人間

性別:男

武力:二

職業:商人

水準:甲

性癖:馬の尻尾(ポニーテール)愛好家

運:四



 馬の尻尾(ポニーテール)とは、何のことでござるかな?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ