*だんじょんあたっく.6-1 理由
「ニール君、ニール君! イオタがダンジョンに潜ったという記録が出てきたぞ!」
「なんですって! また新しい発見じゃないですか、ジェイムスン教授!」
今日も今日とて、新しい発見があったようだ。いつも通り、興奮している2人。そのうち血圧が下がらなくなるぞ!
「教授! もしや! あのルバール博物館に収納されている、黒紫魔性石の一件では!」
「勘が良いぞニール君! 私の推察が正しければ、黒紫魔性石は、イオタが魔性石のダンジョン最深部より持ち帰った逸品である! やはりあの迷宮はイオタによって完全攻略されていたのだ!」
「考古学界と美術界に一石を投じることになりますよー!」
「うむ! 色々な仮説に裏付け、並びにつじつまが合ってくる! 暗黒世紀以前の時代に、どんどん光が差していくぞ、ニール君!」
「良かったですね教授! どれもこれも『異世界ネコ歩き』を見つけたおかげですね!」
「我々もイオタの強運にあやかりたいものだ!」
残念ながらイオタの運は(rya
⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰
これは、イオタとミウラがタネラに腰を落ち着けてから、さほど年数が経過しない頃のお話である。
ゼファ何とかや、チャトラの子ネコはまだ居ない。
「ほほう! これは便利な提灯でござるな!」
イオタが手に取っているのは、提灯型のランタン。
発光部のガワを取り囲んでるのは、日本人におなじみの、紙と割竹製のアレだ。丁寧に「御用」の文字が(漢字で)墨痕鮮やかに書かれている。ちなみに弓張り型(時代劇で現場へ向かう木っ端役人が持ってるタイプ)である。
『無属性魔晶石をエネルギー源、えー、蝋燭の蝋として、蝋燭の芯に相当する合わせ金属を発光させています。根元のスイッチ、えー、ポッチリを回す事で、光をつけたり消したりできる簡易さが最大の特徴です』
「ほほー」
イオタは、スイッチを回して遊びだした。
『魔晶石は屑でも使えます。むしろ細かい屑を複数使用する方が、大きいのを一個使うより効率的なのです。魔晶石の質量を100として、100の魔晶石1個より、10の魔晶石10個の方が高出力なのです。おそらく、魔晶石の表面積が関連してくるのだと思います……が、サンプルが尽きたので、研究はここで頓挫しています。研究する上で邪魔なのはなんだ!? そう、法律だ!』
「なるほど! そうきたか!」
眉を寄せ、深刻な表情で頷いているイオタであるが、まったく理解していない。
それには慣れっこなミウラは「魔晶石のこと知ってますか?」などとは聞かず、優しくスルーする。イオタの悪いところより、良いところをいっぱいいっぱい知ってるからだ。
『魔晶石は属性により、幾つか種類がございます。火属性の赤とか、風属性の青とか、水属性の黒、土属性の黄色などですね。わたしは無属性と分別する為に、それらをカラード、えーっと、色付と呼んでいます。無属性は無色透明なのでクリアー、えーっと、透明色とでも呼びましょうか?』
「それは解りやすくて良いな!」
ここは付いて来られた模様。色の呼び名だからね。イオタにも解る。そこまでバカじゃない。
『でもって、この提灯の様に、魔晶石を単なる電池代わり、えー、蝋や菜種油代わりに使うには、カラードが持つ特殊な性質が邪魔なんです』
「蝋に色が付いてると、何かと煤けるものな!」
大筋で外れていない。けど、ホントに煤けますか?
『カラードは、属性魔法をダイレクトに使えますので、冒険者達に重宝されているようです。一方、クリアーは多種多様な使い方が期待されます。魔力の補助とか、予備タンクとか。クリアーの魔力をワンアクション踏んで、えーっと、一旦間を開けて、攻撃魔法に変え、敵にぶつけるとかも簡単ですし。無属性だったら、火魔法も水魔法も、属性に関係無く使えるという利点があります。まさに千変万化。ふんす!』
ミウラは、台詞が長くなるという特性を持っている。受動者は、早めに本題へ移るよう誘導せねばならない枷を負う。
「でもってミウラよ、何か言いたいのではないか?」
『さすがイオタの旦那。わたしの生前、未来の世界では、石油及び電気エネルギーが生活ラインを支えておりました。石油・電気エネルギー文明と申し上げてもよろしいかと。これらエネルギーに乗っかった便利な機器が、未来の生活・文明を支えております』
「うむ、その話は何度か聞いた。未来では馬車無し馬が走っているらしいな」
『それは普通に馬ですね。えー……馬無し馬車のことでしょうか? それはもといして、石油・電気エネルギーをベースにした機器なら、開発が簡単って事です。モデル、えー、前例があり、それを実際使ってましたからね。これは大きな商材のタネになりますですよ!』
「その話乗ったでござる!」
『問題は、魔晶石の入手ルートでございます。我々がコネを持つパトレーゼ商会は魔晶石を取り扱っておりません。独自に入手ルートを構築する必要があります。それと、魔晶石の専門家に意見を聞きたい』
「うーん、気乗りしないが、専門家ならエランの伝手を辿ってみるか? マンモルテルも裏の伝手を持っていそうでござるなぁ? 専門家なら、流通経路にも詳しいだろう。よし! 善は急げ。さっそく動くとしよう!」
『その謎をあかすべく、我々ネコ耳探検隊はアマゾンの奥地へ向かった』
でもって数日後。
イオタとミウラは、魔晶石に詳しい老魔法使いと面会していた。お弟子さんを大勢とっている有名人だそうな。
イオタは権威に弱いタイプなので、妙にヘコヘコしている。ミウラは先生と付く人種が嫌いなタイプなので、最初から斜めに構えている。全体としてバランスが取れていよう。
さて、ひとしきり、ネコ耳の勇者を褒め称えられ、ヘキヘキしてから本題へ入る。
ハゲ・なまず髭・固着・権威だいしゅき、の老魔法使いは、勇者イオタにレクチャーする機会を得たことで、大いに意気を上げていた。政治的に利用する気満々である。鼻息も荒い。
「魔晶石は大きければ大きい程、威力・効果・使用時間が長くなります。ふんす!」
『表面積の変数に気づいてませんね、このハゲ!』
聞こえないことを良いことに、言いたい放題のミウラである。
「うかがいたいことは、無属性魔晶石の主な使用用途、特性と、格安入手ルートにござる」
魔晶石の専門家は片方の眉を歪め、なんで? って顔をしたものの、親切に教えてくれた。
「そうですなー」
もったいぶる魔法使い。中華風なまず髭を指で整えている。
「まず一つ目のご質問に関して――」
斜めに構え、指を一本立てる。
『旦那、あの指、へし折ってやってくれませんか?』
「拷問は最後の手段でござる」
両名とも、イラッと来てる模様。
「無属性魔晶石の使用用途は、これといってございません。無属性に魔力を込めても、具現化しませんので使い道はニッチとなっております。魔晶石より魔力を引き出すため、専用の呪文と詠唱の時間が必要となりますので、使い勝手は大変悪いのです。これで、魔晶石の魔力を魔術師の身に移せるなら大いに有効なのですが……様々な理由があり、そうは上手くいきません」
『……あれ?』
ミウラが小首を傾げた。使い方を間違っているのでは、と?
「いや、この場合、ミウラの方が、無属性魔晶石の使い方に長けていると取るべきでござる」
『技術的に、難しいとは……。ここの人達、クリアーから属性を付けて攻撃魔法を打ち出す事が出来ないんですか? 複層呪文を構成するだけなんですがねぇ? あー、特に新しい情報は仕入れられませんでした』
なにかと上から目線のネコである。この数年後、隠し子問題で大いにやらかすとは露知らずでございます。
「言わば、使い勝手が悪い魔道具。無属性魔晶石を最も使う職業は、魔道の研究者だったりします。私の様にね!」
再び、なまず髭を捩る老魔法使い。
『使い勝手が悪い。イコール不人気商品ってことですか』
「老師殿、使い勝手が悪いということは、市場価格が低くなっているのではござらぬかな?」
老師というワードに、敏感に反応する老魔法使い。
「えへん! それもございますが、ダンジョンに潜れば、必ず一個は持ち帰れる程の高出現率なのです。消費を供給が上回ってる事が、値崩れの現状でしょうな。ですので、市場に流す意味が無く、結果、出回りません。これは二つ目の質問に対する答えでもあります」
供給とバランスの問題が、ここ異世界でも通用するという世知辛い話であった。
『旦那、無属性の手に入れ方を聞き出してください。なるべく安く大量に手に入る方法を』
心得たとばかりに、そっと頷くイオタ。
「拙者ら、個人的な装飾品を作ろうとしているところでぇー、無属性魔晶石を飾りつけように、それなりの数ぅー、求めているのでござるよー。あー、何か良き方法はござらぬかなー?」
耳を垂らし、眉を下げ、困ってる風全開の小芝居をするイオタ。
「おっふ! 強い……もとい、それなら良い方法がございます」
老魔法使いが言うには、浅いダンジョンにでも潜れば、どうとでもなるとのこと。
冒険者ギルドへ採取の依頼を出せばよい、とのこと。格安で手に入るそうな。
特にお勧めはヘラス王国の西にあるエピロスの町。そこにあるダンジョン、その名も「魔晶石のダンジョン」という、難易度中部類のダンジョンがあるらしい。
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