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15.役所 でござる


 スベアの城門前にて並ぶこと暫し。

 列は進み、某たちの番となった。

 全員馬車から降りる。


「毎度お世話になっております。ビラーベック商会の行商人、ミッケラーで御座います」


 ミッケラーは小ぎれいな服を着た男に腰を低くして挨拶している。この者は関の役人であろう。

 役人の背後で、……西洋の鎧だろうか? 戦支度の武者が二名、槍を手にし、旅の者達に睨みを利かせている。


「ミッケラーじゃないか。今回はずいぶんと早かったな。おや、そちらは? 長物を持っておるな!」


 役人は緊張しおった。某が担いでおるバルディッシュを警戒しておるのだろう。

 目深に被っていた編笠を外して挨拶をする。


「や、ご安心召されよ。これは道中の用心の為に持っているだけに過ぎぬ。必要とあらば、すぐに手放す所存」

「その耳、その尻尾! ネ、ネコ耳族か!?」


 バルディッシュではなく、ネコの耳に興味があった模様。驚いておる。

 そうえば前の村長が申しておった。ネコ耳族の子供は攫われ、大人は迫害を受けると。

 某、大人故、言われ無き迫害を受けるのであろうか? 後悔先に立たずとはこの事か!


「ネコ耳族の美少女イオタさんです」

「拙者イオタと申す者。故あってミッケラー殿と旅をしておる。人に対し害意は持ち申さぬ」


 役人は固まったまま某の耳を見つめておる。

 周囲の空気もザワザワしだした。

 不味いな。逃げるか? と思った時。


「か、可愛いー!」


 声の主は役人の後ろで控えておった鎧武者からだった。

 これは意外だ。驚いた。


「にゃ?」

 思わず漏れた口を両手で塞ぐ。


「おおおお、萌えるでごわす! 萌えておいもした!」

 イセカイで薩摩弁? いや、たしかに薩摩は異世界であるが?


「イオタちゃんっていうの? スベアの町へようこちょ。この町に(ちゆ)むのかい?」

 なにゆえ赤ちゃん言葉?


「いずれ海を渡るつもりであるが、しばらくは厄介になるつもりだ」

「やっかいだなんて! そんなこといわず、ずっといようよー! おじちゃんね、おいしいおさかなをたべさせてくれるおみせをしってるんだよ。こんどあんないしてあげるね。あ、おじさんのなまえは――」

「入町税は500セスタでしたね。二人合わせて千セスタ。ハイ、お支払い致しました。問題ありましたか? 無いようでしたら通らせて頂きますよ。それでは御免ください」


 馬に鞭を当て、無理矢理門を通っていくミッケラーである。

 旅人達や鎧武者までもが、目尻を下げて手を振っている。某に向けて!


『外見がとんでもない美少女の上に、ネコ耳とネコ尻尾で武装してますからね。高硬度の貫通力ですよ。業界人にとっては』


 このネコ耳がどのような殺傷力を持つのかは別の機会に話し合うとして……、

 ……某の中身は二十五を越えたむくつけき男でござるよー。

 でもそれは言わない方が、平和に貢献できそうな気がするでござる。


「イオタ様は、人攫いに気をつけるべき尊い存在で御座います」

「うーむ、外見が子供に見えるでござるか?」

「怪しい男が近づいてきたら、躊躇無くバッサリやってください。お腰の物で」


 はっはっはっ! ミッケラーも冗談がきついのう。


 

 バルディッシュを荷台に放り込み、馬車上の人(ネコ耳付き)となってスベアの城門をくぐる。

 くぐり終えると……光が……。

 迫力ある風景が広がっていた!


 門より続く大通りは広く、道の両側に店が並ぶ。

 見たことの無い商品が並び、初めて見る食べ物が売られていた。


「あ、あれはニャンだ? 良い匂いがするぞ! あれの匂いか?」


 指さす方に、茶色い棒状の物が釣り下げられている。それに水を掛けているのだ。


「ああ、あれは揚げパンですね。パンに熱した油を掛けた物です。外はカリッとして甘く、中はふんわりとしたパン。私も大好きですね」


 油をパンにかけているのか? 天ぷらでは無く? いや、パンの天ぷらだ!

 その他にも赤い果物が山のように積んであったり、牛の太ももほどもある生の肉が吊られていたりする。

 人も大勢で賑わっている。凄い町だ。


「イオタさん。この町で驚いていてはいけませんよ。この町は港町なので栄えている方ですが、海を渡った先の大陸だともっと大きな町がありますよ。特にゲルムの王都なんかはここの比じゃありません。10日掛かっても町を一周できませんよ!」


 江戸の町より大きいのだろうか? さすがイセカイ!


「さて、まだ日も高い。宿を取る前に懸賞金の手続きに参りましょう」




「賞金は役場で受け取ります」


 連れてこられたのはスベアの町役場。

 大層な作りの扉を開け、中へ入る。


 板張りの床。天井が高い。

 対面の壁に小さな窓がついている。役人らしき者どもが、壁の向こうで仕事をしている。窓を通して対応する様式らしい。

 用心深いといえば聞こえが良いが、この備えを採用しておるという事は、それだけ狼藉者が多いと言うことの証であろう。


 現に、油断の出来そうに無い男共が幾人かおる。破落戸(ごろつき)であるか? 全員、簡素な鎧に大型の武器で武装しておる。

 幾人か心眼で覗いてみた所、皆して「武力」が五より上である。


 さて受付であるが、幸いにも空いていたので、待つこと無くミッケラーが窓口に立つ。

 対応して頂いたのは簾禿のオヤジ。口ひげでも生やせば貫禄の一つも出てくる面相である。おしい!


「はいはいはい、っと。そことこことあそこにサインして頂いて、はい! これで書類は完了です。ではこの番号札を持って5番の窓口で書類を受け取ってください。その書類を15番の窓口に提出すると番号札をもらえますから、23番窓口で番号札と賞金を交換してください」


 ……複雑な仕組みだと思ったのは、某の頭が悪いからであろうか?


「役所って、こんなものですよ。メモを用意しておけばどうって事ありませんよ」


 ミッケラーは役人の扱いに慣れておるようだ。頼りにしておるぞ!

 ミッケラーの案内により、某は迷うこと無く二十三番窓口へたどり着けた。


『良い散歩になりますね』

 いつもは懐に潜り込んでいるミウラだが、先ほどから某と共にトコトコと歩いている。


 役所はネコ同伴でも問題ないのだろうか?

 ないようだな。


 窓口担当は、小股の切れ上がった女子であった。生前の某と同い年であろうか?

 艶のある栗髪が美しい。出来る女子って感じ。好みだわー!

 どうにかして某とお付き合いする方向へ持って行けないだろうか?

 同性ということを利用して……どう利用すれば良いのか思いつかぬっ! 無念!


「それでは賞金10万セスタです。お確かめください」

「では遠慮無く」


 ミッケラーが数えていく。使い勝手が良いように、銀貨中心で金貨が幾つかと銅貨が幾つかに割ってもらった。

 あと、イセカイの貨幣を憶える為、全種類の貨幣を混ぜてもらった。

 小銅貨、銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の六種類。種類が多すぎないか?


『貨幣経済が発達しているようですね。それに紙の流通量も多いようですから、産業革命前後のイギリス並みのレベルであっても可笑しくないんですが。なぜ中世初等から半ばのレベルなのかが解せません。あるいは魔法の存在が影響しているのか?』


 ミウラが難しいことを考えている。博士だからね。難しいことはミウラに任せよう。某は結果だけを聞けば良い。


「たしかに10万セスタ頂きました」

「ついでだミッケラー殿。その方の公証人としての取り分、三割をそこから抜いておいてくれ」

「では遠慮無く」


 ミッケラーは慣れた手つきで大金貨から銀貨までを割合よく分けていく。これを懐に入れれば仕事が終了となる。古い旅が終わり、新しい旅が始まるのだ。


「あのー、ちょっと……」


 小窓の向こうから賞金を渡してくれた女子が、引き気味の声で話しかけてきた。

 ひょっとして、某にお話があるとか!? 「仕事が終わったら、ちょいとお酒を引っかけないかえ?」とか?

 いかん! 上に乗って欲しい! どうしよう!


 いや待て! 声を掛けた相手はミッケラーかも知れぬぞ!

 こやつ優男だが、女にもてないと言うほどでもないからな。

 気持ちがしゅんとなる。


「そこで耳を萎らせているネコ耳族の女の子! あなたにお話があります」


 某であるか!? 


「今夜はあいています!」

 脳以外のどこかが勝手に反応し、口を開かせてしまった。


「あなた何を何を言ってるの?」

 眉をキュッと寄せる仕草が何とも色っぽい。結婚できないだろうか?


「あなた、田舎から出てきましたね?」


 受付の女子が某を見てから、ミッケラーをきつい目で睨み付ける。

 何故かミッケラーが渋い顔をして天を仰いでいる。


「騙されてますよ!」





 だれに?



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