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*新婚旅行2-1

「旦那さんって中学の教師……ですか?」

 言葉につまるジェイムスン教授。まさか素人が「異世界ネコ歩き」へ先に辿り着いていたとは!

 侮りがたし!


「それって凄いね。地元の強みかな? 旦那さん、えーと、イオシスさんだったっけ? ずいぶんと考古学に興味を持ってますね! 教えておられるのは歴史っすか?」


 ニール君は、自分と同レベルの同好の士を見つけたようで嬉しそうだ。まして友達の旦那さんって事で親近感が湧いたのだろう。


 それに対して奥さんは――、

「いーえ、現代語と古文です。歴史は人並みですよぉ! それも中世以前はまったくで!」

 コロコロと笑う奥さん。


「え? 歴史じゃなくて古文? 語学の人ですか?」

「中世以前はまったく?」

 これにはジェイムスン教授もニール君も驚いた。


「もうすぐ帰って参りますので、そのときお話をなされては? 旦那もイオタにだけは詳しいんですよ。きっと話が合うと思います」


 奥さんは、悪戯っぽい目で笑っていた。







⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ 


 デイトナが結婚した。

 イオタは複雑な心境である。


 森羅万象二極一対。陰と陽、昼と夜、男と女。北斗と以下略。

 拒否する感情と、受け入れようとする感情。マイナスとプラス、左右の極地を代表する感情が、臍下で渦を巻いている。丹田のすぐ側だから危なっかしい。


 電位の差で(タオ)が体内を循環し、カメハメハの一つでも撃ってしまいそうだ。そう、生も死も、空気も土も、氣の一形態に過ぎぬのだから。


 婚約のお祝いで、デイトナ夫婦に進言した事がある。

 イオタの里、ニホンには、新婚旅行という習慣がある。古式ゆかしく、ご夫婦をタネラに招待すると。


 デイトナは、いたく感激していた。

 約束通り、デイトナ夫婦、正式にはザンボーニ侯爵夫妻がタネラへ余暇を過ごしにやってくる事となった。

 

 でもって、ここ数日。イオタによるミウラへの攻めが酷い。

 なんで?


「未だでござるか!? 間もなくデイトナ殿がやってくる! 間に合わねば如何致す!? 腹を切っただけでは済まされぬぞ!」


 これが数時間おきに、酷いときは30分おきに繰り返される。

 ミウラが開発中の魔道具。それの進捗状況の確認にやってくるのだ。ウロウロと。


 当初よりミウラは大丈夫だと言っている。デイトナ夫婦訪問の一日前に仕上がるし、取り付けの基礎工事は終わってるからポン付けで済む、と断言しているのだ。行程は予定通り進んでいる。ミウラにぬかりは無い。


 ちなみに、実作業はオートマタの女郎奈(ジヨロナ)が行っている。


『腹は旦那一人でお召しください』


 腹を切るだの召すだの言ってるが、何のことはない。

 ミウラが開発中の魔道具とは、隠しカメラ(音声付き動画、暗視機能付き付きフルカラー)である。


 使用目的は、デイトナと夫のミルコ君(8歳)の、夜の営み鑑賞会。

 盗撮とも言う。


 下心満載である。むしろ、下心その物。下心以外、介入の余地はない。それは下心が具現化した物、である。


『お腹がすきました。ここまでご飯を持ってきてください。当然肉ですよ、肉! でないと作業効率が下がって間に合わなくなりますよ』

「肉でござるな! 任せておけ!」


 イオタは、ピューって擬音を出して、ミウラ研究所から走り去った。ご丁寧に、足が渦巻きで表現されていた。あと、3滴ばかり飛び散る汗も。


『やれやれ、あんな事言わなきゃ良かった』


 デイトナの婚約発表で落ち込んでいたイオタを元気づけようとして、盗撮の件を提案したのだ。イオタは、フル至高の気迫で食いついた。思った通りになったのだが……。

 思った以上、元気になってしまった。


『自分の物にならないから、鑑賞に切り替えたんだ。ヤレヤレだぜ! さて、後はガワを付けるだけで終了っと! あー、ビール飲みてぇ!』


 ミウラ本人も鑑賞会を大変楽しみにしているのだが、こうもプレッシャーが強いとエンジンの回転数が下がってしまうものだ。


『よし完了! 指さし確認ヨシ! 取り付けたら終わり。後はデイトナが刳るのを手ぐすね引いて待つだけ! ショタよ来い! おねショタこそ至高! ふんすふんす!』


 ミウラのエンジンも高回転域へ突入した模様でよかったよかった。ネコって、切り替えが早いもんね。






『さて、取り付けです。女郎奈、作業開始だ』

「ふんすふんす!」

『落ち着いてください旦那。ふんすふんす!』

 ミウラ、お前もな。


 取り付け箇所は3つ。

 ベッドの真上の天井と、枕元の壁と、足下方向の壁。

 それぞれ小型のマジックミラー、照明器具、壁飾りの中に偽装して設置した。


 ……マジックミラーのパテントだけで、一生左団扇なのだが、この技術は生涯、日の目を見る事が無かった。心が汚れているからだ。


『作動確認。画面クリアー。音声良好。魔力漏れ遮断装置良好。完璧でございます』


 ……魔力漏れ遮断装置のパテントだけで、一生左団扇なのだが、この技術は生涯、日の目を見る事が無かった。やましいからだ。


 これで前後と上からの撮影が可能となる! バッチリじゃない!


「ふんす! ふんす!」

『ああ、旦那! 服を脱がないで! こりゃ、録画の可能性について話さない方がいいな』

 精神安寧(サニティ)の魔法をイオタに掛け、次の段取りに入るネコ2匹であった。



『そう言えば、こんな時必ず出てくるゼファ子さんを見かけませんが、どうかしました? 消しました?』

「血生臭い事を言うな! ゼファ子は北の要塞へ使いに出した。2、3日ゆっくりしてきていいと。帰りに山の温泉に一泊してきてもよいと」


『その心は?』

「ゼファ子に手紙を持たせた。シルエッタ様宛てだ。この子、見込みが有るので鍛えてやってください、と書いておいた」


『シルエッタブートキャンプ! むっちゃ血生臭い!』

「あ奴が居っては、さすがに捌き切れん! ゼファ子、来世で会おう」

『死亡前提ですか?』 

 ヤル気がスゴイ!




 なんだかんだあって、当日がやってきた。

 デイトナ夫妻こと、ザンボーニ侯爵夫妻がイオタ邸ご訪問!


 そして――

「フッ、じゃまするぞネコ耳!」

「エランーっ!」

 握りしめた拳を掲げ、腰を落として力むイオタ。尻尾がパンパンに膨らんでる。

『あ! 界王三倍拳だ!』


「なんで、おまえがッ! 付いてくるのでござるかーッ!」

 エランの襟を締め上げるイオタ。顔が近い、顔が近い!


『なんだか先生嬉しそうですね』

 しめげる腕を取るエラン。特に離そうとはしていない。なぜでしょう?


「フッ、私は別件だ」

『その別件の内容は言わないんですね』


「ぬおおぉぉ!」

 ジュードーの要領で投げ技を打とうとするイオタ。そうはさせじと、重心を低くして耐えるエラン。エラン先生、体術も一流のものを身につけている。


『いっそ、絡んで倒れて寝技に持ち込まれた方がよろしいのでは? と具申致します。先生に』


「二人とも! 騒ぐのでしたら表でやりなさい! ミルコ君(8歳)が怖がってるでしょ!」


 デイトナの雷が落ちた。ミルコ君(8歳)はデイトナさんの影に隠れている。

 ……こう、柳眉で叱りつけるデイトナさんも……、こう……、人妻になられて……、こう……、有り寄りの至高。


「申し訳ござらぬ」

「はい、すみません」

 耳が項垂れるイオタと、首が項垂れるエラン。


「キシェーシェシェシェッ! ザンボーニ侯爵夫人、お叱りはその辺で。さあさ、お荷物をお運びしゅましょう。お部屋はこちらでしゅ」

 荷物を使用人に運ばせるエルミネタお婆。ナイスアシスト。


 キャッキャウフフしながら、二階へ昇っていく若い二人。左右に揺れるお尻をじっと見つめるイオタ。


『旦那も同じ物持ってます』

 今日のミウラはお下品モードにスイッチしている模様。


 はっと我に返るイオタ。


「エラン! 貴様は新館に泊まれ! 来るって聞いてなかったから、本邸に部屋はないのでござる! ご飯くらいは出してやるから、荷物をおいてこい!」


「では、荷物おいたらすぐに戻る。新しい商品はないか? はっ! 私はそれを調査に来たのだ! そうだったそうだった!」

 ここへやってきた理由をやっと思い付いた感バリバリ。


 エランは、勝手知ったるイオタん家。使用人の案内無しで新館へ向かった。


 エランという不確定要素が付加されたまま夕食へ。そして夜の寝室へと時間が流れていくのであった! 




書き溜めていた弾が尽きました。

次話をもって、一旦終わらせて頂きます。

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