*ミウラメモと、ネコのマウント
「ミウラメモ……? これは! ……なんだと?!」
「どうしました? ジェイムスン教授?」
今日も今日とて――、ジェイムスン教授が、「異世界ネコ歩き」の中身に驚きの声を上げ、助手のニール君が様子を伺うという図式が展開されていた。
「どうもこうも、『ミウラのメモに開発記録有り』という記述が見られるのだよ、ニール君! ミウラと言えば、イオタの愛猫!」
「もしや!? イオタが商品の発明や開発を綴った記録……では?」
2人して、目をまん丸に見開いて、なおかつ目と目を合わせている。
「これは、どえらい手がかりだ! 仮称『ミウラメモ』を発見できさえすれば、暗黒世紀で失われた技術の全貌が明るみに出る! 人類が、どれほどの時間を損失したか検証できる!」
「教授! 各界に多大な影響を与える大発見です! 特に宗教界が受けるダメージは計り知れません!」
「ニール君、これが表に出れば世界恐慌が起こるやもしれん! 世界大戦もあり得る! だから『ミウラメモ』は、極秘情報として扱っていこう」
「僕も賛成です。調べるにしても極秘で。これからはM文書とでも呼びましょうか?」
「そうしよう。それがいい」
「では教授、何か手がかりは?」
「それはこれから『異世界ネコ歩き』の解析次第だな!」
ミウラメモ。一体、何が書かれているのだろうか? それは何処にあるのだろうか?
謎が謎を呼ぶ展開である!
⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰
魔性石の迷宮から帰ってすぐの頃――
『魔導モーター、って書くと、口にするのも憚られる忌まわしきヌメっとした弾丸を高速射出する電磁砲の機関部みたいだな。魔動ポンプ……うーん、ホムンクルスの心臓でビクンビクンって擬音と共に使われていそうな雰囲気。むぅっ! これは問題ですよ!』
「いかが致した? ミウラよ」
イオタがミウラの研究所を覗いた。
ミウラが機械ゴーレム(オートマタ)の女郎奈(小柄な女性型・ボンテージ風、もとい……黒のレザーファッション)を使って、書き物をしていたのだ。
『ああ、旦那。こないだ採取した無属性魔性石を元にして、わたしが生きていた時代の機械製品を再現しようと構想を書き連ねていたんです』
「題して、ミウラ覚書でござるかな?」
『ただの落書き帳です。回転式干し魚自動製造器から、ぼくがかんがえたさいきょうのぶぐ、まで書き殴ってますからね。厨二病の魂魄なんで、とても人には見せられません!』
いわゆる黒歴史確定の自由帳だ。
「根を詰めるな。ネコの肩こりなぞ笑えんぞ」
『うふふ、それもそうですね』
そう言ってからミウラは、女郎奈にメモ帳をパタリと閉じさせる。そして机の上のブックスタンドへ乱暴に放り込んでおいた。
乱雑な扱いである。落書き帳なんだからそんなもんだ。
「おやつでも食べるか? そのあと散歩にでも行ってこい。運動せねば太るぞ」
イオタは、スモークした鳥のササミを持ってきていた。
『じゃ、効率的に散歩しながら、何処か風通しの良いところで食べてきます』
「そうしてこい。はい、お弁当」
イオタに見送られ、鳥肉を咥えたミウラは、トコトコと表に出て行った。
『タネラの青い海が見えて、開けていて日当たりが良いところ……ここだッ!』
お目当ての場所に、トテトテと走っていくミウラ。
そこには、先客がいた。
『なんだてめぇ!?』
ブチのボスネコと、その一派がたむろしていた。ブチネコの片目の上を走る三本傷が、このネコの戦歴を物語っている。
『あら、可愛い子ね!』
雌の黒ネコだ。姐さんタイプ。どこかしらイオタに似ている。
――勘の鋭い方はお気づきになられたであろうが、数年後、「あの」事件を起こす黒ネコご本人であった――
『気にいらねぇな、チビネコが!』
黒ネコさんが気に入ったのが気に入らない。この黒ネコさんは、ボスネコのお気に入りだからだ。
ちなみに……ネコは喋らない。ミウラのように言葉を持たないから。でも、アレです。何となく雰囲気で言いたいことがわかる。それを人間の言葉にすると、こうなるだろーなー、ってニュアンスで翻訳しています。ネコ好きな人はネコと会話できるって、誰かから聞いたことあるし!
『おいこらてめぇシャー!』
のっしのっしとミウラに近づいていくボスネコ。ボスを張るだけあって、なかなかの体格。体重はミウラの2倍を超えている。おまけにイカ耳で威嚇してきた。なんて恐ろしい!
自分の身に置き換えてほしい。もしも、あなたがネコだったら?
あなたの体格に倍する大きさのネコが、敵意を向けてきたとしたら? ネコは肉食獣。鋭い爪も牙も持っている!
某格闘技のタツジンが「ネコを相手にするときは真剣を持って対等となる」なんて言ってたって、誰かから聞いたことあるし。
『その肉よこせ!』
言うなり、ミウラに飛びかかっていくボスネコ。ミウラの顔面を爪が狙う。挨拶代わりのネコパンチを飛び越えた本気の一撃。この技でボスの座まで上りつめたのだ!
ミウラは、咥えていた鳥肉をポトリと落とした。
『身体強化! カウンターネコパンチ!』
ネコの短い前足同士が交差する。トラジマのクリームパンが、白いクリームパンの下をかいくぐる!
これはッ! 伝説のクロスカウンター!?
『ぶにゃん!』
弾き飛ばされたのは、もちろんボスネコ。一度二度とバウンドし、それでも体を捻り、四本足で着地したのは、ネコの持つ優れた身体能力のおかげだ。
戦闘再開!
ところがどっこい!
ミウラは、ボスネコの背に乗っていた。いわゆるマウント状態。
首筋に牙を立てている。
ボスネコはもう動けない。
『なんて速さだ! お、俺の負けだ……』
『ネコ風情が!』
お前もな!
『わたしは魔獣や吸血鬼と戦ってきたネコなのですよ!』
ボスネコは尻尾を巻き、身を縮め、敗者のポーズをとった。
『なんて強い茶虎だ!』
『アタシ、あの子の子を産んでみたい!』
『産むのはアタイよ!』
ボスの座、移譲が決定した瞬間である!
『お前ら、ご飯食べてないんでしょう? まあ喰え。シャンブロウ!』
鳥肉を放り上げ、真空斬の魔法で、人数……、猫数分切り刻む。
『有り難うございます。若ボス!』
口々に、もとい……雰囲気で礼を述べ、肉に貪り付くノラ達。ブチ猫も大人しく鳥肉を口にしている。差別の無いコミュニティー。それが新ボスのモットーであった。
『おいおい、ずいぶん景気が良さそうじゃねーかぁ?』
『俺っちにも分けてくれよ。分けてくれるよなぁー!』
乱入者……乱入猫である。これまた強そうなのが5匹、猫肩を怒らせ歩いてきた。
『くっ! 現在係争中の半グレ共だ。若ボス、気をつけてくだせぇ。あいつら強ぇですぜ!』
元ボスが身構え、イカ耳で威嚇した。
『たかがノラの5匹や10匹。家飼の敵じゃありません(意味不明)……よ?』
ぐわし!
ミウラの背中を太くて鋭い爪が掴む。
『おおっ!』
そして浮遊感。
『なんですかな? 鳥? トンビ?』
第三勢力の介入。大型の猛禽類に捕獲された模様。
ネコ達は一斉に散らばって逃げた。この俊敏さ、見ていて清々しい。
『でも上空からだと、誰がどこへ逃げたかって一目瞭然なのな!』
落ち着き払ったミウラ。先ほど掛けた身体強化の魔法が、持続しているからでもある。
最大の理由は――
『紫賢者!』
攻撃力の存在。
緑に光る魔法の茨が、仮称トンビの全身を覆い、空を飛ぶ自由を奪った。それでもどうにか飛び続ける仮称トンビ。さすが空に生きる者。空はいいぞ!
だが、がんばりもここまでだった。
『電撃!』
「ピギッ!」
神経を麻痺させ、筋組織を焼く高圧電流の前には歯が立たなかった。
自由落下体制に入ったトリとネコ。
『夙流・飯綱落としぃッ!』
二つの体が地面に激突した。ミウラはトリの体を緩衝材とし、墜落の衝撃から逃れた。その際、前足の肉球をトリの顎に添えることでトリの頭骨を粉砕。
完全勝利である。
……そんな面倒くさいことせずとも、ミウラは空中浮遊のスペルを持っているのだが……
トリの死体の横で、乱れた毛を毛繕いしはじめるミウラ。勝者の余裕。
一旦散ったネコたちが戻ってきた。
『す、すげぇ。若ボスTuee!』
『なんてネコだ! 俺たちはあんな化け物みたいなネコに喧嘩吹っかけたのか!?』
『おお! でんせつのまおうですらかなわないであろう!』
元ボスはミウラの強さを再確認。5匹グループの野良猫は、服従の姿勢をとる。
『あ、あのう、若ボス……』
恐る恐る切り出す元ボス。
『どうしました?』
『この鷲なんですが、貰っていいですか?』
『え? これ鷲だったの? トンビにしては、足が太いなと思ったんだ。ああ、みんなで分けて食べると良いさ』
元人間であるミウラは、鳥の生肉を食べられない。捕らえた獲物をノラたちに譲渡するのは当然のことである。
『さすが若ボス! 太っ腹!』
『ご相伴にあずかります!』
たちまちのうちに飛び散る羽毛。ゆっくり毛繕いしてるミウラ。
今この時より、ここら一帯のネコたちを締める事となったミウラであった。
最強ボスネコ、爆誕!
『アタシ、あの子の子を産んでみたい!』
『産むのはアタイよ!』
件の黒ネコ姐さんとサバトラ娘、2匹の雌ネコがミウラを取り合っていた。
『産む産むって、わたしは美少年か美少女しか相手にしないというのに。最低でも二足歩行じゃないと』
などと、えらそーにほざいてますが、これより数年後、イオタ似の黒ネコとナニする運命が待っているのですよ!
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「でも教授。なんでネコの名前のミウラメモ?」
「さあ、そこまでは……」