*新婚旅行2-2
最終回です。
『さて、旦那』
ミウラが生物学的に目を光らせていた。
「お、おう!」
『問題はどうやって先生を殺……、排除するかです』
久々に見せる、殺人犯の目だ。日頃、先生先生と慕う、つぶらな目をしたミウラはどこへ?
「武士道ト云フ正攻法トハ酒デツブス事ト見ツケタリ!」
『わたしの知ってる正攻法の意味は、それとちょっと違いますね。でも、わたしが考えていたのと同じ作戦です』
目的と手段が一致した。
「エラン相手に勿体ないでござるが、ウイスキーの初物を開けてやるか!」
『いえ、旦那、これをお納めください』
クリームパンがそっと差し出したのは、透明なガラス容器に入った透明な液体。
『こういう事もあろうかと用意した品物です』
想定してたんだ。
『60回以上、蒸溜を繰り返しました。度数は脅威の80%以上で計測不能。色とえぐみを抜く為、炭で濾過してますからスッキリ爽やか。むしろフルーティ。本来の使用目的は消毒液とカクテルベース。対ヤマタノオロチ決戦兵器です。こいつをこっそり飲ませてやってください』
「こっそりとな? 器用のスキルが火を吹くでござる。くっくっく!」
『くっくっく!』
狐目のネコが2匹。額を付き合わせて悪どい事を考えている。
エランの運命やいかに!
本邸での夕食後、酒でも飲むかとエランを誘ってサンルームに移動。
雑談しながらチビチビと酒を飲む。
頃合いを見計らって、デイトナとミルコ君をお風呂へ誘導。
残ったのはエランとイオタとミウラ。
「う、うむー」
早速アルコール80%を飲まされたエラン。
一撃で挟撃。三撃目で大破。五撃目で轟沈となった。
イオタが酌をするまま、カパカパ飲んだのがいけなかった。
「よーし! お付きの騎士諸君。エラン君が潰れたので、部屋へ連れ帰ってくれ。あとで新作のウイスキーを届けるでござる。みんなで飲むが良かろう。つまみも持ってゆけ!」
護衛の騎士が礼を言いながらエランを運んでいった。
エラン退場。何しに来たん?
「『ヨシ!』」
3段飛ばしで階段を駆け上がるネコ2匹。
2階に上がってからは、完璧に足音を消して自室に飛び込む。
『スイッチオン!』
「ふんすふんす!」
魔道モニターに火が入る。
映し出されたのはデイトナとミルコ君に割り当てられた部屋。明かりを消しているのに、クリアーな画像。まるで昼日中のようだ。
お着替えはお済みなのでしょう。早々とベッドに入っていた。
季節は夏。薄い絹布団一枚を掛けているだけ。
山あり谷あり、デイトナの体のラインがよく見える。
モニターの前で正座して待つネコ2匹。
「寝る前に致すのでござろか?」
『通常ですとそうなりますよね。致した後、疲れて眠ってしまうのが一般のパターン』
明日は海上ホテルで寝泊まりの予定。よって、今日しかチャンスはない。二人の力の入れ様が半端なかった。
『あっ! ミルコ君がデイトナに抱きついた!』
「ヨシ! 始まったぞ!」
『横臥位ですな! あ、脱がないでください旦那!」
抱きついたというか、抱っこされたというか……そのまま、動きが止まった。
「あれ?」
『時間の問題です! 我らとデイトナご夫婦、どちらが我慢強いか!』
「根性勝負なら負けはせぬ! ふんす!」
そして30分経過。
『動きがありませんね?』
「寝た、のかな?」
『若い二人が? そんな訳ないでしょう!』
1時間経過、2時間経過。
「まさか、寝てしまったとか?」
見たところ、完全にノンレム睡眠中だ。
『こちらも休憩しますか?』
「そうでござるな。いやいやいや、待て待て待て! もう少しすると動き出すやもしれぬ。ここで見逃せば一生の不覚!」
『ですな! もう少し粘りましょう』
さらに時が流れ、日付も変わる頃。
「おっ、動いた!」
『え、どこ?』
「脱がないでください旦那」
寝返りを打っただけだ。
「これを吉祥に目が覚めるやも知れぬ!」
『注目しましょう!』
さらに数時間が経過。東の空が明るくなってきた。
『もう諦めましょう、旦那』
「いや、まだ諦めるのは早いでござる。起き抜けにこそ、致したくなるものでござるよ!」
『確かに、そんな事聞きましたね!』
目だけギラギラさせた肉食獣が2匹。
「ではもう少し」
『はい、もうすこし』
そして日が昇る。
異世界でも江戸でも、日が昇れば朝。楽しい楽しい活動開始の時間である。
「け、結局、なにも致さなかった……だと?」
『うーわ、めっちゃ眠ーいっすわ!』
よく考えれば――
馬車の移動は結構疲れるものだ。半日も馬車に揺られていれば、疲労がたまってその日はバタンキュウと寝てしまう。致すのは、疲れが取れた翌日からだろう。
そして、翌日は海上ホテル。何も仕込んでないし、人目があるから今からじゃ仕込めない。
「ぐはぁ!」
『ひでぶ!』
折り重なるように倒れ込む1人と1匹。
だが、今から下へ降りないと、一晩中何してたんだと疑われる事請け合い。
「お、おのれ!」
『今気づきましたが、風呂に入ってませんね。入っておかないと疑われますよ』
「むぅーっ! 朝風呂でござる!」
『わたしもうダメです。ばたんきゅう!』
ぶっ倒れるミウラ。ネコだからね。仕方ないよね。
足音を立てず、階下に降り、こそっと風呂に入るイオタ。
当然の事、湯は抜かれている。あっても冷たくなっている。
「うひー!」
朝っぱらから水浴びである。暑い季節で良かった。
「うー頭が痛い。おっ、どうしたネコ耳!」
朝も早く、エランが本邸に顔を出してきた。
風呂上がりのイオタとばったり出会ったのだが――
イオタの目の下にクマができていた。
尻尾も耳も項垂れていた。
「うーあー、某も飲んでて、そう! 某も飲み過ぎたのでござるよ! 飲み過ぎた者同士でござるな!」
この場合、飲み過ぎたといえど、エランは睡眠を取っている。イオタは徹夜。
今日は海で遊ぶ事になってるが……きついぞ。徹夜明けの海水浴は。
「ふー、今日のお日様は……黄色いでござるな」
眩しすぎる朝日を見上げるイオタであった。
「帰ってきたじゃけーん! 無事帰ってこれたんじゃけーん!」
杖を突き突き、ゼファ子が帰ってきたのは5日後だった。
⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰
「ただいま戻った」
「あ、うちの旦那です」
ドアを開ける奥さん。入っていたのは――
男にしては背が低い方。奥さんより頭半分低い。
世を拗ねたような目。天使の輪を持つ黒髪。黒を基調とした服。
一見して、ノラの黒ネコを連想させる男だ。
またネタが湧いてきたら再開するかも、です。
短い間でしたが、お付き合い頂き有り難うございました。