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*小話

「こちらです」

 階段を上がった先。奥さんがドアを開けた。まずは研究室用の部屋である。


「ほほー! なかなか良いんじゃないか? なあ、ニール君!」

「そうですねジェイムスン教授。北向きなんで日光が入ってこない。それでいて風通しが良い。大切な資料を保管するのに適した環境。温度調節は魔道エアコンが付いてるから心配なし。僕は賛成です」


 ニコニコ顔のニールと、これまた可愛い笑顔の奥さん。

 二人して頷き合ってる。


「えーっと、つかぬ事を聞くが……」

 ジェイムスン教授が作り笑顔を浮かべている。


「君たち、お知り合い?」

「はい!」

 元気よく、奥さんが返事した。






⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰


・Cat Fight!


「もう我慢ならんじゃけーん! 表に出るんじゃけーん!」

『面白れぇこのくそアマーッ! ボッコボッコにしてやんよ!』

 ゼファ子とミウラの口喧嘩である。


 会話が成り立っているようだが、成り立っていない。

 ミウラが喋る異世界ネコ語は、人間や魔物や魔族には理解できない。イオタ、もしくは聖竜ディーノを代表とする古竜にしか聞き取れないのだ。


 人間と会話が出来ないという短所と、眼鏡美人女教師の眼前でイヤらしい単語を並べても、まったく気づかれないまま授業が続くという長所を持っている。


 今回のパターンは、たまたまの一致であった。両者の目的(暴力的行為)が同じなので、言葉の方向性も同じなのだ。よって、見た目、会話が成立している様に見えるだけだ。

 だって、只の人間であるゼファ子がミウラの言葉を解する訳ないじゃないですか!


 話は元に戻して、なんで両者が喧嘩しているのかというと――


 不詳ミウラの子猫アンタレスこと、ムギのしでかした件について。

 ちなみにトラジマの色が麦藁色だったから、ムギと命名された。byイオタ


 ムギが、してはいけない所でンコしたので――

 ミウラが叱り、ゼファ子が甘やかす。

 教育方針の違いを巡る諍いが根源であった。

 つまんねぇ争いだ。

 

 表に出た二者。先手を取ったのはミウラ。

『召喚魔法! いでよ! 裏完Ⅱーッ!』


 ヒュンからのズドン!

 ヘヴィー級ゴーレム、裏完Ⅱが現れた(セットアップ)


 対するゼファ子は、自称ミニマム級(実はバンタム級)。重量差はあきらか!

 だが、ゼファ子の動きは速かった。まるで戦い慣れているかのようだった。


「下半身へのタックル! からのマウントパンチじゃけーん! オラオラオラオラ!」

 メリケンサックを嵌めた拳で殴りまくるゼファ子。

 裏完Ⅱのセラミックとアルミ合金サンドイッチハニカム構造装甲が、ベコベコに窪んでいく。


『ああーっ! 反則技を使う前にやられたーっ!』

 反則技前提ですか?


 ゼファ子の顔が、飛び散ったオイルで汚れていた。

「チョロいんじゃけーん! 消化不良じゃけーん!」


『ならば、召喚魔法2! いでよ! 松戸破裏拳(まっどはりけーん)!』

 ズドーンからのビリビリビリ!

 足首まで埋まってしまった足を片足ずつ引き抜く松戸破裏拳。


 見上げるゼファ子。

 そこには、アンコ体型の、裏完より頭2つは高い背の、凶悪な顔の、黄色いツインアイがゼファ子を見下ろしてた。


「ず、ずるいけーん! ヘビー級どころか、スーパーヘビー級じゃけーん!」

『あーら、スーパー・ヘビー級の、どこがずるいのかしら?』


「受けて立つんじゃけーん! 武装錬金!」

 メリケンサックを捨てて、ポケットから取りだしたのはオリハルコン製カイザーナックル!


『はっ! あれは! 使用者のパンチ力を10倍にするという! アトランティス大陸の王のみが使用を許可されたとされる、伝説の超接近専用神武器! 所有者は確か町ジムの会長だったはず!』

 そういう話があったらしい。どこかで。


「臓物をブチ撒けろじゃけーん!」

『恐れているだけじゃ前に進まない! いけ! 松戸ラリアットだ!』


 もう、どう落としましょうか、このストーリー?

 その時、救世主が現れた。


「おーい、何やってるのでござるか? 山の温泉街からA5ランクのランプ肉を貰ったでござるよ。これから焼き肉して食べるでござるが、忙しいのなら――」


「全然ダイジョウブデスじゃけーん!」

『今終わったところです旦那!』


 いそいそと、協力して後片付けに邁進する2人。



 最強は肉(A5)だった。

 

 

 

 

 

・商売

 とある暖かな昼下がり。


 イオタ邸横の、ネコ耳プロジェクト株式会社新社屋へ向かって一台の馬車が走っていた。

 乗っているのは新社長ヴェクター・イオタ。赤い髪がトレードマークだ。

 同乗者は新規のお客様、西の大商人・ジャコビニ商会の若き主、コリード商会長32歳であった。


「ジャコビニ商会長、あれが私の親、イオタの住まいです」

 白い壁にオレンジの屋根。イオタ邸を指し示す。


「ほほう! あれがネコ耳の勇者様の! 今やそのお姿も見る事はまれであるとか!? 少しでもお姿をと、わざわざ遠いところからやってきましたのに」

 馬車の窓から首を出すジャコビニ商会長。


 コリード・ジャコビニ。このお方、海運業も持ち、儲けているのにキッつい商売で有名だが、唯一の弱みがこれ。何処かで芝居を見たか本を読んだか。イオタを神と崇める新興宗教(藁)の信者だったりする。

 まあなんだ。イオタのファン。もしくはヲタク? 古い言い方でミーハー? そんな感じ。


「あれぇー!?」

 ヴェクターが妙な声を出した。窓から身を乗り出す。


「大抵留守なんですが、今日は珍しい」

「なんですか? なんですか!」

 釣り下げたエサにバックリと食らいつくジャコビニ商会長。


「あれ、イオタですよ。ほら、二階のベランダを見てください」

「え? え?! え!?」

 馬車の窓から身を乗り出す商会長。


 イオタ邸の二階。ベランダに黒い髪の女性が見える。本を読んでいるらしい。

 頭の天辺に三角の耳が!


「へー、凄いですね! 珍しいですよ! 商会長は余程イオタに縁があるらしい」

「縁ですか? 縁ですか!? 縁ですか!」

 興奮著しい。


「あっ! ミウラも顔を出しましたよ!」

「ミウラって、イオタ様の愛猫の? 一緒に西側諸国を旅し、魔王とも対峙したという!」

「そうです。そのミウラですよ」


 ベランダの塀にピョンと飛び乗った黄と白のストライプ。毛玉に見えるがミウラだ。

 てふてふと、塀の上を歩いてイオタに近づいていく。


「珍しいですよ! イオタとミウラのツーショットがこんな所から拝めるなんて!」

「ふんす! ふんす!」

 ジャコビニ商会長の興奮冷めやらぬ。


「あ、イオタがこっちに気がつきました! 商会長、手を振ってみますか?」

「ああっ! イオタさーん!」

 手も千切れよとばかりに振るジャコビニ商会長。


 その時! 奇跡が起こったッ!

 イオタがジャコビニ商会長に気づいたのだ!

 表情は解らないが、イオタが手を振り返してくれた。


「ああ、ああ! ウリャ! ヲイ! ウリャ! ヲイ!」

 ジャコビニ商会長の興奮冷めやらぬ。


「さて、ジャコビニ商会長」

「水くさいですぞ! 私のことはコリードと呼んでください!」

「あはは! では私のこともヴェクターと呼んでください」

「ヴェクターさん!」

「はい、コリードさん。今日の商談が成功することを疑っておりませんよ」

「私も、双方にとって良い結果が得られると確信しております」


 馬車は、ゴトゴトと車輪の音も軽くネコミミ(株)新社屋へと向かっていった。






「さて、こんなものでござろうかな?」

『商談が上手くいくとよろしいですね』


 薄い本を部屋の中へ放り投げるイオタ。

 ベランダの塀から、めんどくさそうに飛び降りるミウラ。


 仕込みである。


 イオタは大抵この家にいる。結構気軽に出張するイメージだが、実のところ、家で仕事をする時間の方が多い。今で言う、在宅勤務である。時代の先取り間が半端ない。


 ジャコビニ商会は、噂たわぬ渋くて保守的な商談相手であった。商会長がイオタのファンである。その事が、唯一の突破口だった。


『あとで、顔を出してみますか? あれだけ喜ばれれば、サービスの1つでもしてみたいですね』 

「いや、それはよそう。安売りはいけない。ああいう手合いはチビチビと小出しにするに限るでござるよ。さあ、撤収撤収!」


 椅子を片付け、いそいそと部屋に引っ込むイオタ。


『わたしとしては、新商品がウケルか否か。それが心配です』

「きっと上手く行くでござる。敵はすでにこちらの手中に落ちたでござるからな」


 商売がどんどん上手になっていくサムライであった。


  


そろそろ、ストックが……

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