*だんじょんあたっく.6-3 冒険者達
ダンジョンに潜るイオタの装備は以下の通り。
鞣し革のズボンにシャツ。要所要所に鉄片を縫い付けてある。いわゆるソフトレザーアーマーの改造版。厚めの皮で作った胴巻きと、いつもの手甲脚絆。
頭には、自転車のヘルメットっぽい穴だらけの軽鉄兜。耳がピョコンと出ている。これは北の要塞にて、警邏部隊の夏季第二種装備として正式採用されているものだ。
武装は腰に大小二本。それと、魔晶石を掘り出す為の熊手(潮干狩りで使うアレ)。
背に、ミウラを乗せる工夫がされた背嚢を背負う。中は水と食料、エトセトラ。
「では参ろうか」
日の出直前に、ダンジョン前で待ち合わせ。
一番に来ていたのは、サンダーとルチアのネコ耳兄妹。
そして、冒険者ギルド・エピロス支部が用意した冒険者パーティー。2組8人。どちらも、Aランカーだけで構成されている。
一組は、日の出の勢いでAランカーに登りつめた若者達で構成。
もう一組は年配の者達。ベテランAランカーで構成されていた。
この2組、一目でトップランカーとわかるオーラを放っている。2組ともフル装備。上質の防具に魔剣持ちばかり。
『予算オーバーですぅーッ!』
「ちょっと待つでござる! 予算はご存じでござろう? いいところB級の食い詰め1組を雇えるか否かの額でござる。むしろ、貧乏冒険者の救済を目的としていたのでござるよ! A級を2組も、それも上級を雇える程の額ではござらぬ!」
『完全なるオーバースペック! いったい何と戦うつもりなんですか?!』
慌てふためくイオタとミウラ。
「いやいや、ご安心くださいイオタさん」
にこやかに話しかけてくるのは、ベテラングループのリーダー。
「俺たち2組とも、予算内で働きますよ。むしろ、お金は逆に払いたいくらい」
「そうです。伝説の勇者イオタさんとパーティーが組める。その名誉が頂けるなら、報酬は要らないと思っています!」
もう片方、若者のパーティーリーダーまでも、にこやかに話しかけてきた。
「俺らなんて、事情を先契約者に話したら、こっちを優先しろと。そんな訳で、イオタさんは何も気にする必要はありません!」
2組とも、イオタの仕事に選ばれて胸をときめかせている。そこにネコ耳兄妹からの、お目々キラキラ攻撃。もう逃げ道無いぞ!
「この名誉、勝ち取る為のバトル……もとい、権利を手に入れた我ら。命に代えて任務を遂行します! イオタさん、どうか大船に乗ったつもりで、ダンジョン旅行を楽しんでください」
8人が戦闘オーラ開放。それに怯え、鳥の大群が、羽音を立てて飛び去っていく。
『あれ? 気のせいかな? 彼らの武器から血の匂いがするんですけど』
ミウラが指摘した通り、裏では希望者によるトーナメント戦が行われていたのであった。
イオタ達は知るよしも無いので、まったく問題が無い。健全な選抜であった。
で、簡単に自己紹介。
若者のパーティー名は「鋼の伝説」。売り出し中の新鋭で、最も勢いがある。戦闘力において右に出る者無し!
リーダーは戦士職のジャン。脅威の魔剣+3持ち。防具は+1だ。
ベテランのパーティー名は「蒼天の猛者」。ダンジョンを知り尽くしたプロ。別名プロフェッサーとも呼ばれる。最近など、無傷の連続生還記録を伸ばし続けている。
リーダーは、騎士崩れのバルテルス・バッフ。貴族の三男坊。+1の魔剣持ち。防具は+3のレア。エピロスの、冒険者達のまとめ役でもある。
両者とも7階層複数回到達者であった。
『むしろこう考えましょう。身の安全は保証されたと』
「某より強い人がたくさん! ありがたや、ありがたや」
イオタに至っては拝みだした。
「こっちは荷物持ちのサンダーとルチアでござる。同族のよしみ。皆、可愛がってやって頂きたい」
ネコ耳族の子どもに対し、頬を緩める歴戦の冒険者達。ほっこりほっこり。
一行は、早速ダンジョンへ突入。
前衛は新鋭「鋼の伝説」。真ん中にイオタとネコ耳兄妹。後衛をベテラン「蒼天の猛者」が努める。
早速、モンスターが出現。ゴブリンが5匹。
これに「鋼の伝説」が対応する。「蒼天の猛者」は、お手並み拝見といった顔でただ見ているだけ。
斥候は、ゴブリンを事前に察知。無言で矢をつがえる。姿を現した時点で矢が飛んでいた。間髪を入れず抜刀した戦士2人がゴブリンの間合いに侵入。怯んだゴブリン5匹は、たった二人の戦士に切り捨てられて終わり。
イオタ達後続組は、歩みを止る事なく進んでいく。
手際が良い! さすが選抜精鋭のAクラスチームである。イオタとミウラがダンジョンの余韻に浸る間なし!
ここで、前後のチームを入れ替え。ベテランの「蒼天の猛者」が前衛に出る。どうやら、一回戦ごとにチームの入れ替えというルールが、両者の間で取り交わされていた模様。
ネコ耳の勇者イオタに対する、俺Tuee!アピールを公平とするものらしい。
さて、一階でポップするのはゴブリンを中心とした小物ばかり。トップクラス2組がガッツリ組んだAランカー達の敵ではない。モンスターを事務的に片付けていくAチーム達。ドロップアイテムを片っ端から拾っていくサンタルチア兄妹。一生懸命さがいじらしい。このように、まったく歩みを緩めることのない、快適なダンジョン探索であった。
一行は、滞ることなく最短距離で、1階層中央へ。
最後の角を曲がれば視界が開けた。広いフロア中央に小山。直径、高さ、共に3メートル程の小さな円錐形である。その表面に、透明な小石がポツポツと顔を出している。
『旦那、無属性の魔晶石です』
「うむ」
Aクラスチームが散開。小山に向かうイオタを守るべく配置につく。これだけでもイオタの能力を凌駕しているッ!
「魔晶石の鉱山、みたいなものでしょうか」
バルテルスが、小山の表面を爪先に鉄板を仕込んだブーツでガツガツと蹴った。
「この下、2階層の中央。つまり、この真下ですね。太い柱が生えてまして、もう少し多くの魔晶石が顔を出していますよ。さらに3階、4階と、6階まで徐々に太くなって貫かれてるんです。まるでこのダンジョンを支える柱の様に」
「まずはよく見よう」
イオタが、魔石を利用した提灯のスイッチを入れる。新しい家紋、ネコ三つ巴が入れられている。
「うわー!」
ルチアちゃんが小さな声をあげた。
白い提灯の光を反射して、魔晶石が輝きを放つ。幻想的な綺麗さだ。
冒険者達は魔晶石より、イオタが手にした風変わりな提灯に傾注していた。
バルティスの解説が続く。
「昔は赤とか黄色とか、属性魔晶石も埋まってたらしいけど、先駆者が掘り尽くしました。残ってるのは屑みたいに小さい無属性だけです」
じっと見つめるイオタとミウラ。
『あそこのが一番形が良さそうですね。取り敢えず、あれ一個掘り出しときましょうか』
「うむ。サンダーとルチア。それを掘り出してくれ」
「はいですニャッ!」
熊手を持ったネコ耳兄妹が、ガシガシと掘り出していく。
「思ったより早く着きすぎました。イオタさん、これからどうします? 時間も戦力もまだまだ余裕です。どうせなら、もう少し下の階へ潜りましょうか? 魔性石もここより多いですよ」
暴れ足りなそうな、あるいは、アピール不足を感じるジャンが、先に進むことを進めてきた。
「どうするミウラ? 一応、目的は果たしたが? ミウラ?」
ミウラがじっと黙り込んでいる。何かを考えているようだ。
『さっきのバルテスさんの言葉にちょっと引っかかってまして。魔晶石の柱があるのは6階まで。でもここは7階がある。7階は柱が無い。柱の無い7階、そのワープゾーンに何らかの意味があるのでは? と、考えてしまいまして』
「それもそうでござるな。冒険者も余力を残しているし、行けるところまで行くか?」
『そうしましょう。「命大事に」で』
そんなこんなで一行は、時間が許される限り、下の層へ降りることとした。
……まさか、あのような大惨事に見舞われるとは露知らず。
『旦那の運が1だったことを失念しておりました』