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*だんじょんあたっく.6-5 8階層

「うぉおおーっ!」


 複数の野太い声と共に、天井の魔法陣よりドサドサボキリと落ちる者共。重武装の重量体。チームイオタの面々だ。


 ――華奢な体つきのイオタを一番下にして――。


『あれ? 今のボキリって音、イオタの旦那から聞こえてきたような? 何処ですかイオタの旦那?』


 薄暗い部屋だ。まるで日が暮れてしばらくの薄い闇。薄ぼんやりと人物が見える程度。ネコのミウラはすぐ視界を得たが、人間達は目がまだ慣れていない。


『旦那!』

 ミウラは見つけた。重装甲タンク役の下敷きになっているイオタを。


『メディカルサーチ! 破損反応有り! 肋骨2本骨折! 重傷じゃないですか!』

 イオタに意識がない。頭も打ったようだ。


『直ちに回復魔法!』

 ミウラは、イオタの懐に飛び込んで治癒魔法を発動した。


「イオタさん! 大変だニャ!」

 続いて気づいたのはサンダー。ミウラに遅れる事数秒で目が慣れた。さすがネコ耳族。


「どけ! タンク! イオタさんが下敷きになってるぞ!」


 ミウラが発したオリジナル治癒魔法の副作用で、患部が光を放っている。ジャンが、それのおかげで、ぐったりしているイオタを見つけられたのだ。


「お、俺のせいで!」

 飛び降りるタンク(名前が偶然タンクだった。全くの偶然である。他意は無い!)。顔から血の気が引いてしまっている。


「ラーダ! マイリーさん! イオタさんの手当を!」

 叫ぶジャン。2人の回復役がイオタに取り付く。バルテルスはイオタの脈を確認していた。


「ジャン君、イオタさんは自力で回復しています。それもかなり高位な回復魔法を使って。私達が余計な干渉をしてはいけません!」

 バルテルスのパーティーに所属するマイリーが、ラーダの治療を制止した。


「2人はイオタさんに張り付いて! 状況確認! 戦闘!」


 ジャンの指示で、360度監視体制を取る2つのパーティ。続いて、各々武器を抜き放つ。ここに指揮権がどうのといった争いは無い。良いチームワークだ。

 ぱっと見、何も無い。気配も物音もしない。薄暗がりで先が見えないのが難点だ。


「ジャンさん、あれを」

 サンダーが視線を送る先。


 そこには、うずたかく積まれた冒険者の装備。ここまで来た冒険者の遺品だ。ここには何かが棲んでいる!


 ようやく、人間達の目が暗がりになれてきた。

 広さは7階層より一回り小さい部屋。どこにも出入り口は無い。天井に魔方陣が描かれているだけ。


「なんだ、ここは?」

 ジャンの手がかってに動き、額の汗を拭った。


「出口は無いか? モンスターはいないか? おそらく、ここが迷宮の(ダンジヨンマスター)の部屋だ!」


 立て続けにジャンが指示を出す。先にイオタに取り付いたのがバルテルスだったので、そちら担当がバルテルス、現場指揮がジャンといった指揮棲み分けが、自然と成されたのだ。


 そのジャンの裾を引っ張るサンダー。微かに目が光っている。ネコ耳族の暗視能力だ。

「ジャンさん! あそこにモンスターがポップしたニャ!」

「臭いが……(オーガ)の臭いニャ。恐いニャ」

 兄の後ろに隠れているルチアだ。


 冒険者全員が、サンダーの指指す方向へ武器を構えた。プレートアーマーを纏うタンク役が、大型の盾をガシャンと押し立て最前面に出る。スカウト達が弓をつがえ、ギリギリと弦を引き絞る。魔法使いは攻撃呪文(アタツクスペル)を唱え、ビリビリと余波を撒き散らす。回復役はピカリと光玉を放ち、身体強化系の魔法を皆に掛けた。


 その準備を待っていたかのだろうか? タイミング良く暗闇からヌッと出てくるオーガー。


 赤黒い体色。側頭部に角が二本。分厚い胸板。丸太の様な手足。筋肉質だ!


「でかい!」

 誰かが声にした。


 オーガの身長は、3メートル。二足歩行動物としての身体限界を超える。

 体重はいかほどか?

 そんなのが大剣を手にしている。


「オーガの特殊体か?」

 スカウトの1人が、ぼそりと口にした。

 すくんでいる。


 これはいけない。ジャンが声を張り上げる。

「ビビってんじゃねーぞ! チーム・イオタの意地見せろや!」

「おうっ!」

 みんなの声が合わさった。

「軽く捻ってやろうぜ!」

 バルテルスもここに加わる。


「アタック!」

 ジャンの号令一下、戦闘が開始された!



 まずは弓が飛ぶ! 的がデカイしこの距離だ。外す方が難しい。


 オーガは体を揺らすだけでこれを回避。

「え?」

 バルテルスまでもが驚いた。


 相手は巨体だ。そんな動作だけで矢から逃れるはずがない。

 実際の所、足まで使い、目にもとまらぬ高速で動いたのだ。


 それをジャンが見抜いた。

「あいつ素早いぞ!」

 その声を理解したのかしてないのか、オーガがニッと笑う様に口を歪め――


「がッ!」

 大型の盾を構えていたタンク役二人が吹き飛んだ。


 タンク役がいた場所にオーガが立ち、冷たい目で皆を見下ろしている。

 体当たりで重量級のタンクを吹き飛ばしたのだ。それも二人まとめて!


 素早すぎる。パワーがありすぎる。重たすぎる!

 だが、そこは剣の間合いだ!


「ハッ!」

 ジャンが必殺の突きを繰り出す。魔剣は脅威の+3!


 オーガの脇腹を抉って振り切った! ……かの様に見えた。

 実際は脇腹を浅く掠めただけ。


 またしてもニヤリと笑うオーガ。


「わざと脇腹を掠めさせたな! 見切りか!」


「俺が相手だ!」

 正面上段から、切っ先ギリギリで引っかけようとしたのはバルテルス。オーガは見切りを使い、髪の毛一本の差でスエイバック。だが、それがバルテルスの狙いだ!

 剣を振り切らず、大きく一歩踏み込み、逆袈裟で跳ね上げた。これが本命!


 ――だったのだが、ハズされた。


 オーガは、逆袈裟の動作を見てから回避した。


 何という俊敏さ! 何という動体視力!

 続く連撃も、笑みを浮かべながら、軽々と回避。


 ジャンが連撃に加わった。初めてだが連携は取れている。オーガにとって止まることのない連撃が加えられつづける。

 これをすべて(かわ)した。


 二人の連撃が止まると魔法の集中攻撃。爆裂系の炎弾による連続砲撃。魔法使い二人だからこその合わせ技。

 光と音、振動と爆風。

 すべてオーガの「残像」に着弾。


「何食えばここまで素早く動ける様になる!?」

「人を喰ってるんだろ!」

 ジャンとバルテルスの冗談は笑えなかった。


 ここに、立ち直ったタンク役二人が戦列に戻った。二人して盾を構え、オーガに体当たり!

 まともに食らったオーガであるが、僅かに足を滑らせただけで踏みとどまった。わざと受けたか!


 腕を一振り。それだけで、またしても吹き飛ぶタンク役2名。なんという豪腕!

 オーガは目を細めて笑い、おいでおいでしている。


「ヤロウ!」

 この挑発に、冷静沈着なバルテルスまでもが頭に血を上らせた。


 8人全員による総力戦! 

 これをすべて受けきるオーガ!


 気がつけば、タンク役二人は倒れていた。盾は粉砕済み。自慢の鎧もベコベコ。それでも立ち上がろうと足掻いている。

 魔法使いと回復役は、魔力を最後の一滴まで使い果たし、息も絶え絶え。スカウトは、とうに床へ転がっている。


 サンタルチア兄妹は、倒れているイオタにしがみついて震えていた。可哀想に。


 ジャンもバルテルスも息が荒い。握力が低下している。喉がカラカラだ。


 オーガは、――足取りも軽く、踊るように冒険者達の周りを回っていた。体力にまったく衰えは無い。汗すらかいてない。


「こうも実力が違うとは!」

「くっそ! 俺たちを殺そうと思えば、すぐに殺せるはずなのに!」

「遊んでやがる」

「いや、なぶってるんだ」  


 戦闘開始から5分と経ってない。すでに8人パーティは全滅の危機に瀕していた。

 ジャンとバルテルスの2名が全力攻撃を繰り出せたとして、あと一撃分だけだろう。


 オーガの動きが止まった。飽きた、とか、この辺までかな? とかいった雰囲気を纏っている。

 オーガは長剣を肩に担ぎ直す。初めて剣で攻撃するか?

 とどめを刺す。ゲームを終わりにする。その決意の表れとみた。


「来るぞ!」

 どちらからともなく声に出す。二人は覚悟を決めた。


 こうなったのも、自分たちが最下層攻略を言い出したからだ。余裕ぶっこいてたからだ。

 イオタさんは嫌がってたのに……。

 俺のせいだ。

 後悔しきり。


「俺が剣を体で引き受ける。ジャンは、アレ斬っておいてくれ」

「それ難しいっすね、先輩」


 双方の気が高まっていく!


 最高点に達する直前! オーガの気が逸れた。


 足を半歩、後ろに下げる。二人から視線を外す。

 オーガは、どこを見ている?


「むう、まだちょっと引っかかりを感じるでござる」

 そこには……右腕をゆっくり回すイオタが――立ち上がり、こちらに歩いてきている。


「「イオタさん!」」

 二人の声が重なった。


 

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