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17.冒険者ぎるどへ でござる


 建て付けの悪そうな扉を開けて、冒険者組合(ギルド)へ足を踏み入れた。

 ここの町は全部押して開ける型である。引き戸はない。めずらしいでござろう?


 時刻は間もなく夕刻。残り時間が少ない。なるべく手短に済まそう。

 ざっと見渡し、ギルドの受付らしき窓口へと向かう。あらかじめ、ミウラよりギルドでの手順を聞いている。ミウラは便利な小道具と化してしまった。


 窓口は三つある。この時間、暇だったようで、客がおらぬ。彼女たちも、お喋りに花を咲かせている。

 全て妙齢の女子が対応している。女子が見ず知らずのむくつけき男と会話する。実に嘆かわしい!


 で、好みの顔をした女子の前に出た。

 自尊心の高そうな、つっけんどんな態度の冷たい美人。


 実に良い女子である。イセカイ最高!

 ここで「心眼」発動!



種族:人間

性別:女

武力:二

職業:ギルド受付員

水準:丙

性癖:組合長(ギルドマスター)の妾

運:一



 まず「妾」という項目に惹かれた。

 体の芯が熱くなる力ある言霊。

 そして運が低い。薄幸の愛人。そして、相方がギルドマスター……。


「ご用件を承ります」


 女子である某に対し、めんどくさそうな声がまた良い!

 そして某の頭頂部、ネコ耳をあからさまに気にしている!

 美人より受ける差別意識がたまらない。


「女子でも安全に泊まれる宿を紹介して欲しい」

「そういうサービスは無いんですけどね。念のため、冒険者カードをだしてみて」

「持っておらぬ」


 ギルドに入っておらぬと知ると、盛大な溜息をついてくれおった。息が某の顔に掛かるほどの溜息だ。……美人から吐息を掛けられたと考えればイケそうな気がする!

 おっといかん!


「故に、登録したいのでござる」

「はいはい」


 なげやりな異国の美女というのも絵になる。


「はい、ここに必要事項を記入して。字は書けますか? 100セスタで代筆しますよ」

「心配はご無用。拙者、読み書き程度、朝飯前にござる」


 伊耶那美様より頂いた神通力のおかげで、イセカイの文字に不自由しない。


「はいはい。ギルドカードは今日中に作っておきますので、明日朝一番以降に取りに来てください」

「これにて、冒険者ギルドに入ったも同然でござる。改めて宿の斡旋をお願い致す」


「だから、ギルドは宿の斡旋はしてないの。さっきそう言いましたよね?」


 片肘をついて、前髪をいじりだした。何とも態度が悪い女だ。

 むー。ここまでケチョンケチョンにせずとも良いものを。あれか? これが異種族への差別意識というものか?

 ネコ耳族の幼い子らは攫われ、いい年をした大人は迫害されるという話であった。


「これから簡単なギルドの説明をします」

 女は簡単な説明と言った。詳しく説明するつもりは無いらしい。


「まず、ランクからね。冒険者のレベルによってランクが発生するの。上からA.B.C.D.Eよ。A.B.Cって解る? 文字読める?」

「さっきも読み書きは大丈夫だと申したはず!」


 舐めきってくれるよな。……舌で舐めてくれるなら文句は言わぬが!


「Eは見習い。Dからが冒険者のスタート。Cは一番肉厚なゾーン。Bはベテラン冒険者。Aは超一流。


 上にSがあるけど、国際的英雄級なので数は少ないわ。居ない時期もあるし。解った?」

 この世界のABCはイロハに相当する。憶えておくが良かろう。


「うむ、Eは素人。Dは普通の人。Cは使える人。Bは凄い人。Aはもっと凄い人。Sはよく分からない人達であるな!」

『旦那、旦那! Eは見習い。Dは長くいてはいけない。Cは生きていける。Bは食っていける。Aは裕福。Sは変態ですよ。B以上を狙ってくださいね!』


 あまり変わらぬ。

 理解した。


『ちなみにABCは異世界の文字を表現しただけで、発音は違ってますからね』

 そこは理解できぬ。


「で、あなたはEからスタートね。薬草摘みや失せ物探しが定番の仕事よ」


 鼻の頭に皺を寄せ、指で床を指し示す。床入りの際、上に乗っかる型が好きそうであるな!

 それにしても扱いが酷くないか?


「拙者、二天一神流免許持ちでござる!」


 急死した父の跡を継ぎ、同心になったって道場の先生に報告したら、「じゃ、いっちょ箔付けに免許でもだしておくか?」と言われて頂いた、歴とした免許でござる!


「腕前は素人ではござらぬ。Bの実力は持っているのでござるよ!」

「あー、皆さんそうおっしゃいますね」


 この女! 埒が開かぬっ!


『イオタの旦那、わたしの言う通りに質問をぶつけてください』 

 懐からミウラが顔を出した。なにか良い考えがあるのだろう。


「あら、可愛いネコちゃんね!」


 冷徹女も、子ネコには胸襟を開くらしい。某もネコでござるよー。

 もといして、ミウラが小声で話すのを某が人の言葉に置き換えて話すという技を披露する。


「伺いたいのだが、有名な剣豪とか、古の魔法使いとかが戸を叩いてもEから始めるのでござるか?」


 某が通っていた道場主は江戸でも四天王と呼ばれた強者。その先生が冒険者になったとして初心者から始めるのか?

 草刈りをあてがっておくには勿体ない人物である。そう言うことであろう?


「はあ? あなたが? お強いと? はいはい。お話は聞きましたよ。ではお帰りください」


 どこまでも鼻の高い女である。人を見下すのも……冷酷な女に見下されながら初めての経験もそそるのである。なんとかお友達になれないかな?


「そう言ってやるなカーリン」

 声は後ろから掛かってきた。


「ボリスさん!」


 振り返ると……どこかで見た顔。

 金色の髪を短く刈り込んだ……さっき役所で絡んできたゴロツキ代表ではないか?

 このような輩になぜ「さん」付けで呼ぶ?


 心眼!



種族:人間

性別:男

武力:九

職業:組合長(ギルドマスター)

水準:乙

性癖:浮気者

運:三



 こやつが組合長(ギルドマスター)? そして受付嬢の愛人?


「あーん、マスター! この世界の厳しさをレクチャーしていただけよ。ちょっと厳しい言葉を使う方が、この子の為だと思ってぇー」


 あなたの為にきつく当たるのですよ! とかヌカス輩にろくなのはいない。

 この女、予想通り、男と女の取り扱い差が激しかった。

 でもこんな女に男は転がるんだよな。

 某も転がる自信がある!


「オレの名はボリス。ここのギルマスを勤めている」


 ギルマスとはギルドマスターの略であるな。


「拙者、北町奉行所定廻り同心伊尾田松太郎と申す者。イオタと呼んでくだされ」

「お、おう、イオタちゃんね」


 なぜイセカイの人間は、某が名乗りを上げると腰を引いてしまうのだろうか?

 そして、咳払いを一つしてから、某の横に並び受付台に肘をつく。


「ようこそ冒険者ギルドへ! 歓迎するぜ!」

「マスタぁー! その子未登録なんですよ!」


 その甘い声を某にもかけて頂きたかった。


「カーリン、この嬢ちゃんは『バルディッシュのオーガー』一味10人を皆殺しにしたんだぜ」

「え?」


 カーリンは目を見開いて驚いた。その見開き方も、かわいらしさを主張させたモノだ。うん、いいねいいね!


「イオタちゃんのような凄腕剣士や大物が現れた時用に、レベル測定検査があるんだ」

『やっぱりあったんだ!』


 ミウラの読み通りの様である。ミウラが居なければ、今頃、筵を体に巻き付けて河原に寝転がっていたことだろう。 

 

「試験官と実技試験を行い、複数の検査官が査定する。その審査結果でランクが判定されるんだ。

 判定されたランクの一つ下からスタートする決まりでね。経過観察で該当ランク相当の品格有りと見なされれば、早くて一月後にランクアップされる。

 実技試験のルールは、そうだな……」


 マスターが顎に手を当て小首をかしげた。

 可愛くない仕草である。


「剣を使うイオタちゃんだと、ギルドが用意した刃引きの刀で勝負となるだろうな。実技試験の説明書を渡しておこう」


 さっと妾さんがギルドマスターに紙切れを手渡した。よく気がつくというか、あざといというか……。

 カーリンの仕草ににやけたボリスだが、その後すぐ、某を強い目で見る。


「あの抜き打ちは厄介だ」

 むう、居合いを見られたか。


『高速の剣士と認識されてしまいましたね。手の内を見られたのは不味かった。できれば、剣術の違いを生かし、初見殺しで生き延びたかったんですがね。だからといって試験場で加速のスキルは使っちゃいけませんよ』


 うむ、勝負は今から始まっているのだな!

 ボリスの説明が続く。


「説明しておこう。

 武器の持ち込みは禁止。徹底的に身体検査をされる。例外として、魔法使いだけ発動体の持ち込みが許される。


 闘技場に入ったら、後はどのような手を使っても自由。

 どこからも誰からも文句は出ない。隠し技上等だ。


 戦士は必殺技や奥義を繰り出しても良い。砂かけ目つぶし唾ペッペ。何でもあり。

 魔法使いはどんな魔法を使っても良い。


 怪我はルール上許される。お互いにな。身の程を弁えず、怪我させるつもり掛かってきて怪我させられて帰るってパターンも多い。

 ただし、どんな理由でも殺人は禁止。即失格の上、官憲に殺人罪で突き出される。

 技量を見るための試験だからな。勝ち負けは関係無いんだ。そこ、間違えるやつが多いので困っている。


 試験官か検査官が試合を止めたらそこで止めねばならない。これを破った者は犯罪者として牢へ繋がれる事となる。冒険者ギルドも永久追放だ」


 ふむ、安全を最優先させた、いわば寸止めの実技試験であるな。


「解ってくれたかい?」

「理解した。その試験はいつでござる?」

「それが偶然、明日の午後なんだ。明日の朝、登録を済ませて昼から臨めば良い。朝は遅めに出てきてくれ。早いと窓口が混雑するからね。それと――」


 ボリスの雰囲気ががらりと変わる。

 目に力が入り、体の内に闘志が満ちる。


「嬢ちゃんの剣技は一対一の対人用に特化されたものだ。多数を相手にした戦闘や、モンスター相手の戦闘には向かねぇと見た」


 ドンと台を叩く。

「舐めちゃいけねぇ。いいとこ、Cだぜ」


 どうにか生きていけるレベルであるな。

 安い脅しはともかくとして、ボリスの言ももっともである。


『対策が必要ですね』

 さすがミウラ。某と同じ事を考えておる。


「で、もう一つ」

 またまたボリスの態度が柔らかい物に変化する。

 お妾さんより紙が出された。


「これがお勧めの宿への地図だ。『銀の森亭』という。俺の名を出すが良い」

「かたじけない! それではこれにて御免!」

「明日のご訪問、お待ち申し上げております」


 妾さんが頭を下げた。男の前だといい女を演じられるのであるな。


 おっと忘れていた!

「ボリス殿、一つ聞きたい事がござる。宜しいかな?」

「なんだい?」


 片方の眉をひょいと上げるボリス。器用だな。……後で練習しよう。


「男前のボリス殿は、ご結婚なさっておられるのかな?」

「おいおい、これは参ったな!」


 何にやけておるか! 勘違いも甚だしいわ!

 それとカーリン! 某を親の敵みたいな目で睨むな!


「残念だが、妻も子供も居る。俺に触れるとやけどするぜ!」


 あまりに馬鹿馬鹿しくなって開いた口が締まらない。


「ほら、地図と書類! 忘れんじゃねぇぞ!」


 片目をつぶって……ゾゾゾッ! 尻尾の毛が逆立ち倍の太さになるのが解る。



 書類と地図を懐に放り込み、逃げるように冒険者ギルドを後にする。

 カーリン嬢、薄幸であるが、がんばれ!




もうしばらくの間、連投できそうです。

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